第99話:テフロス*カタドニス〜万物の炉≠サウナ〜

 カーンカーンカーン

 鉄を打つ音が響く。

 ここは【ノクトスノームス万物の炉】、あらゆる世界の鍛冶師達の集まる工房だ。

 中心に無限の熱量を放出するコールネクトスという魔石の塊を使ったら無限炉があり、そこから熱量を伝達するパイプを通して数多くの炉に熱を送っている。

 大きな広間にそういった炉が並び、当然のように空間冷却などされていないので、とんでもなく暑い。

 この工房には、様々な奴がいる、ドワーフも、ミグモアも、ノームも、ハグナスシアも、土や鉄に縁のある種族ならなんでもいる。

 ここにはすべての世界の技術が集まり、お互いが共有し、研鑽を繰り返す、ここはそういう場所だ。

 そんな場所で僕は何をしているかと言えば、鉄を打つでもなく、鉱物を品定めするでもなく、かといって刃を研いでいるわけでもない。

 常に燃えている炉の近くに座り、ただただ、汗をかきに来ていた。


「そこの兄ちゃん、あんた、何しに来てるんだ?」

 上半身裸で腕を組み、炉の近くに座っていると、先程まで鉄を打っていたボロメニアの人に声をかけられた。

「汗をかきに」とは答えられない、以前そう答えたら汗をかくのなら鉄を打てと、無理やり鎚を握らされ、足に落とし怪我をした。

 僕にはそんなものを振るえるだけの筋肉などない。

 だから、「鎚の音が好きで」とか、「鉄を打つ姿を見に」とかで答える。

 そういう理由でここを訪れている人はたまにいるし、鎚の音が好きで鉄を打つ姿を見に来ているのも事実だ。

 それを伝えると、ボロメニアの青年は「暑さでやられないようにな」と、この暑さの中でも冷気を放つ石をくれた。

 ただ、僕の一番の目的は汗をかくことであり、この冷気を放つ石は不要なものなのだ。

 とりあえず心配してくれて渡してくれたのだし、返すわけにも捨てたりするわけにもいかず、お礼を言い首筋に当てる。

 おお、冷たい。

 熱を持った体をいい感じに冷やしていく。

 ボロメニアの青年は、僕の隣に座り、話しかけてくる。

 曰く、休憩に付き合ってくれとのことだ。

 僕も汗をかく以外にやることがないし、汗をかくにはここにいるだけで事足りる、むしろ汗をかいている間に何もすることがなく暇なのだ。

 二つ返事で了承する。

 彼は色々なことを話してくれた。

「俺は最近やっと自分の鎚を完成させたんだよ」

 彼の師匠曰く、自分の使う道具は自分で作るものだと、そのため、彼はここに来てしばらくは買った道具で、自分が使う道具を打っていたのだという。

 そして、やっと自分の鎚として扱うに足りる物ができたと思い、これから師匠に見せに行くのだという。

 まだ、師匠が戻ってこないのでそれまで休憩するとのことだ。

 それを楽しそうな顔で話しているのを聞きながら、僕も何をしにここに通っているかの話でもしようかと考えていると、彼の師匠が帰ってきたらしく、彼は「それじゃあ、またね」と言って行ってしまった。

 うーん、話そうと思った途端に行ってしまわれると、モヤモヤしたものが残るなぁ。

 とりあえず、なんの気なしに師匠のところへ行った彼の方を見ていると、せっかく作った鎚を炉に放り込まれてしまった。

 ダメだったみたいだな。

 今日はこれ以上汗を流す気分でもなくなってしまったので、帰ることにする。

 明日は彼に汗をかきに来ている話をするために、頭の中でどう話すかを考えながら体を拭き、上着を着て帰路につく。

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