第33話ルーニード・モンスⅡ〜雨の中に現れる怪物〜

「グルヴェートに魔物が?」

 ここは俺の事務所、最近は依頼人以外が沢山押し掛けてきていたが、やっと落ち着き今来ているのはちゃんとした依頼人だ。

「魔物じゃなくて怪物ですよ」

 どう違うんだと思わないこともなかったが、言っていては話が進まない。

「はいはい怪物ね、どんな怪物でそれを俺にどうしてほしいって依頼で?」

「そいつは雨の日にしか現れなくて、形は現れる度に違うらしい、そいつを捕まえてもらいたい」

「そういう依頼は魔物ハンターギルドにでも持っていってくれ。はい、話は終わり、俺は調べるの専門で戦ったりとかは出来ないの、帰りな」

「待ってくれ!この依頼は魔物ハンターギルドでは何故か受け入れてもらえなかったんだ!この怪物は現れるだけで人は襲わない!戦うことになんてならない!」

「じゃあ自分で捕まえに行け!」

「勿論自分でも探して回っているさ、だが人手が足りない、依頼を受けてくれたら金は後からあんたが妥当だと思っただけ払うから!」

 お?

「その言葉本当だろうな?」

「勿論だ、コリノ神に誓ってもいい」

 コリノ神がどこの神かは知らねぇが、金をいくらでも払うって言ったんだ、受けない理由がないな。


 そんな訳で、今俺は一人で大雨の中を歩き回っている、こんな日は水分遮断魔法アプリが便利だ、発動したら発動者の周囲の水を弾き出す効果があるため、雨の日に全く濡れずに外を出歩ける。

 しかし、雨季に入ったばかりだからか、ものすごい霧が出てるな。全く視界が通らない。霧を晴らす魔法アプリをDLしてもいいが、あれは燃費が悪いからあまり使いたくない。

 こんな雨の中携帯端末デバイスの魔力が尽きたらあっという間に全身ずぶ濡れだ。

 まぁ、こうやって雨の中散歩して、その間に依頼人が自分で怪物とやらを捕獲してしまっても好きなだけ報酬がもらえる契約だしな。

 いやー依頼人も逸ったことを言ってしまったものだ。

 しかし、この程度の依頼を魔物ハンターギルドが受けなかったのは何故だ、魔物でなく怪物だと依頼人が主張したからか?怪物の情報が曖昧でクエスト難度の設定ができないからか?

 それとも、何かまだ俺に隠していることがあって、それをギルド相手にあいつは口を滑らせたか、だな。

 目の前には霧のせいで姿はよく見えないが、巨大な何かが蠢いている、まさに怪物と形容するのが相応しい何かがいた。

「は?」

 一瞬で踵を返し、全力のダッシュで逃げる。

 聞いてない聞いてない聞いてない!

 あんなでかい奴を捕まえろだなんて、聞いてねえ!

 捕まえたやつを容れるための容器だと渡されたもんも1クロン無い大きさなのに、どうやってあんなの捕まえろって言うんだ!

 チラッと後ろを見ると、追いかけてきている!なんだ!なんなんだあいつは!ドドドドドともの凄い音をたててものすごい勢いで追いかけてきている。

 いつ追い付かれても不思議ではない。

 もし、敵意ではなく好意から追いかけてきていたとしても追い付かれたら俺は死ぬ、そう感じさせるには十分な大きさだ。

 は、依頼人に発見した連絡をして来てもらうか、依頼してきたからには捕まえかたも知っているのだろう。

 走りながら携帯端末デバイスを取りだし、依頼人にコールしようとして躓き携帯端末デバイスを落とす。

 ああああああ!しまったあああ!取りに戻ったら怪物に潰される、今は諦めてずぶ濡れで走るしかねぇ!

 携帯端末デバイスを惜しく思いながら後ろを見ると怪物が飛び上がろうとしているのが見えた、タイミングが最高だ、このまま携帯端末デバイスを飛び越えるのなら後から無傷で回収できるかもしれない、と思ったところで、このままやつが跳んだらそのまま自分が潰されるのでは?ということに気づく。

 それならばやつが飛び越えようとしている下に潜り込むしかないと全力でターン、落とした携帯端末デバイスの元に滑り込む。

 そこで気づく、何かが妙だと、なぜこのタイミングでこいつは跳ぼうとした?携帯端末デバイスを拾い、上を見ると、携帯端末デバイスを中心に張られた、水を弾き出す結界を避けるように上に伸びた半液状の怪物の姿を見ることができた。

「こいつは、リキッドスライムか!」

 体の中に高魔力を持つコアがあり水を操る魔法を使い水の体を操る、スライムと名がついているもののスライムではないだ。

 やっぱり魔物じゃねーか!確かにリキッドスライムは危険度の低い魔物だが、ここまで大きい個体はヤバイだろ、呑まれたら死ぬぞ。

 幸い、水を弾き出す結界の中には入れないようだが、どうしたものか。

 本体だけならば渡された容器に入りそうなものだが、周りの水を削り切らなければ捕まえられん。

 生憎、戦闘用の魔法は持ってないし、魔物ハンター以外ではDLすることすら出来ない。

 とりあえず、依頼人を呼ぶかと携帯端末デバイスに目を落としたときに気づく、水を弾き出す結界のサイズ調整をして、一時的に小さくし、一気に最大まで大きくしたらどうなるか。

 答えは、そう、コアを残してすべての水分が弾き飛ばされるだ。足下に転がってきたコアを拾い上げ、容器に入れる。

「これにて依頼達成だな」

 さて、あとは楽しい報酬タイムだ。


「なんだこれは」

「何ってあなたが妥当だと思う報酬額ですけど」

 目の前には振り込まれた報酬額が表示された画面、確かにこの額は妥当な額だが、俺はもっと多く請求するつもりだぞ?

「それをなぜあんたが決める?」

「決めたのは私じゃないですよ、この「妥当な報酬決める君」です、これは、相手の心理を読み取って相手が妥当だと思っている報酬額を自動で決めるという機能がありまして」

 本当にピタリ当てられたのがムカつくので報酬額を増やしてもらいたい。

「ならばそれは失敗作だ、俺は命の危険を感じだし、あと桁をひとつ増やしてもらおう」

「そんな、決める君に間違いがあるはずがない」

 その後やあやあと言い合って、結局は決める君の出した額より少しだけ増やせた。


「それで、このリキッドスライムはなんでこんな街中にいたんだ?」

「それは、この子は私のベッドなんですけど、先日ちょっとしたトラブルがあって逃げ出しちゃいましてね」

「はぁ?」

「最初に魔物ハンターギルドに行ったときはうっかり逃げたベッドを探してほしいと言っちゃいまして」

 それは確かに魔物ハンターギルドの仕事ではないな。

 まぁ、今回の稼ぎは上々と言えるし、まぁ、成功だな。

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