第210話:ノノノ〜月はないけど月見がしたい〜

『次の黄の日は、年に一度の白の日です』

 白の日、夜の色は毎日規則的に変わっているけどそういう特別な日もあるのか。

 白い夜、想像すると少しわくわくしてくる。

 わたしの世界では夜には空に大きな白い月が出て、それを見てお酒を飲む文化があった。

 この世界には月はないからやってなかったんだけど、うん、決めた。

 次の黄の日、改め白の日に、大お月見大会を開催することにしよう。

 普通のお月見ではない、大お月見大会だ。

 他にも月を見る文化がある世界はあるらしいし、そういった世界の様々な月見文化を集めていろんな人を集めて皆でお月見するという、大お月見大会なのだ。

 さっそく、わたし以外の運営者を集めるサイトを作った、SNSで拡散した、すぐに人が集まった。


「さて、第1回大お月見大会の会議を始めたいと思います!」

 ヒューヒュー、やんややんやと歓声が上がる。

 それを軽く諌め、進行を続ける。

「えー、ここに集まってくれた37名には感謝します」

 本当は100人以上の協力申し込みがあったが、同じ世界の人とか協力はするけど会議には出たくないという人が結構いてこの人数だ。

「来るべき白の日、わたし達はお月見文化をこの世界で再現します! そして、この大お月見大会を毎年白の日に開催する、定番の行事にしましょう!」

 うぉー!やるぞー!という声が上がる。

 なんだか大事になりすぎた気がする。

 この前説も、昨日会議のメンバーに連絡をいれたりいろいろなことを考えて寝てないテンションで書き上げたものだし、やり過ぎなような気もする。

 が、しかし、

 もう戻れる気がしないし、やるしかない。

「では、あまり時間は無いですがアイデアを出していきましょう」

 会議は、難航した。

 案外月を見るというだけの文化に纏まりがない。

 わたしのところは月を見て酒を飲む宴会だ、その気分で集めたのがよくなかった。

 異世界の文化はわからない。

 月が現れた日には合戦を行う世界や、月を見て吼える世界、月に向かって空に飛び出す世界もあった。

 第二回、第三回と会議を重ね、結局最終的に出た結論は、

「似たような文化の人が集まってブース作って好きにやりましょう」

 だった。

 第四回会議では場所を決め、時間を決め、出店やらなんやらを手配するとスムーズに進み、最初からこうしておけばよかったとか思ったり思わなかったりした。


 そして、白の日。

 広い平原に出店のテントが立ち並び、いろいろな民族衣装の人々が集い、なんだか武装をした人達(もちろん非殺傷武器だ)もいて、ロケットのオブジェも建っているという、よく分からない光景になってしまった。

 わたしは、何がしたかったのだろうか。

 結局、日が衰えて白い夜になってみてもあまり月っぽくはならなかった。

 しかし、宴会をする文化の人は月を見ず酒をのみ、戦う人たちも月を見る余裕はなく、吼える人たちもなんだかんだ酒をのみながら吼えていた。

 いまいち思っていたのとは違うが、なんだかんだで盛り上がったのでよしとしよう。

 そして来年もやろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る