第77話:カクリテ=トーカⅡ〜幽霊を拾う〜

 この世界に来てから初めて幽霊を見つけてしまった。

 来てから暫くは何もやることなく、働いてもいなかったのだが、最近、死を研究している機関の研究員に就職でき、この世界での幽霊や死霊の扱いについていろいろな話を聞くことができたのだが、この世界には幽霊はいないという話を聞いていただけに、とても驚いた。

 死霊を操り、死者を増やす、死者を冒涜するような生活をしていた私がまさか、単なる幽霊を見て驚く日が来るとは思わなかった。

「トーカさん!トーカさん!あれはなんですか?」

 ああ五月蝿い、偶然街中をさ迷っていた幽霊がやたらと騒々しい子で困る。

 なんにでも興味をもち、大声で私に聞いてくるのだが、これが聞こえるのは私だけで、周りには聞こえないから、返事をすると一人で喋っているみたいに見えてしまう。

 だから返事をしない方がよいのだが、

「トーカさん!?なんで無視するんですかー?もしもーし?もしかして見えなく!?」

「見えてるわよ、少し黙りなさい」

 死霊術で操って黙らせてやりたくなるが、自我を奪ってしまっては聞くことも聞けない、我慢するしかない。

「もうー、心配しちゃったじゃないですかぁ、やっぱり、今までお話ししていた人とお話しできなくなると寂しいんですよ」

 黙れと言った意味が理解できなかったのだろうか、はたまた、わかった上で話しかけ続けているのか。

「私が『良い』と言うまで、一言でも話しかけてきたらあなたを消す、良いわね?」

 完全支配するほどではなく、軽く、ほんの軽く幽霊の行動に自分の言葉を染み込ませる程度の力を込めて睨むと幽霊は口をおさえて黙った。

「わかれば良いのよ」

 そこからは幽霊を見ない、いや、はぐれても困るから視界の端に留めておく。

 ふらふらとどこかへ行ってしまいそうになる度に、力を込めた視線を向け、縛る。

 はぁ、疲れる。

 大抵の幽霊は頭が軽いのだが、この幽霊は特に軽い、力の調整とかもここまで弱めることは少ないし、逆に疲れる。

 この調子で機関の研究室まで連れていけるだろうか。




 なんとか、研究室まで連れてこれた。

 途中、ワープゲートを通るときばかりはヒヤッとしたが、問題なく通ることができた。

「もう良いわよ」

「ぷはぁ!はぁ、はぁ、窒息して死ぬかとおもいましたー!」

「息を止めろとも言っていないし、あなたは普段から呼吸もしてないし、既に二度は死んでるわよ」

 本当に馬鹿な子を拾ってしまったものだ。

「やぁ、トーカちゃん、それがさっき連絡してくれた幽霊?悪霊でもないし、形も崩れてない、かわいい子だねぇ、生前の自分の姿をはっきり覚えているか、相当な自己愛だっか」

「え、私がかわいいって?やったー!あなたイケメンですねぇ」

「だろー?」

「はぁ、馬鹿が二人」

 この無駄にテンションが高い、馬鹿は私の先輩研究員だ、元の世界では墓守をしていたらしく、死者の姿を捉え、対話する能力があるらしい。まぁ、私は両方できるし、従えることもできるのだが。

「ともかく、この世界に幽霊はいないなんて言ってましたけど、ここにいるじゃないですか」

「発見されていないって言っただけだよ?」

「同じようなものじゃないですか」

「さてさて、ところで、幽霊ちゃん?君はどこから来たかわかるかい?」

 無視かよ。

「どこから?うーん、わかんない!」

「そっかー、君の他の幽霊を見たことは?」

「ないなー」

 何も情報を持っていない。

「もしかして、この子役立たずですか?」

「いや、存在が確認されただけでも収穫かな、今までは一切いないと思われていたんだし」

 そういえば、

「幽霊が食べられるクッキーってありましたよね、この子つれてくる餌にそれ提示したので持ってきてください」

 思い出してよかった、先に幽霊が気づいていたらまたうるさかっただろう。

「え、あのクッキー?あれは除霊用クッキーだから、幽霊が食べたら死ぬよ?」

「じゃあ、先輩が作ってきてくださいよ、除霊成分抜きで」

「無茶言わないでよ、あれ作ったのラッカさんだからね?」

「ラッカさん、ラッカさんかぁ…………」

 ラッカさんに頼み事するってのもなぁ。

「ごめん幽霊、クッキーは作れる人が帰ってきたら自分で頼んで」

「くっきー?あー!そうだ、クッキーくれるって言ってた!ちょーだい!」

「だからないんだってば」

「えー」

 五月蝿いなぁ、と視線に力を込め縛る。

「トーカちゃんさぁ、子供のしつけとか苦手じゃない?」

「子供がいたことないので」

「そっかー」

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