第276話:カラメ・ケイナ~やる気のない方のカフェ~
「なぁ、ケイナよ」
「なんですか、店長」
いつもに増して気だるげな店長がカウンターに体を預けながら話しかけてくる。
「なんでうちには客がこねーんだ?」
「店長がそんなんだからじゃないですか?」
店長はいつも気だるげで、見るからにやる気がない。
その気だるげオーラが店の外にまで漏れているからあまりお客さんが来ないんだと思う。
「7つ向こうの暴力喫茶店には最近、結構客が入ってるってのによぉ。んでだろうな」
この店の近所には別の喫茶店があり、一年前まではこの店と同じ様に、客は殆どいなかった。
そこが最近になって繁盛し始め、といっても一日に来るお客さんは一桁こればいい方、といったところだが、それを受けてこのいつもやる気のない店長も危機感を抱いたのだろうか。
「あっちのお店はなんだかんだ言って、どんな世界の飲み物でも揃えてるっていう強みがありますし、あそこの店長さんは若くてかわいい女性ですし」
「若くてかわいい女の店員ならうちにもお前がいるじゃねーか」
「え、」
いきなりそんなことを言われると照れる。
「まてよ、もしかしたら異世界平均をとるとケイナはそこまでかわいい部類には入らないのかもしれんな、客が少ない理由はその辺にあるか……?」
「間違いなく、店長のやる気がないせいです」
店員の容姿は関係ないはずだ。
「ちょっと、向こうの店に行って最近の繁盛の秘密でも聞いてこいよ」
「教えてくれますかね」
「大丈夫だろ、あっちは別に儲け出すって目的もないはずだし」
店長は向こうのオーナーとも知り合いらしく、経営事情はよく知っているらしい。
繁盛の秘密は知らないみたいだけど。
「わかりましたよ、行ってきます」
「という訳なんですけど」
「大変ですね、ケイナさん」
「でしょ?本当にあの店長がやる気出せばあの店は大繁盛間違いなしなのに、まったく」
秘密を聞きに来たはずが愚痴を聞いてもらってしまっていた。
メーティカはずいぶんと聞き上手だ。こういうところも客を読んでいるのかもしれない。
「信頼してるんですね」
「そりゃあ、そうでもなけりゃあんな店長のところで働いてないですよ、なによ、その目は」
チビっこが変な目で見てくる。
「べつに、なんでもない」
「最近メイナムは相手の言われたくないことは言わないってことを学んだんですよ」
「はぁ?」
言っている意味がよく分からないが、今日はこんなところだろう。
帰って適当に繁盛の秘訣は美味しい料理だとでっちあげて伝えた。
店長は「味では負けてないんだがなぁ、むしろ勝ってる」と自信ありげだ。
実際のところ、本気の店長の作る味はどこよりも美味しいと私は思っているのだ。
やる気さえ出せば、の話なのだけど。
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