第35話:ペコ・ラインスⅢ~暗闇の世界に生きる人たち~

 もう日の変化もわからないくらい暗くなってきた、もはや何日目かは正確にわからない。

「人は日の光を浴びぬと健康を保てないのだろう?」

「どうなんですかね、今のところ大丈夫そうですけど、そろそろ街に戻るときにサングラスが必要になってきましてね、昼だともう視界真っ白なんですよ」

「夜に行けば良いのではないか?」

「うーん、夜はお店空いてないんですよね」

 そんな話をしながら暗闇の中を高速で進んでいたところ、魔導エンジンがゴゴゴという音を立てて、出力が徐々に下がり、止まってしまった。

「む、どうした、止まってしまったぞ?」

「エンジンが不調なんですかね?ちょっと見てみます」

 エンジンルームを開けてみたがよくわからない、恐らく、想定を通り越した速度を継続的に出しすぎたということが原因だろう。

 そういえば、出発してから2度しか止めていない。竜種と出会ったときと、先日街に戻った時だ。本当ならば一人でゆっくり走って結構な数止めているはずだったのだが、やはり無茶をしすぎたのだろう。

「だめですね、一度街に戻って直せる人を連れてこないと」

「うーむ、どれくらいかかりそうだ?」

「どうでしょうね、とりあえずこの車を買ったお店で話を聞いてきますが、夜の色がひと回りするぐらいはかかると思いますよ」

「ひと回りか、その間、我は寝ておるから、直ったら起こすのだぞ」

「暫くの間留守にしますけど大丈夫ですか?もし魔物とかが襲ってきたら」

「我は竜種ぞ?何の問題があるのだ」

「そういえばそうでしたね、じゃあ、行ってきますよ」

「おー、行って来い」


 夜の色がひと回りした頃、やっと探し当てた魔機構技師を連れて車に戻ってきたが、何かおかしい。とりあえず、魔機構技師をエンジンルームに残し、車内の様子を見渡してみるが何か足りない気がする。なんだろう、暫く街の方にいて目が暗さに慣れていないから変に感じるのだろうか。

 魔機構技師の人に労いのティエを淹れていると、あることに気づいた。

 あいつどこいった?

 車両後部のキャンプスペースに寝ていたはずの竜種がいない。

 というか、食糧もいくらか減っている。あいつは寝ていたはずだし、起きてその辺散歩でもしているのだろうか。

 胸騒ぎがする。そういえば、今回は竜種が車に残ってるからと鍵をかけて行かなかった。

「すいません!ちょっと連れがいないんでその辺探してきます!」

「はいはいなー、暗いからお気をつけてー」

 作業を中断することもなく、エンジンルームに顔を突っ込んだまま返事をされた。仕事熱心なのはいいことだ、僕としても早く直してもらいたいしね。


「おーい、竜種!どこだ!」

 呼びかけながらんん?みたいになる、そういえば僕はあいつの名前も知らないんだよな。二人しかいないとお互いに名前を呼ぶこともないし、戻ってきたら名前を聞いてやらなければならないようだ。

 しかし、それは見つけてからでいい。

 暫く探して見つからなかったから車に戻ってきた、まだ修理は終わっていないようだ。

「どこにいったんだよ、寝てたんじゃないのかよ……」

「む、どうした人間」

「竜種がいなくなったんだよ……」

 んん?

「ほぉ、それは大変だ、我も共に探してやろう」

「お前だ!一体どこに行ってたんですか!?心配したんですよ!」

 探していた竜種はさっき魔機構技師の人のために淹れていたティエを飲んでいた。

「うむ、それなのだが、先に一つ謝っておこうと思う」

「え、ああ」竜種のこいつが謝るなんて何があったんだ?

「お主が買い置きしておった食糧を少し、この辺に住んでおる人間にわけてしまった」

「はぁ?」そんなことかよって思った。

「僕が街に行ってた間何があったんですか」

「うむ、話せば長くなるのだが、まずはこの辺に住んでいる人間を紹介させてもらおう」

「この辺に人間なんて住んでるわけ……」

「それがおるのだ、ついてこい」

 竜種についていくと、その先には洞窟があり中に、しばらく洞窟の中を枝分かれしまくっている道を竜種について進むと広い場所があり、明るくなっている。そこには大きな街があった。

「信じられない……」

「この洞窟にも人間が転生してくる場所があるらしくてな、元の世界でも地下生活をしている者たちが主にこの洞窟に転生してきているらしい」

「他との交流もなく、こんな街を地下に作ったのか……」

「たまに洞窟の外に植物の実や種の卵を探しに出るらしいのだが、そこで我らの車を見つけ、忍び込んできたのだ」

「それで?」

「それでな、目を覚ました我と目が合い、逃げ出そうとしたところを我が呼び止め暫く話をして意気投合してな、この街に招待されておったのだ。洞窟にいては夜の色が判らなかったから戻るのが少し遅れた」

「彼らは共通語を話せるんですか?」

「話せるわけがないだろう、彼らはお主らとの国とは一切の接触がないのだぞ?」

「じゃあどうやって話したんです?」

「我は竜種ぞ?意味を込めた言葉ならば意味を理解することはできるし、こちらの言葉も通じさせることができるのだ」

「便利ですね」

「便利とか言うでない、我ら竜種は人間とは生物としての格が違うのだ、それくらいできて当然なのだぞ?」

「そういうものなんですね、そういや竜種、名前はなんていうんだい?そろそろ竜種って呼ぶのも変な気がしてきたんだ」

「お主、我の名前を知りたいと言うのか?竜種において、名を教えあうことは契約なのだ。死ぬまで我の眷属としての繋がりを保つというのであれば、教えてやっても良いぞ?」

「いいよ、どうせ世界の果てにつく頃には死ぬ直前みたいなものなんだ。僕と一緒に世界の果てを見に行くんだろ?」

「その覚悟よし、我が名は……、ベディア・ローベイン・ラストバーシ・ドリュ……」

「待った、長くない?」

「我には68個の名があるのだが、長いか?」

「うん、長い。いいよ、もうベディアって呼ぶから」

「ううむ、これでは契約は不完全になってしまうのだが」

「別にいいでしょ、どうせ聞いても覚えられないし。契約なんてなくても僕らはずっと一緒で、一緒に世界の果てを目指す仲間だ」

 やっと名前も聞けたことだし、再出発って気分だ。


「ちょっとー、いいですかねー?」

 そんな気分でいたところに魔機構技師さんが話しかけてきた、この人、ついてきていたのだろうか。

「魔導エンジンの修理が終わったというのとー、ここにワープゲートを設置したいのでー、もう少しあの車に積んであるワープゲートを借りたいのですがー、よろしーですかー?」

 やけに伸ばしてしゃべる人だな。

「ワープゲートを?」

「そーなんですよー、この都市はー、地下に伸びていてー、鉱石の産出量がー、おーそーなので、わがー国のーよい取引先にーなるかもーしれないんですよー」

「なるほど、この都市も最近は食糧不足に悩んでいるようだし、丁度いいだろう」

「そういうことなら協力させてもらいますよ」

「ありがとーうございますー」

 そんなわけで、暫くこの都市に滞在することになった。もしかしてこれで、最も太陽から遠い都市がケムレルからこの都市に変わるのだろうか。

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