第350話:ウェイロス~花火師の町~

 ドーン、ドーン。

 この花火の音が聞こえると夏も半ばという気分になってくる。

 涼しい格好で屋上へ上がり、町を見下ろせば観光客がいっぱいだ。

 打ち上げ場所は結構離れているのに、ここまで火薬の臭いが漂ってくる。

 青い夜空に色とりどりの光が散らばり、様々な形状の花火が浮かんでは消えていく。

 ここは花火師の町、【フラウディ】

 年がら年中様々な花火が撃ち上がる、花火師たちの暮らしている町だ。

 といっても、住人の数倍の観光客が常に出入りしていて、花火干渉目的に定住している者も多いので、この町に住んでいる花火師は町にいる人間の数パーセント程度しかいない。

 彼らは毎日毎日新しい花火を考えては打ち上げる。

 時期によって撃ち上がる花火の種類は変わるが、基本的に毎夜花火が上がっている。

 今の時期だと今上がっているような火薬と金属を使った炎色反応とかいう原理でカラフルな模様を作る花火が多い、だいたい科学文明世界の花火だな。

 もう少し前の時期だと、魔法花火が多くなる。

 炎魔法を空に撃ち、最近のレベルが高いものだとぶつけ合ったりして爆発を起こす、空気中のマナと反応して幻想的な光り方をするものが多い。

 そんな感じでいろいろな文化圏での花火が楽しめるのがこの町だ。

 毎夜毎夜ドカンドカンと打ち上がっているからこの町に住んでからは夜に花火を見て昼に寝るようになってしまったが、生活習慣なんて環境によっていくらでも変わる。

 この町に最も適しているライフスタイルが昼寝て夜花火だったというだけだ。

 さて今夜の花火も終わったことだし、明日の自分の花火を打ち上げ場所に運びにいかねば。

 今日のよりも凄いやつを見せてやる。

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