第137話:メルティクス〜吸血少女〜
「あの、あなたの血を吸わせてもらえませんか」
よく晴れた昼、私はお昼ご飯を飲むために、道行く人に声をかけていた。
私のご飯はもちろん血だ。
それも、直飲み以外はダメ。
できれば連続で同じ人というのも嫌。
そんな事情もあって、お店で売ってる食用血液パックに頼ることもできずに、こうして路上で血を吸わせてくれる人を探しているのだ。
しかし、どの世界でも吸血という行為に忌避感があるらしく、受け入れてくれる人が少ない。
吸血されると自分も吸血生物になったり、意識を乗っ取られたり、へんな病気になったり、痒くなったりと私の吸血ではそんなことにはならないのに、信じてもらえない。
前に吸わせてもらったときも説得するのはすごい大変でしたし、今日もそれくらい大変なのを想定していますが、全然吸わせてくれる人が捕まらなくて疲れてきちゃいましたね。
一旦喫茶店に入って休憩しましょう。
ドアを開けるとカランカランと小気味いい音が響き、最近肌寒くなってきた外に比べるとじんわりと暖かい空気が店内に満ちていた。
他にお客さんはおらず、店内には店員と思われる人が二人だけでボードゲームをしていた。
「いらっしゃいませ、カウンター席へどうぞ」
背の高い方の店員さんがそそくさと、カウンターの内側に戻り、案内してくれる。
小さい方の店員さんはボードゲームを片付けているのかと思いきや、相手の駒も自分で動かして一人で遊んでいた。
へんな喫茶店だなぁと思いながらもカウンター席に座ってメニューを見る。
メニューの最初に強調してルールと書いてあり、店員に対して失礼なことをすると叩かれるということが書いてあった。
本当にへんな喫茶店だなぁ。
「注文は決まってますか?うちはどんな世界のどんな飲み物でも用意できるというのが売りなんですよ。
料理も少しだけならあります」
「どんな飲み物もあるんですか?」
「ええ、ここのオーナーが知る限りですけど、殆どを網羅しているはずです」
すごい自信だ。
それより、どんな飲み物でもということは、
「あなたの血を吸わしてもらってもいいですか?」
言ってしまった。
こんなことを言ったら、このお店のルールで叩かれてしまうかもしれない。
「私の血、ですか?」
「そうです」
少し動揺しているようだけど、叩かれるということはなさそうだ。
飲ませてもらえるかな?どうかな?
「大丈夫、その子の吸血は、変な影響はない」
「そうは言っても流石に血を吸わせてというのはどうかと思うんですけど」
小さい方の店員さんは大丈夫だとわかっているようなのですが大きい方の人は肯定的じゃないですね。
「でも、さっきはどんな飲み物でもって言ってましたよね?」
「う…………、しかたありませんね。
いいですよ、どうやって吸うんですか?」
「首筋を出してもらえればそこを少し噛んでちうちうと吸います。あ、吸い終わったらちゃんと傷口は処理しますのでご心配なく」
「ちうちうと」
「そうです、ちうちうと」
「わかりました、ではどうぞ」
カウンターの裏から出て来て首筋を晒し、吸いやすいように屈んでくれた。
ありがたく、カプリと噛んでちうちうと血を吸わせてもらった。
うーむ、美味ですな。
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