第251話:カイ・サクレⅢ〜廃蒸気都市〜

 今日のターゲットはヌヌヌカムの廃都。

 噂では遺跡にありがちな罠の類いが一切なく、手頃な遺跡だと聞く。

 本来、そんな手頃な遺跡は俺のターゲットではないのだが最近盗り尽くされたという噂を聞いたら俺の出番だ。

 出番というか、単に俺がそういう遺跡を狙い目だと感じているだけなのだが、本当にレアな物は人の意識の外になるところに隠れている。

 つまり、初心者が気づいていないだけで価値のあるものが隠れている可能性が高い。

 ヌヌヌカムの主流技術は蒸気工業。

 出てくる品は既知の蒸気機関のレベルよりも少しだけ高いもので、うまく行けば超高圧縮された蒸気タンクが見つかるかもしれない。

 更に小型ボイラーの類いが見つかれば最高。


 さて、そろそろ入るか。

 ヌヌヌカムは規模としてはあまり大きくない鉄の塔だ。

 いや、塔としての規模はとんでもなく大きいが都としての規模はあまり大きくない。

 少し大きめの街を上に伸ばしたようなものだ。

 放棄されて長く、手入れされていない塔の外壁は錆びだらけでボロボロだ。

 いつ崩れるかも怪しい。

 侵入を拒むものは誰もいないのだし正式な入り口から入ってもよいのだが、そこは既に門を開ける機構が崩壊しており、今では少し高い位置にある換気口に梯子がかけられていて

 、ここから入るのが一般的になっている。

 中は蒸気機関によるギミックが随所に仕込まれているが殆どは既に機能していない。

 扉も蒸気機関による自動式だったはずだが古くなって壊れていて、そのほとんどが探索者によって破壊されている。

 空いている部屋は盗り尽くされているから無視だ。

 この遺跡、もとい塔は中央に上位階級が住んでいた最上階へ向かう蒸気エレベーターがあるがそれも壊れているし、最上階には用はない。

 そんな分かりやすいところも盗り尽くされている。

 俺が向かうのは逆、最下層、地下だ。


 蒸気エレベーターの縦坑、後付けされた上へ上っていく上昇流の脇にロープを掛け、ゆっくり降りていく。

 予想が正しければこの下にこの塔の心臓部があるはず。


 ロープを降りきると壊れたエレベーターの篭や瓦礫が積もった床、に見える大隔壁があった。

 足元から感じる熱量的にボイラーは稼働している。

 それにしても、まだボイラーが稼働していて蒸気を作り続けている割にはどこからも漏れたりする音は聞こえてこない。

 他はともかく、蒸気を扱うことには非常に長けた世界だったんだろう。

 さて、そんな世界のボイラーの正体でも拝みますかね。


 まさか、ボイラーの熱源が地下溶岩流だとは。

 持って帰れるものではないが、ここへ来るルートを研究者に売り付けて案内してやればけっこうな稼ぎにはなるだろう。

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