第100話:リベル〜最悪の不死者〜
どうやら僕はついに死ぬことができたらしい。
らしい、というのも、死ぬ試みをした後に最初にであった少女から、「君は死んだのよ」と宣言されたため死んだとわかっただけであり、実際に死んだという実感は湧かない。
それはそうだ、生の肉体が存在しているのだから。
そういえばこの肉体のことで忠告されていたことがあったな、確か、もとの世界では不死であったとしても、この世界ではその不死性は失われてしまうんだとかなんとか。
教えてもらったことは記録しておこう、神としての能力は弱まりはしているものの、消えているわけではないようで、手帳程度の本ならば、生成することができるようだ。
いずれ、この世界の全てを記録したいものだ。
この世界の全てを観測して、記録の結晶、もしくはそれに類する物を作成している仲間が必要だ。
不死特性は無効になっているらしいが、種族としての寿命は反映されるらしいから、僕は何らかの影響で死ぬまで生き続けることができるのだろう。
前の世界と違うことは、好きなときに死んで終わりにできることか。
あてがわれた家には寄ることもなく、常に街を歩いて回り、目に入るもの全てを記録するという生活が基本になっていたある日、見覚えがある白い少女を見かけた。
はて?僕は永い時を生きたり、時の歪んだ城に閉じ籠ったりしていたから時間の感覚がおかしくなっていていつの間にやら、200年も経っていたのだろうか、と一瞬だけ考えたが、最近の記録を見返す限り、数日という非常に短い時間しか経ってないことがわかった。
それならば、あの白い少女は誰なのだろうか?
話しかけてみるか。
「テロリカ?」
彼女は振り返る。
間違いない、僕を殺した死神のテロリカだ。
「そうですけど、あなた、誰ですか?」
驚いた、あんなに僕を殺そうとしていたのに、僕を全く知らない振りをするなんて。
「何を言っているんだ、僕だよ、リベルだ」
「リベル?知らない名前ですね」
なんだ?僕の姿が変わっているわけでもなし、僕のわからない要素がない。
「君は死神のテロリカだろう?」
念のため、人違いである可能性を考慮して、この外見にこの特徴を兼ね備える人物が一人しかいないであろう特徴の有無を確認する。
「死神…………?なんのことだかわからないのですけど、もういいですか?」
どうやら、嘘をついている感じではない、根拠が彼女が僕のよく知っているテロリカであればの話なんだが。
しかし、なぜそれならば、死神であるということすら忘れてしまっているのだろうか。
考えられるのは二つ、彼女は同姓同名同顔の別人、それか、本当に忘れてしまっているか。
「あの、もう用はないのですよね?では、機会があればまたお会いしましょう。あなたの探している死神とやらのテロリカさんに出会えるとよいですね」
考え込んでしまった僕に、それだけ言うと、テロリカらしき少女は去っていってしまった。
とりあえず、今出会った少女の特徴は記録したのだけど、背丈、体重、その他の身体的特徴が殆ど一致するんだよね。
他人とは思えない。
本人ではなかったとしても、何らかの関係はあるに違いないと思うのだが。
「おう!お前さんはリベルか?」
後ろから張り手つきで話しかけられた。
懐かしい声だ。
「あんたは、前に僕を殺そうとしていた死神の」
そう、彼はテロリカの前に僕を担当していた死神で、そういえば名前は最後まで名乗らなかったから、知らない。
「おう、久しぶりだなぁ。そうかそうか、お前もようやく死ねたんだなぁ、めでたい!久々に一緒に飲もう!」
そのまま、強引に酒場に連れていかれた。
飲みながらの会話は自然と僕が死んだときの話になる。
「ほぉー、俺の後任のあの小娘がねぇ、一年でよくやったもんだ、ナイス殺る気だ」
「あんたからは、殺る気が全く感じられなかったからな。以前の死神たちもそうだった。
案外、最初から殺る気のある死神だったら簡単に終わっていた話だったのかもしれない」
「殺る気ねぇ。正直、あんな指令で殺る気が出る奴がいたことに驚きだ」
「殺すというのは建前で、殺す手段が確立するまでの監視というやつか」
「そそ、あんなのは左遷みたいなもんだ。
ふつうのやつなら殺る気なんて起きねーもんだよ」
「テロリカは多少、特殊な人生を経験している少女だし、少し変わった殺る気を持っても不思議ではないのかもしれないな」
「そういえば、リベルはよ。生まれたときからその姿なのかい?この世界に来たやつは子供の姿になっちまうもんなんだが」
「そう言うあんたは一年でそこまで老化したのか?」
「バカ言え、俺の場合は死神だからな。死神として生まれた姿でこの世界に来ちまったんだよ。普通の人間なら大体5歳ぐらいの体で来ることになるな」
5歳の体でここに来るのが普通か。だとすると、
「そうか、わかったぞ」
「なにがだ?」
「すまない、急用ができた」
それだけ言って酔っ払った死神を酒場に置いて、街に出る。
彼女は目立つ姿をしているのですぐに見つかった。
「テロリカ」
「またあなたですか、死神とやらのテロリカさんは見つかったのですか?」
「いや、彼女はまだこの世界に来ていないらしい。でも、代わりに君にお礼を言いたいんだ」
「はぁ?」
「僕を殺してくれて、ありがとう」
彼女は怪訝そうな顔をしいたが、200年後に僕が生きている保証はなく、この姿の彼女に出会えるのは最後かもしれなかったから、ここで言うしかなかったんだ。
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