第98話:メロウ-パルパスⅡ〜黒い悪魔殲滅戦〜

 ドォン…………。

 朝の研究室から爆発音が響く。

 ちょうど、開発室から離れていた僕は不安になる。

 今開発室には室長が一人だけだ。

 爆発を起こしたのが室長ならばよい、あの人がやることは無茶苦茶だが、大抵はどうにかしてくれる。

 もし、原因がそれ以外、爆発するようなものは開発室にはなかったと思うが、何か別のものが何らかの理由で爆発したとしたら不味い。

 廊下を走って、開発室まで戻る。

「室長大丈夫で」すかと言おうと思ったが、言葉がそこででなくなった。

 開発室の中にいたのは、武装した室長だった。

「室長…………?何をしているんですか」

「いやなに、ヤツが出たから潰しに行くんだよ、逃げられたみたいだけど、絶対に巣を突き止めて根絶やしにする」

 ヤツ、ヤツとは一体なんだろう?

 侵入者だろうか、ただの侵入者に対してなら室長が直接出るようなことじゃない。

 なにか、直接叩きのめしたい相手なのだろうか。

 しかし、今僕は廊下から入ってきたが、室内にそれらしき人影は見当たらない。

「室長、そのヤツってのはどこに?見当たらないのですけど」

「隠れているんだ、私にはわかる。

 あと、少し息を止めて黙っていてくれ、ヤツを探しているんだ」

 眼の前にAR表示された音から周囲の変位を観測するセンサーのデータを睨み、ながら言われる。

 僕は言われた通りに呼吸を止める。

 とたんに室内は無音になり、室長も、僕も動かない。

 しばらくそのまま、誰も動かない室内で、一瞬だけ、カサッという、微かな音がした。

 その微かな音を室長のセンサーはしっかりと捉え、室長は装着している機動補助具の力を借りてそちらに一瞬で武器を向け、放つ。

 それを見て、僕は慌てて部屋から飛び出した。

 直後、部屋の中から先程聞こえた爆音が、先程とは違い至近距離で炸裂した。

 さっきの爆発は侵入者ではなく、室長の起こしたものだったのだ。

 あれは確か、空気を圧縮しながら加熱し、解放することで大爆発を起こすという、中級爆発魔法の再現をしたという道具だ。

 そんなものを室内で使ったらどうなるか、全く考えていない!

 それほどまでしなければならない相手なのだろうか。

 さっきから姿は見えないが、都市中に設置されている魔力検知器は反応していないし、科学的な光学迷彩でも使っているのだろう。

 それにしても、室長のさっきの装備で音に頼るしかないとは、相当相手も充実した装備を揃えていると見て間違いない。

 一体、どんな奴なんだ。

「そっちへ行ったぞ!退くんだ助手君!」

 怒鳴りながら室長は飛び出してきた、慌てて飛び退くと、室長は廊下を走って見えない何かを追いかけていってしまった。

 開発室入り口の前に立ってたけど何も飛び出してこなかったぞ?

 室長は何を追いかけていったんだ?

 爆発で滅茶苦茶になっているであろう部屋の中を、今だけは見ないようにして室長を追いかけることにした。



 環状になっている廊下を走って追いかけていると、また爆発が聞こえてきた、どうやら地下へ行ったようだ。

 逃げているはずの侵入者がなんで地下なんて逃げ辛いところへ逃げるんだ。

 何か地下室でやる気なのだろうか。

 地下室には何があったか、倉庫と、危険な実験室ぐらい?

 実験室はもっと深いところにあるし、やっぱり倉庫に何かあるのだろうか。


 やっと追い付いてみると、室長は倉庫の隅に屈み込んでいた。

 まさか、攻撃を受けたのかと思い近づいてみると、何かを設置していた。

「おお、助手君も来たのか、やっとヤツらの巣を見つけたからね、処理をするところなんだ、これをここに設置しておけば、ヤツラが転生してきた瞬間に消し炭にできるよ」

「え、ヤツらの巣?」

 さっきもヤツラの巣を見つけて根絶やしにすると言っていたが、あれはアジトを見つけてぶっ潰すということではなかったのか?

「いやぁ、まさかこの世界に来てまでグラブルシアが出るとはね」

「グラブルシア?」

「ああ、知らないのか。グラブルシアっていうのは」

 室長が説明を始めるが、僕は知っている。

 グラブルシアとはメクタスという世界が原産の黒くて小さい虫だ、確か害虫として疎まれていると聞いたことがあるがここまでさせるものだっただろうか。

「私はね、グラブルシアに恨みがあってさ、やつら、魔力の籠った物ならなんでも食べるんだけど、やつら、私が丹精込めて作った魔力結晶やらなんやらを食い尽くしてくれたことがあるんだよ」

「そうなんですか」

 しかし、グラブルシアがこんなところに現れるなんてどうなっているんだ?

 アレの生息域は森の中の魔力が濃い場所で、テルヴィアのように魔力の薄い場所には縁のない虫のはずだが。

 室長が転生してきたグラブルシアを消し炭にする装置を設置して、立ち去った後、そこに転がっていたグラブルシアらしき虫の死体を見てみると、グラブルシアではなかった、別の世界で似たように疎まれているゴキブリと呼ばれる虫だった。

 確かにこいつならば、テルヴィアにいてもおかしくない虫だが、勘違いでこんなことをされてしまうとは、かわいそうにと思わないこともない。

 まぁ、ゴキブリはゴキブリで病原菌の転生宿主になったりするのでここで処理できるのに越したことはないか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る