第227話:ウナ・ローンⅥ〜技術を育てるもの〜

「助手君、どうなっているんだ!」

「え、何がですか?」

 最近はなんだか気がのるのでいろいろな開発に手を出しているのだが、問題が起きた。

「何をとぼけたことを言っているんだ、開発費がもうすっからかんじゃないか」

 そう、研究費が無い。

「ええ!嘘でしょ?」

「嘘な訳あるか、これを見てみろ」

 助手君にデータを送って見せる。

「えぇ……、本当だ。なんでだろ?」

 どうやら助手君も把握してなかったらしい。

「あの、魔機工技師のやつから貰った金はどうした?」

「7割うちの研究費になったはずですけど」

 3割は他の研究室を納得させるためにやったのだったな。

「おおよそ6000万パソだぞ、半年で無くなるのか?」

 去年一年間の総研究費は約8000万パソ、6000万パソが半年経たずに無くなるなんてことはない。そもそも、4季分の支給もあったはずだ。

「……あ」

「どうした助手君、何かわかったか?」

 収支表を確認していた助手君が何かに気づいたようだ。

「室長、原因がわかりました」

「おお、なんだった?」

「原因はですね、室長です」

「なに?」

 私が何か無駄遣いでもしただろうか?いやしてない。

「私の何が原因だ?」

「えぇっとですね、非常に言いづらいんですけど、最近の室長がやる気を出してどんどん新しい物を開発してるため、前季の成果で賄いきれないレベルで使っているのです。もちろん貰った分もガンガン使ってます。先日の疑似空間拡張装置の開発ですっからかんですね」

「あー、あれか。まさかやる気を出したから研究費が足りなくなるとは」

「皮肉な話ですね、とりあえずあまりお金のかからない研究でもしますか?」

「助手君、こんな言葉を知っているか?『技術を育てるのは金だが、技術の足を引っ張るのもまた金なのだ』」

「誰の言葉ですか?」

「今の私の言葉だ、どっかの世界の誰かが言っているかもしれんが知らん」

 思い付いたから言ってみただけだ。

「なんで今」

「金がなくなって足を引っ張られた、つまり私はやる気を失った。帰って寝る」

「え、ちょっと待ってくださいよ!」

「次にやる気を出すまでにお金を貯めといてくれ」

 そう言って、私は研究室を出た。

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