第163話:イカルゲ_ナムナム〜封印されし大魔人〜

 う、ううむ。

 あれから何年経った?

 我が目が覚めたということは、封印が緩んだのだろうか。

 そもそも、なぜ封印されていたのだったか。

 思い出せない。

 一体今は何時なのか。

 封印された理由は思い出せないが、封印が解けたということは封印されていた理由が無くなったということか。

 では、世界を我が手中に収めに行くとするか。

 封印が解け、脆くなっている戒めを破り外へ出る。

「なっ、」

 なんだこれは。

 その言葉が口から出るのを寸でのところで抑えた。

 封印の外は知っている世界とあまりにもかけ離れていた。

 知っている、あらゆる生命の否定のような荒野ではなく。

 すべてを受け入れるような白い洞窟、洞窟ではないな、人工物か。

 封印されている間に周りをこんなものを建造していたのか。

「おはようございます、まず名前と年齢、元いた世界のことを聞かせてもらってもよろしいですか?」

 周りを眺めていると、一人の女が話しかけてきた。

 人間ではないな、肌の色が青く、頭部に角がある、このような生物は記憶にないな、長き時の間に生まれたのか?

「なんだ貴様は、封印の管理人か?」

「えー、【ナンダキサマハ・フウインノカンリニンカ】さんですね」

 冗談のような返しをしてくる。

 時が経ちすぎて我の脅威を忘れたか。

「言葉が通じんのか? こちらの質問に答えろ」

「私の質問にも答えてほしいんですけど? あなたが何なのか、それに興味はないですが私も仕事なので」

「そうか、ならば死ね」

 破壊の術式を発現させ、女の顔面に叩き込む。

 それは、バリンッという破壊音を響かせたが、女には届いていない。

「あー、そういうタイプの人かぁ、面倒だなぁ、もう、投げちゃいたくなりますよ、ほんと、というか、投げることにしますね、では、第二の人生をお楽しみください、ポチッとな」

 呆気にとられていると、女が何事かぶつぶつ呟いたかと思うと、いつのまにか持っていた箱の突起を押し込んだ。

 ぶぉんぶぉんという音と共に、周囲の空間が歪む。

 パチンと聞こえた気がした。

 目の前が真っ暗になったと思いきやすぐに明るくなる。

「なんだ?」

 周りの景色は変わらない。

 しかし、女は消え、いたのは一人の黒い肌をした大男。

「あー、今時大魔人系が来るなんて珍しいな」

「何者だ?」

 ただ者ではあるまい。

「あー、俺も他の世界で魔王と呼ばれていた者でね。こりゃあ、普通のやつじゃ話にならんな、まぁ、いいか。

 いくつか質問をするから答えてくれ。

 それに答えればあんたの疑問も解決する」

「いいだろう」

「まずは名前だ、別に真名を答える必要はない、通しの名前で構わん」

「イカルゲ_ナムナムだ」

「歳は?」

「わからん、数えていない」

「はいはい、不明と、これでいいですね、じゃああなたの疑問に答えましょう、なんでも聞いてください」

「そうだな、我が封印されてからどれぐらいの年月がたったのだ?」

「え、知らないですよそんなこと、あ、少し待ってくださいね? 調べれば出るかもしれない、出ましたね、あー、ずっと封印されたんですねだいたい3000年ぐらいです」

「そんなにも時が経っていたのか、技術も進歩するわけだ」

「ああ、それ違いますね、あなたのいた世界の文明の程度は3000年前と大して変わっていませんよ」

「先程から言っている、別の世界とか、我のいた世界とはどういう意味だ?」

「それも説明しずに跳ばしてきたのかあいつは…………。

 簡単に言えばですね、あなたは死んだということになります、理由は封印の効力か封印されたままトドメを刺されたのかはわかりませんが、どちらにせよ、あなたは死んでこの世界に生まれ直したということになりますね、理由もそのうち知ってる人が転生してくるでしょう」

「我が死んだと?」

「生まれ直したので今は生きていますけどね、あ、世界を手中に収めるとかそういうのはやめた方がいいですね、この世界は大きすぎますから、おとなしく怠惰に過ごすのがおすすめですね」

「我に世界を諦めろと?」

「うーん、現実を知れば諦めるんじゃないですかね? とりあえず、いろんな世界の元魔王さんの話を聞ける部屋があちらにあるので、そちらへどうぞ」

「何を言われようとも、我の野望は途絶えぬぞ?」

 案内にのって、狭い部屋に入る。



 少しの時をかけて、他の世界の魔王とやらの話を聞いたが、この世界を支配するというのは無理だ。

 我よりも力のあるものが多すぎる。

 それだけならまだしも、強さの桁が違う。

 さて、どうするか。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る