第154話:レレ・リリ〜夏らしくない常夏の街〜

「キレロ、キレロ」

「なんだい?リリ」

「暇」

「奇遇だね、俺もだ」

「この街には本当になにもないのね」

「ああ、夏しかない」

常夏の街【イルヴァンス】に来て数日が経った。

この街には本当に夏らしいものは一切ないらしい。

海も山も、墓地もホルモヌコも、なにもない。

辛うじてあるのは冷房だけだ。

キレロも私もこの街に来てから宿から出ずに、冷房の聞いた部屋にずっといる。

「なんのためにこの街に来たのかわからなくなるな」

「いえ、それははっきりしてます、寒さを殺すためです」

「殺すためじゃないよ、俺たちが逃げてきたんだよ」

「この街では寒さは死んでる」

「まぁ、そうなんだけど」

「寒さは死んで暖かさはあるけど、なにも無さすぎて生きている価値がない……」

「そこまで言うことないんじゃないかな 」

「ちょっと、散歩してくる」

「いってらっしゃい、日差しが強いから日傘を射していくといいよ」

「そうする」

応えて、部屋の出口にあった日傘を適当に一本引っこ抜いて宿を出た。


「本当に夏らしくない街なのね」

どこが夏らしくないと聞かれてもどことは言えないのだが、暑いだけで夏の雰囲気が一切ない。

単に世界の違いだろうか。

道に水を撒いている人も、やけに喧しい虫も、遠くに揺らめく陽炎も、なーんにもない。

本当に夏なのか怪しくなる。

そういえば、本当は夏ではないのだったか。

「本当に寒さがいない以外に生きている意味がない街ね」

「そんなこと言わないでくれよ」

独り言に返事をされた。

「どなた?」

「この街に昔から住む老人さ」

自分のことを紹介する気がないような名乗りだ。

「この街はね、別に常に夏を楽しむための街じゃあないんだ」

「ではなんのための?」

少しの間の暇潰しとして、聞くことにしますか。

「この街の中心にある、海は見たかい?」

「あれ、海じゃないって聞きましたけど」

「確かに海じゃないね、僕ら、街の者は海と呼んでいるがね」

「通称が海ということですか、では続きを」

「うむ、あの海はだね、この街周辺で使われている電気を産み出しているんだ」

「電気を」

「そう、電気だ」

「電気ってどうやって作っているんですか? 根元物質を反応させている炉だとは聞きましたが」

「そこまで聞いているのならば話は早い、簡単に話すと、根元物質を魔法によって分解すると、電気が生まれるんだ」

「魔法で根元物質をバラバラにすると電気が」

「僕も詳しくは知らないけど、根元物質は電気で構成されているらしくてね、分解してそれを取り出すっていう仕組みらしい」

「近づくと死ぬとも聞きましたが」

「ああ、危ないから根元物質が分解されているところを近くで見ようなんて考えちゃいけないよ、この街も、炉に人が近づかないように壁の役割で作られたものだからね」

「そうなんですか、面白い話をありがとうございました」

たぶん、キレロはそういうことに詳しいだろう。

帰っていろいろ聞いてみよう。

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