第340話:ユリオン・ミウスⅡ~ガチャ箱の大当たり~

「やぁおやじ、また挑戦させてもらうぜ」

「物好きだなあんた、ここまで通いつめるやつは初めてだ」

 以前、出会ったガチャ箱のおっさんのところに俺は毎季収入がある度に通っていた。

 当たるときもあれば外れるときもある、だいたい稼ぎは、まぁ、全体で見たら多少マイナス、当たるときはがつんと当たるが、ハズレるときはとことん外れる、その割合が多少ハズレに片寄っている、そんな感じだ。

「さて、今日はどんなものがでるかね?」

「さぁどうだろうね」

 俺は通いつめるうちに箱の開け方に拘るようになった、開け方によって少しいいものが出る確率が上がるような気がするからだ。

 携帯端末デバイスを取りだし、まずは深呼吸、箱に近づくときは左足から、右の手の親指と小指を除いた三本の指で持った携帯端末デバイスを斜め45°の角度で箱に当てる。

 カチャリ、箱の鍵が外れる音がする、この音はたぶん当たり、中の物によって音が多少変わる、ような気がする。

 まだ慌てない、確認するまでは中身はまだ不確定、ここでルーティーンを外せば途端にゴミに変わる可能性だってある。

 箱に触れるのは親指と中指だけ、ゆっくりと、蓋を開ける。

 入っていたのは、豆。

「はずれか」

「いいや、こりゃあとんでもねぇもんが出たもんだ」

「何か特別なものなのか?」

「こりゃあ、世界樹の種だ。概念的類似品じゃなくて、ほんもんの、育てば世界の柱になるとんでもないもんだ」

「世界樹、ってのは聞いたことないがそんな大したものなのか?」

「とある類似世界系ではまずこの種があって、そこに世界樹が芽吹く、そんで世界が生まれるとされる程のもんだな、世界樹とは言うが、実質世界の種だ」

 よくわからないが、とんでもない品だって言うことはわかった。

「で、いくらで買い取ってくれるんだ?」

「こんなもん俺が買い取れるもんじゃねー、値をつけて売りたいってなら、役所に持ってきな、たぶん買い取ってくれる」

 そんなに大層なもんなのかこれ、普通に豆にしか見えないが。

「そんなに言うなら、持ってってみるよ、ありがとうな」

 言わずに回収して自分が売りにいけばいいのに、そう思ったが、言わない。



「ど、どこでこんなものを!?」

 おっさんの言うとおり役所に持ち込んでみたら、奥野へ屋に連れ込まれ、お偉いさんっぽい奴等数人に詰め寄られた。

「あー、拾った」

 なんとなく、正直に言うとあのおっさんに迷惑がかかりそうだったし、言わないでおこう。実際拾ったのと大差ない。

 というか、あのおっさんこうなることがわかってて買い取らなかったな、別にかばう必要はない気がするが、普段の恩もある、あるか?

「拾った場所と状況を詳しく申告してください」

「お、おう、散歩してたらだな、道端に落ちてたんだよ、だいたい、シェクソ通りの3ぐらい、セクミン屋がある辺り。視界の端になんか引っ掛かって気になったから拾ってみたらよ、通りすがりのおっさんがそれは役所に持っていくといいぞって言うもんだから、持ってきたというわけ。そんな大層なものなのか?」

 俺のごまかし含めた問いに、だいたいガチャ箱のおっさんが教えてくれたようなことを口々に教えてくれた、あいかわらず類似世界系だとか概念的類似品だとかの意味のわからない単語はわからないままだが。

「役所で買い取ってくれるって聞いてきたんだけど、だいたいいくらぐらい?」

 気になるところはそこだ、世界を作れる種だとか、そんな話には微塵も興味がない、俺はいくらで買い取ってくれるか知りたいだけだ。

「そうですね、これほどの物となると……」

「やはり、これになりますね」

 そう言って差し出されたのは一枚のカード。

「これは?」

「無限に支払いに使えるカードです」

「使いすぎて請求が来ることは?」

「ありません、俗な言い方をするのであれば、好きなものを好きなだけてにいれることができるカード、とお考えください。まぁ、値段のつかないものはさすがに買えませんが」

「なるほどね」

 つまり、これさえあれば、ガチャ箱が開け放題ってことだ。

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