第211話:インル~動物とヒトの境~

「お、わんこ。どっから来たよ?」

 街を歩いていたらヒトに話しかけられて撫でられた、嫌な気分はしないし撫でられる。

「俺はあっちの街から来たんだ」

 質問にも答えてやる。

「うおわぁぁあわあ!喋ったぁああ!」

 驚きすぎて逃げ出していった。

 犬が喋っただけであれほど驚くとは、やはりヒトの世では俺のような犬は喋らない者として認識されているのだろうか。

 言葉自体は翻訳機を用いて伝えているが、やはりどうも獣は知能が低くて喋らないという認識があるのだろう。

 確かにそういう認識で間違ってはいない。

 俺も姿は似たような者なのに知能が低く、言葉を持たない者も多い。

 そういった者達は翻訳機を用いてもヒトと意思の疎通などできない。

 俺から見ても獣だ。

 そう見てみると、俺はヒトなのでは?

 ヒトにもいろいろな姿の者がいるし、俺達に姿の近い者もいる。

 それならば俺もヒトと言っても差し支えないだろう。

 と、常々思ってはいるのだが、まぁ、ヒトにはヒト扱いされないのが現実だ。

 一応、ヒトとしての知識はそれなりに持っているし、携帯端末デバイスも持っている。まぁ、扱えるものではないのだが。

 何なのだろうな、ヒトと獣の境とは。


「おや、わんこ。どうしたんだいこんなところで」

「食事をいただきたい」

 ヒトの食堂まで行くと店主と思しき女性が話しかけてきたので食事を頼んでみた。

 俺は俺をヒトだと思っている。ヒトの食堂で食事をするのは当たり前のことだ、と思う。

「おや、あんた喋れるのかい」

「うむ、ご婦人驚かんのだな」

 珍しいな、俺が声をかけても驚かずに話を聞いてくれるヒトは。

「別に、驚くことじゃあないよ。この世界じゃあ何が起きても驚くことじゃない。例え犬が喋ってもね」

 なるほど確かに。

「で、食事が欲しいんだったっけ?」

「うむ」

「でもねぇ、あんた食事券持ってる? お金でもいいんだけど」

「うむ、もちろん持ってる。首輪に携帯端末デバイスがついている。それで処理してくれ」

 一応、俺もヒトとしての権利は得ているのだ。

 全く、ヒトと獣の境とは一体なんだろうか。

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