第286話:皇勇人ⅩⅣ~飛来する彗星~
「今日はなんのお祭りですか?」
魔物ハンターギルドに来たらなにか飾り付けが派手だ。
収穫祭の時を思い出すが、それとは趣が異なる。
あの時は赤や黄色の飾りが多かったけど、今日は青系のヒラヒラした飾りが多い。クラゲみたいだ。
「あら、勇人くんは知らないのね。来週、彗星が見られるのよ」
「彗星?」
彗星というと、でかい流れ星みたいなやつだよな。
この世界で空に浮かんでいる星は太陽1つだけで、夜空を彩っているのは空の向こうにある大地に住む人達の生活の光だと聞いたことがあるが。
「そう、彗星。なんでも数千年に一度しかこの街の辺りには来ないんですって」
へぇ、レア体験ってやつだな。
数千年に一度だけならお祭りになるのもわかる。
「彗星について詳しい話が聞きたいなら何千年も前からこのギルドにいる、えーと、あの人に聞いてくるといいわ」
そう言って指し示されたのはギルドホールの角で座ってギターとウクレレを足して2で割ったような楽器を弾いて人だかりを作っている青年だった。
見た目は数千歳には見えない。
近づいてみると、弾き語りをしているのが聞こえてきた、どうやら彗星について歌っているらしい。
『2つの大地を繰り返し廻る蒼い流星、来る度に災いと祝福をもたらす、地下の災いを空へ、空の祝福を大地へ、後に残るは喜びか悲しみか、どちらかを連れて彼方へと、廻る廻る廻る――』
内容としてはこんな感じの詩だ。
曲もいいし、声もいい。
いつまでも聞いていたくなるような歌声なのだが、詩の内容が些か不穏ではないだろうか。
彗星は祝福と災いをつれてくる……?
祝福はいいとして、災いってなんだろう。
気になっているのは俺だけではないようで、美しい歌声を聞きながらも微妙な顔をして考え込んでいるヒトが結構いた。
「ちょっと、吟遊詩人のお兄さん」
そうこう考えていると、詩を聞いていた一人が吟遊詩人、歌っていた青年に話しかけた。
演奏と歌が止まり、聞いていた一部のヒトは顔をしかめた。
「なにかな?」
青年は応えた。
「今の詩に出てきた祝福とか災いっていうのはどういう意味なんだ、具体的な話が聞きたい」
俺も聞きたい、ギャラリーの中には同意するヒトも多く、少しざわつく。
「ああ、それのことか。そう気にすることではないさ。星がもたらす災いも祝福も、ヒトが生きるのにいい刺激と潤いになる、ただ、少し不幸な目に遇うヒトもいるかもしれない、その程度のことさ」
「よく分からないな、具体的にその彗星は何を地下から持ってきて、何を空から持ってくるんだ。あんたは前の時にもこの街にいたんなら知っているだろ」
それには皆同意しているようで、それぞれの同意や肯定を示すしぐさをする。俺も首を縦に振る。
「仕方ありませんね、詩ではないですが少し語らせてもらいましょう」
そう言うと青年は楽器を置いて語りだした。
「彗星は魔物を呼ぶのです」
「魔物を?」
「あの彗星は空を回っている訳ではなく、普段は地面の下を飛んでいるのですが」
左の手で地面を表し、右手の指で彗星の軌道を示す。
指は左手の下にある。
「こう、渦を巻くような軌道で特定の場所から地上へ出てくるのです」
くるくると、指を回して渦を描く、時々指先が左手を越える。
「この時、地上へ飛び出した星は空の向こうの大地に潜り込み、また向こうの大地を飛び出しこちらの大地に飛び込んでくるということを繰り返しているのです」
左手を上げ下げして向こうの大地とこちらの大地を示す。
「そして、こちらの大地から飛び出す際に、星の通り道となっている穴を隅かにしている魔物が地上へ溢れ出てくるのです、これが災い。まぁ、皆さんなら特に苦戦することはない程度の魔物達です」
「なら祝福は?」
誰かが聞く。災いを聞かされたら対の祝福の方も気になる。
「向こうの大地を飛び出した星が地上へ逃げ遅れた魔物のをこちらへ運んでくるのです、この魔物の肉が非常に美味でして」
なるほど、地下から地上へ溢れる魔物が災いで空から星が運んでくるうまい肉が祝福か。
「じゃあ喜びってのはなんとなくわかるが悲しみってのはなんだ。別に溢れてきた魔物がかなり危険ってわけでもないんだろ?」
「悲しみというのは向こうからもたらされる肉を得ることができなかったときの悲しみでして。この世界に来て5度、星の巡りを経験しておりますが内の2度は食べること叶わず、悲しみに暮れる程の美味なのです」
それ以上は質問も出ず、青年はまた楽器を鳴らし、歌い始めた。
話を聞いていた皆は、話を聞く前とは違い全員が微妙な顔をしていた。
その翌週、空へ昇っていく彗星を見てその美しさに感動し、数日後に向こうから帰ってくる時に持ってこられる魔物をなんとかして得ようと思ったが、とんでもない高値がつくことを聞かされて諦めざるを得なかった。
彗星は俺に悲しみを残していった。
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