第212話:コムノ〜闘技場〜

 カインッ

 鉄の拳を打ち合わせる音が響く。

 半径50クロンの円、俺と奴だけがその中ので睨み合っている。

 奴の武器は鉄籠手、こちらは双小鎚。

 今の20クロンの距離は俺の方が有利な間合いのはずだが、攻められない。

 カインッ

 奴はまた拳を打ち合わせる。

 近づけばあの鉄拳がそのまま打ち込まれるだろう。

 奴からは近づいてくる様子はない、どうしてもこちらから動かざるを得ない。

 カインッ

 奴が拳を鳴らす間隔が徐々に短くなっていく。

 カインッ

 奴の鳴らすその音が俺の焦りを加速させる。

 カインッ

 カインッ

 カインッ

「ウオォォォォオ!」

 俺は限界に達した。

 奴に隙は見当たらないにもかかわらず、左手の小鎚を奴に向けて投げた。

 それを避けるなり弾くはじくなりしてできた大きな隙を狙って距離を詰め、右の小鎚を叩き込むのが俺のいつもの戦い方だ。

 投げてしまったものは仕方ないと、いつものように飛び込む。

 焦りのせいで体勢は崩れ、いつもよりも勢いがない。

 隙だらけだ。

 奴は俺が投げた小鎚を前に倒れ込むように避け、そのままこちらに突っ込んでくる。

 だめだ、この勢いだと俺が避けきれない。

 小鎚を振るうのも間に合わない。

 奴の鉄拳が腹にめり込む。

 こちらの突撃の勢いは完全に死に、右の小鎚も落とした。

 次の攻撃を避けることも叶わないだろう。

 せめてもと、衝撃に耐えようと考えたが追撃は来ず、俺は地面に倒れた。

「ぐぅ……、なぜだ……?」

 起き上がり、何が起きたのかを確認する。

 何故か、攻撃を仕掛けてきていたはずの奴が足を押さえて蹲っている。

 よく見れば、俺の小鎚が足の横に転がっている。

 どうやら、俺が落とした小鎚が足に落ちたらしい。

 速さ重視の軽装、足元もほぼ裸足だったのが災いしたようだ。

 自分の足にいつも手に掛かる重みが落下するのを想像して、想像しなければよかったと思う。

 隙だらけだが、こちらも武器がない。

 素手で殴りに行こうものなら返り討ちに会うことは間違いない。

 仕方なく最初に投げた小鎚をを拾いに行く。急がなければすぐに奴も痛みから復帰するだろう。

 腹を殴られた痛みにより鈍った動きでなんとか拾うことができたが、振り向くと奴もちょうど起き上がっていた。

 カインッ……

 もはや、その音を聞いても焦りは刺激されなかった。

 俺も動きは鈍っていて、奴も自慢の足を負傷した。

 勝負はどうなるかもはやわからない。

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