第197話:ナユ_サナクルⅣ~男女で一緒に暮らしててもこんなもん~

「ちょっと、あんた、着替えるんだからあっち行っててよ」

「おお、すまん」

 共有スペースでいきなり着替え始めるなよ、という理不尽さを感じながらもそそくさと部屋を出る。

 そういうやりとりが一緒に暮らし始めたころはあったものだが、今ではもう慣れたものだった。

「着替えるから」

「おう」

 これだけである。

 そして、部屋を出ていくわけでもなく、視線を向けずに返事をするだけだ。

 あいつもそれでいいらしく、着替えを始める。

 …………ふと、そういう現状に疑問を持った。

「なぁ、お前って女なの?」

「何言ってるの、当たり前でしょ」

「いや、だってお前、俺じゃん?」

 彼女は、一度の転生を挟んだ俺自身だ。

 体は女の物だが、中身は男なのではないだろうか。

「あー、そういうことね」

「どうなんだ?」

「20年も女として生きてきたんだから、元々男でも女になるよ。そっちの世界でも性転換した人とかいたじゃん」

「意図した性転換でなくともか?」

「意図したかどうかは関係ないんじゃない? だってあんたも死ぬ前は生まれ変わったら女になりたい!なんて思ってたぐらいだし」

「ん、それはそうだけどな、俺が思ってた女になりたいってのは」

「わかってるよ、かわいい女の子になってチヤホヤされたかったんでしょ? 残念だけどそうはならなかったなぁ」

 そういえば、前の世界で生きていたころのことは全部知っているんだったな、そりゃあ俺だもんな。

「あ、でも結婚はしたなぁ」

「うっそだろお前」

「ほんとだって」

「え、だってお前、そんなちんちくりんなのに?」

 かわいいとは思うが、見た目は5歳だぞ?

「死ぬ前は20歳だったんだよ、結婚したのは14歳ぐらいのとき、子供もいたし」

「俺が結婚だって……、しかも子供まで……、っ、男とか?」

「あたりまえでしょ、私は女なんだから」

「いや、確かにそうだが、俺が男と結婚……」

「そういえばあの子も今は今の私と同じくらいになってるのか、うーん、なんか妙な気分だなぁ」

「俺も相当妙な気分だよ……」

 もし、その子が死んでこの世界に来たら、俺との関係性はどうなるんだ。

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