第97話:ナユ_サナクルⅡ〜鍋は爆発する〜

 台所から不吉な歌が聞こえる。

 実際は単なる少女の鼻歌なのだが、俺にとってはこの上ないぐらい不吉なメロディーだ。

 そもそも、今台所で料理を作っている少女は、少女の姿をしているが実際は少女ではない。

 端的に言ってしまえば、俺である。

 俺なのだが、少女であり、俺とは別で存在しているんだ。

 そんな、俺との関係性がどういう形になるのかもわからない少女と色々あって一緒に暮らすことになったわけなのだが、今彼女は台所にいるのだ。

 台所に立たれることの何が問題なのか?

 俺も普段から台所を利用しているわけではないし、汚いということもないが、不安なことが1つだけある。


 俺は、料理が破壊的に下手だ。


 才能がないとかではない、普通の奴なら才能がなくとも練習すれば人並みにはできるものだ。

 しかしだ、俺には料理を失敗する才能がある。

 この話を人にすると「なんだよそれ」と笑われるのだが、大マジだ。

 昔はなんとかできるようになろうと努力はしてみたのだが、どうしても無理だった。

 特に料理ができないことで困ることはなかったが、今、俺である少女が俺の家の台所で料理をしているのだ。

 俺と別の生活をしている20年の間に料理ができるようになった?そんなことはあるはずがない。

 女に生まれ直したぐらいで俺が料理をできるようになるとは思えない。

 不安ばかりが募り、俺はその不安を抑えるために携帯端末デバイスで魔法紹介サイトを巡る。

 料理を美味くする魔法とかないだろうか。

 お、これは「おいしくなぁれ、萌え萌えきゅ」?かわいい女の子がじゅもんと舞いにより料理に愛情を込めおいしくする魔法、なんだこれ?。

 かわいい女の子ではない俺には使えないか…………。

 ん?そういえば、あいつは…………。

 まぁ、かわいい女の子、だよな。

 台所の方を見る。

 あれは俺であるという事実のせいで、かわいいと認めるのは辛いが、初めて会ったときは思い出してもムカつくが、可愛いと感じてしまったのも事実だが。

 とりあえず、あいつにこれをやってもらおう。

 気づけば、台所から聞こえていた不吉な鼻歌は止まっていた、料理ができたのだろうか?

 俺は完成せたことなんか一度もないぞ?

 大抵、鍋が燃えていた。

 あのときのことを思い出して不安になり、台所を覗くと、女の俺は気絶している。

 どうやったら料理で気絶するんだと思う人もいると思うが、俺が料理するとこういうことがよくあるんだ。

 鍋を見てみると、火にかけっぱなしで煙が出ている。

 これは、嫌な予感がする。

 鍋に入っていた何かが膨らんで、ああこれは、爆発する。

 気絶している俺を庇うように覆い被さり、防御魔法を展開した。

 直後、鍋は爆発した。




 くそっ、俺も気絶していたのか。

 爆発で気絶したというより、爆発にともなって発生したガスで気絶したらしい。

 俺が料理すると録なことがないというのは、二度生まれ直しても変わらなかったらしい。

 女の俺はまだ気絶していたから、軽く揺さぶって起こす。

「なに、ごはん?」

 寝ぼけていやがる。

「飯はお前が作ってたんだろ、ていうか、よくこれで飯を作ろうなんて言い出したな」

「あー、そっか、二回も生まれ直したしさ、なんとかなるかなって思ったんだけど」

「生まれ直したぐらいで料理ができるようになるんなら苦労しねぇよ」

「それもそうだね」


 その後、台所はこの家から消去し、弁当を買ってきて、女の俺に料理を美味しくする魔法をかけてもらい、二人で食べた。

 料理を美味しくする魔法の効果は全く実感できなかったが、料理下手の才能のせいだろうか。

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