第339話:ユラゴニーク=リクース~全自動機械都市の主~
私の住んでいるこの城に、ヒトは私しかいない。
城と言っても、殆ど工場で、私はその工場の管理者。
殆どの設備が資材の発注から生産、出荷、メンテナンスまでが自動化されているこの工場でやることは機械の監視チェック、設備の増設、あとはまぁ、個人的な雑事ぐらいだ。
60年程前に、私はこの城を前の主より譲り受けた。
当時の私はとても喜んだ、この城にいれば何でも手に入るし、何でも作れた。
しかし、それは呪いだった。
今日はきっと特別な日だ、私の城へ客人が来た。
「ようこそ、わが城へ。歓迎しよう、ヤナロ博士」
彼女はヤナロ博士、先日、どうやったのかは知らないが、私の城の緊急連絡回線に着信が入った。
常時全てのシステムを監視している監視システムが自動保全システムでは対応しきれない異常を検知した時にのみ使用される連絡回線だ、鳴った時は驚いたが、話が聞きたいとのことだった。
これは、チャンスだと私は思い、彼女を私の城へ招待したというわけだ。
大きく分厚い鋼鉄の門に大層圧倒されていた様子だったが、中へ入ると興奮しっぱなしだった。
「わー!自動人形があんなに、噂は本当だったんだ!」
「自動人形がそんなに珍しいかい?」
この城の運用はあれらがほぼ担っている。製造も大して難しくはない、この城以外でも運用されているだろう。
彼女は何をそんなに珍しがっているのだろうか。
「だって、自動人形の製造は試験的にも成功した例がないんですよ」
「なんだって?自動人形が実用化されていない?なぜだ、ここにはこんなに」
「ご存じないんですか?」
「ああ、かれこれ60年はこの城に籠りきりだったからね」
「60年!?そんなにもここに?」
ああ、そうだ、この城で60年、外のことはほとんど何も知らずに過ごしてきた。
「この話はもういい、それで、何の用があって私を訪ねてきたのかね?」
そうだ、本題、彼女が訪ねてきた理由、そして後継者にできるかどうかだ。
「そうでしたそうでした、理由はまさしくあれのことなんですよ」
と指したのは自動人形。
「あれをどうやって実用レベルで作ったのか、という話を聞きたくて来たんですよ」
「あ、ああ、そういうことか。自動人形の設計図なら、持って行ってもらって構わない」
データを呼び出して、彼女に渡す。
「いいんですか?」
「ああ、いいさ。秘密にしておかなければならないものでもない」
「わーありがとうございます」
「君は、それを何に使うのかね?」
この返答次第、返答次第によっては、彼女を私の跡継ぎにできる。
「この世界で、新しい生命を造るんです。自動人形も、人工生命体として広義では生命ですし、研究所ではどうしてもうまくいかなかったんです」
ああ、だめだ、彼女は私の跡継ぎにはできない。
彼女の目的は、この城に拒絶されてしまうだろう。
「そうか、その設計図が役に立つかどうかはわからないけど、新しい生命、造れるといいね」
私は、なんとかその言葉、言うべき言葉を飲み込んで、その言葉を言った。
そして、先代が言っていたことを思い出していた。
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