第156話:カヌペリ〜短い犬〜

 なんだあれ、犬か。

 街中で見かけるのは珍しいな。

 散歩していると、建物の影から犬が頭を覗いていた。

 いや、犬ってあんなに短いもんだったか?

 ヒョコヒョコと歩いて建物の影から全体が出てきて、思ってもいなかった姿だった。

 顔は知っている通りのものだったが、体が非常に短い。

 体長、3クロン程しかない。

 俺の知っている犬はあれの3倍ぐらいの長さがある。

 明らかに短い。

 本当に犬か?

 短い以外に知っている犬と異なる点は見当たらないが、短いだけで結構違う。

 犬ではないのかもしれない。

 そういえばここは異世界だ。

 この世界では犬は町中にいるのが当たり前で短いのが当たり前の世界なのかもしれない。

 そうなると、やはりあれは犬なのだろう。

 いや、やっぱり違うなあれは犬じゃないじゃない。

「お、犬だ。珍しいな」

 近くにいた人が犬?を指して言う。

 やはり、犬なのか。

 犬なのか?

 本当に犬だろうか。

 わからなくなってきた、この世界では犬は街中にいるとめずらしがられるということはわかった、わかったけども、やはりあれが犬だということはなっとくいかない。

 少なくとも俺の知っている犬ではないのだ、そう、犬ではない。

 あれは、犬ではない。

 犬は胴が長いものだ、それは間違いない。

「おー、犬だ犬だ。純粋な犬を見たのは久々だなぁ」

 誰がなんと言おうともあれは、犬ではない。

「犬じゃん、眉毛描こうぜ」

 眉毛を描かれていても、犬ではないのだ。

 そう、犬じゃないんだ!

 犬なのか犬じゃないのかわからなくなり、俺はその場を走って離れた。


「っていうことが、さっきあってさ」

 犬擬きで混乱して、待ち合わせに遅れた。

「それで遅刻したのか、別にいいけども、その犬なのか犬じゃないのかはっきりしない動物の写真とか撮ってねぇの?」

「あー、撮ってない。

 撮ってないけど写真とってる人はいたからグローバルネットに上がってるかもしれない、ちょっと探してみる」

 先ほど見かけた位置情報と、犬というワードで検索してみる、ついでに眉毛というワードも追加する。

 お、あったあった、眉毛を描かれた犬擬きの写真。

「こいつだよ」

「どれどれ? おまえ、こいつは」

 画面を覗き込んで言う。

「犬だろ」

「お前までそんなこと言うのかよ、犬ってもっと胴が長いだろ?」

「こういうのか?」

 そう言って銅の長い犬の写真を見せてくる。

 犬じゃなかった、近いが知ってる犬じゃない。

「俺が知ってる犬はこういうのだ」

 知っている犬の画像を見せる。

「なんだ、うわっ、気持ち悪、なにこれ、胴長すぎじゃね? お前の世界では犬ってこういうもんなんだな」

「お前の世界では違うのか?」

「むしろ、そんなに胴が長い犬がいるなんて初めて知ったよ」

 俺の知っている犬の方がおかしかったのか。

 いやそんな馬鹿な。

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