第290話:スクリア~僕も好きだと返せなかった男~
あー、死にてぇ。
いや、死んだんだけども、生まれ変わってすぐにはずか死しそうだ。
僕の最後の言葉は「僕も君のことが……」でこっちに来て最初の言葉は「好きだったんだ」だ。
たぶん、伝えられてない。
僕は学生の頃に僕を好きだと言ってくれた女の子に対して愛の告白のを死ぬまで引っ張った末に伝えきる前に死んでしまうという大失態を犯した。
そのため、僕も彼女も70年もの間結婚することも、だれとも結ばれることもなく過ごしてきた。
彼女は僕からの返事を待っていたのだろうし、僕も機会をうかがっていた。
実は何度も機会はあった。
最初は彼女が遠くへ引っ越してしまうと知ったとき。
この時初めて僕は彼女へ恋したことに気づいて空港まで走った。
しかし、間に合うことなく彼女は外国へと飛び去ってしまった。
もともと見送りに来てほしいとは言われていたのに、僕は悩みに悩んで時間に遅れた。
これが最初の失敗。
その日は日が暮れるまで空港の近くのベンチで項垂れていて、どうやって帰ったかも覚えていなかった。
その後もメールでのやりとりはしていて、何度も「僕も君を好きになってしまったみたいだ」と書こうとした。
でも、物理的な距離は遠く離れてしまっていて、今告白しても彼女を苦しませるだけだと思った僕は今まで通り平静を装ってメールを返していた。
この間、僕は常に胸に酸の入った肉の袋を抱えているような痛み、本当の痛みではないが、喪失感なのか後悔なのか、もしくは両方かが混ざった痛みを胸に抱えて過ごしていた。
そんな苦しい日々は唐突に終わる。
彼女が帰ってくるというメールを送ってきたのだ。
僕はこれはチャンスだと思った、空港で待ち構えて告白をする。
苦しい日々の中で僕はどうやって彼女に告白するかをずっと頭の片隅で考えていた。
彼女がいった国へ自分も行くという案もあって、お金を貯めたりもしていたが、彼女が帰ってくると聞いて、空港へ迎えに行くという考えがすぐに生まれた。
以前の後悔にまだ胸を焼かれている僕は、彼女が到着する予定の便の一時間も前に空港の待合室に行き、彼女が帰ってくるのを待った。
そして一時間と少し経って、彼女が出てくるのが見えて声をかけようとして、僕は動けなくなった。
彼女の隣には外国人のイケメン、彼女の腕の中には赤ん坊が抱かれていたのだ。
出待ち作戦なんてものはこれ以上継続できるはずがなく、僕はかつてと同じように、気づいたら家で朝を迎えていた。
後日、イケメン外国人は単に向こうでの友人(彼女は男女関係なく友人関係を持つ、僕とも最初はそういう友人の関係で仲良くしていた)でシングルファザーの彼の旅行とこちらへくる日程が被っていたため一緒に来ただけとのことだった。ついでに僕のことがまだ好きだからと言っていた。
久しぶりに聞いたその言葉に僕は心臓が止まる思いだった。
そして「僕も」という返事を言いそびれたんだ。
それから何十年も僕は彼女への返事を言うチャンスをふいにして、病床につく。
そして、最後に彼女への返事を言おうとして死んでしまったのだ。
次に彼女と会うのはいつになるかわからないが、彼女がこちらの世界に来たら、彼女が僕のことを好きだと言う前に、僕は彼女に好きだと言いたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます