第196話:キキン・キン〜雪の中を歩く話〜

 吹雪……、視界は白いまだらに被われ、足は雪に埋まり歩きづらい。

 低い気温は体温を容赦なく奪い、吹き付ける風によって雪の中に倒される。

 そういうものだった時代はどの世界にもある。

 今がまさにそういう時代の世界もある。

 この世界は当然そんな時代ではない。

 吹雪の中を歩く必要がある世界でもない。

 しかし、俺は吹雪の中を悪い視界の中、悪路に苦戦し、寒さに震え、吹き付ける風に転ばされそうになっている。

 なぜなのか、こんな吹雪の日に、こんな雪深い場所を、こんな夜に歩いているのは、なぜなのか。

 話は、昨日に遡る。


「もう、あなたからの仕事は受けません」

 いつも旅先まで転送してもらってなにかと迷惑をかけてる、レンタル魔法使いの人にそう言われてしまった

「そこをなんとか」

「もうだめです、今日ももう帰らせてもらいます」

「いや、まってくれ!」

 その直後に彼女は隙間を拡張して穴の中へ消えた。

 そのまま、転移して帰ってしまったのだろう。

 そして、雪原に俺一人で残された。


 以上が今の俺の現状だ。

 転移ゲートから遠い平原、今は大雪の時期で雪原になっている。

 出発したときはまだ雪は降っていなかった、腰よりも深く積もってはいたが。

 なんとかなるだろうと、たかをくくって歩き出したのが間違いだった。

 遺跡の中で知り合いの助けが来るのを待つべきだった。

 歩き始めて数時間が経ち、日が消え、風が強くなった。

 そして、気づけば吹雪の真っ只中を吹雪想定無しの装備で動くこともできずにいるというわけだ。

 これは、死んだかな。

 今まで何度も判断ミスをして、死ぬような目に遭ってきたわけだが、今回は本当にダメかもしれない。

 だんだん寒さも感じなくなってきた。

「んー? なんだ、おめぇ、大丈夫か?」

 幻聴か、こんなところに人が来るとも思えない。

「大丈夫に見えるならほっといてくれ」

 幻聴だからと悪態をつく。

「うーむ、大丈夫ではなさそうだ、家に連れていく」

 幻聴だと思った声を放った何者かに担がれて、どこかへ連れていかれるようだ。

 もうどうにでもなれ。

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