第26話:ケルタス=ケニー~魔女の仕事は箒で空を飛ぶことなのか~

 ケルタス=ケニー、私は魔女だ。掟により、魔女であることは他人には秘密なのだが、この世界、魔法を使えない人の方が少ない。というか、魔法を使えることを隠すという意識を持っている人がいない。いや、魔法を使える人の方が多いから当然と言えば当然か。

 魔法を使えることがバレても火あぶりに等されず、教会が魔女を探して回っていることもない。表を堂々と歩けるし、魔法薬を調合したりするときも、いや、異臭騒ぎにはなるし、近隣住民から怒られたりもするか。最近は地下室を作って、空気清浄機を動かしながら薬の調合をしているんだった。そう、薬を作るのに便利な道具も充実していたりする。

 便利で過ごしやすい世界なのだが、どうにもならないことが多い。まず、材料を自分で栽培することができない。この世界では、植物は卵から種や苗木、果実を取り出して栽培するしかなく、育てたものは花は咲いても種も果実も付けない。花をつける木は良いのだが、実が必要だったり、草だったりすると植物の卵を自分で拾いに行ったり、買ったりしなければならない。非常に面倒だし、お金もかかる。それと需要も少ない、多少の魔法薬はお店に並んでいるし、自分で作る必要もない。

 転生してきたばかりの頃は作ったりしていたが、最近ではあまり作ってすらいない。

 別に魔法薬を作るだけが魔女ではないのだが、前の人生で私は魔法薬を作って売って暮らしていたからなぁ。

 この世界では魔法薬を作る仕事は必要とされていないし、今の私は仕事と呼べる仕事を持っていないことになる。それでもこの世界では生活していけるのだが、やはり何らかの仕事には就きたい。

 そんなことを考えながら出かける。仕事を探しに行こう。できれば魔女であることを活かせる仕事に。


 そんなこんなで役所にやってきた。

「仕事を探してる、ね。そうだねぇ、販売員とかの仕事は常に結構な数の求人があるけど、ああ、そういう仕事じゃない、魔女であることを活かした仕事がしたいねぇ、この世界では魔女の需要が低いからちょっと厳しいんじゃないかなぁ」

「はぁ、やっぱりそうなんですか」

 やはり、魔女であることを活かした仕事というのは見つからなかった。

 この世界には魔女の居場所はあっても魔女の仕事はないのだろう。おとなしく、販売員としての人生を始めようかなぁ。

「あーそうだ、君は箒に乗れるかい?」

「箒ですか?」

 乗れる、そういえば転生してきてからは一度も箒で空を飛んだりはしていなかったな。

「箒で空を飛んでみたいが、そういうアプリがないので箒で空を飛ぶ方法を教えてもらいたいっていう人が結構いるんだよね、君、教えてあげたりできるなら、そういう仕事もあるんだけど」

「できます!その仕事やります!」

 こうして、私は箒飛行教室の先生という仕事を手に入れたわけです。

 最初は箒の乗り方を教えるのは大変で、他の魔女がなんでこの仕事をしていないのかよくわかった気がする。初めて箒に乗った時の事を思い出そうと思っても、全然思い出せなかった、乗り方がもう、感覚でしかわからない、飛べるようになってからは何にも考える必要もなく飛べていたものだから、初めて飛ぼうとする人たちに飛び方を教えるのは非常に苦労した。これは確かに、仕事にするには大変すぎる、それでも私は魔女としての仕事がしたかったし、何度も教えるうちに教え方もうまくなり、今では大抵の生徒が数回来ただけで飛び方をマスターしてもらえるようになった。

 そういう経緯を経て、私は多少有名になり、今では私ブランドの魔法薬も少しずつ売れるようになり、魔法薬の材料も確保しやすくなったのです。こちらの生徒は少ないですが、魔法薬の作り方を教える教室を開いたり等して、魔女としての充実した生活を手に入れたのです。


私が笑顔で喜びを表現している場面に、「君も役所の職業斡旋窓口で自分に合った仕事を紹介してもらって、充実した第二の人生を送ろう」という文字が浮かび上がってきて、映像は終了した。

「どうです?いい仕上がりでしょう。職業斡旋窓口のCM」

「はぁ」

 私は確かに、箒の乗り方教室をこの窓口で紹介してもらったし、今ではそこから発展して魔法薬の販売もしている。

 それでなぜ、こんな映像を撮っているのかと言えば、私が仕事を紹介してもったこの街での職業斡旋窓口の知名度はとても低く、そこで仕事を紹介してもらって更に成功を収めた私をイメージキャラクターにCMを打とうなんて考えたそうだ。

 それで私の魔法薬の宣伝にもなるし、と引き受けたというわけだったのだ。

 しかし、これは結構な誇張表現だし、職業斡旋窓口が繁盛するとは思えないなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る