第335話:ノルン、他〜納涼肝試し大会後編〜
ノルン
今日はトーカさんに付き合って、私がこの世界で最初にいた森に来ています。
どうやら、肝試し大会をするそうで、その開幕のスピーチを頼まれたとかなんとか。
主催者のヒトのスピーチが終わって、トーカさんの番が来た。
「どうも、死の研究所のカクリテ=トーカです。私たちがこの肝試し大会なんていう催しに協力しているのには理由がありまして、今しがた主催者のモンス氏が言ったように、幽霊っていうものが最近見つかったんで、ずーっと暇だったうちの研究所もようやく仕事が増えましてね。えー増えすぎましてね、元々仕事がないことが前提だったうちは、今、死ぬほど人手不足でして、この肝試し大会で幽霊を見ることができるヒトっていうのをついでに探そうっていうのが目的です」
そう、最近研究所に幽霊が増えたらしく、管理できるヒトが全然足りないらしいのだ。
増えたらしいっていうのは私には霊感というものがないのでその増えた幽霊を見ることができないからそう言うしかないからなんだけど、トーカさんやラッカさんが言うには増えたらしいのだ。
新人研究員を増やそうという目的があるのだ。
トーカさんの隣でずっとふわふわしている私を見ることができているヒトがいなさそうだし、たぶん失敗だとは思う。
トーカさんのスピーチは終わったらしく、マイクを返された主催者のヒトが話の続きを始めた。
あれ、私の方を見ている子がいるような?
メーティカ=メーティカ
「というわけで、この大会は死の研究所のスカウト会も兼ねているというわけで、カクリテ氏が言うにはこの森は幽霊でいっぱいだそうだ」
常連のモンスさんがこんな大会を主催するようなヒトだとは知らなかった。
ていうか、幽霊って本当にいるのかな?
「メイナムは幽霊っていると思います?」
一緒に来ていたメイナムに話しかける。けど、メイナムはこちらを見ずになにもないところを見ている。
メイナムの向いている方へ視線を向けても何もない。
メイナムは、虚空に向けて話しかけ始めた。
「あなたが、幽霊なの?」
メイナム=メーティカ
「そうだよー」
目の前のそれはなんのことなしに答えた。
隣にいるメーティカには見えていない。私が突然何もないところに話しかけて驚いている。
それにしても、この幽霊、幽霊についてほとんどなにも知らないな。
この幽霊自身幽霊を見たことがないというのが、ビックリした。
それでも、幽霊が実在して、他にもたくさん幽霊がいるらしいということはなんとなく知っているみたいだ。
そのまま、ふわりとステージ上に戻っていってしまった。
まぁ、知れることも大して無かったし、いいか。
死の研究所のヒトに話しかけられたら知らん顔をしよう。
カクリテ=トーカ
「トーカさん、トーカさん」
いつのまにかふわっといなくなったと思ってたノルンが戻ってきていた。
首に縄でもつけておくべきだったか。
「どうした、ノエラ」
「私を見える人を見つけました」
でかした、と心の中だけで呟く。
誉めるとこいつは付け上がるからな。
「どいつだ」
「あそこにいる子供です!」
ノルンが指差す方を見ると、なんか変な雰囲気を纏った子供がいた。
あれかな。
スピーチも終わったし、ちょっと見に行ってみるかな。
「やぁ、君、ノルンが見えるんだって?」
ノルンが示した子供のところへやって来た。
「え、なんですか?」
子供の隣にいた女性が驚いている。
「いやぁ、この子、幽霊が見えるみたいだから」
「幽霊なんて、見えない、けど?」
「え、」
それは誰の声だったか、私も漏らしたような気がするし、ノルンの声だったような気もする、目の前の女性だったかもしれない、もしくは、この子供を除いた全員か。
アイルーテ^ミテル
結局、大肝試し大会は失敗に終わった。
誰一人として幽霊は見えず、単純に暗い森を歩くだけのイベントで終わってしまったからだ。
死の研究所のヒトも、収穫は無かったと残念そうに帰って行った。
まぁ、何人かはかなりビクビクしながら歩いていたから成功といえば成功なのかもしれないけどね。
会場の撤収を終えた業者のヒトが帰り、モンス君も最後に僕へ一言だけ言って帰っていった。
今この騒がしい森に残っているのは僕だけだ。
協力してくれた皆に礼をして僕もそろそろ帰ることにしよう。
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