第27話:イーリス・バッス・ラクレーム~元勇者と暮らす元魔王の日常~

 この世界に転生してきてから結構経った、この世界は快適だし、領地も好きなだけ広げられるのだが、何だろう……、この何事もなく過ぎていく日々に、こう、少しだけ虚しさを覚えるような気がしないでもない。

「おい魔王、パルソンペーターの方でカンバードムが大量発生しているらしくて、討伐依頼が来ているぞ」

「元、だ。いつになったら貴様は我の呼び方を改めるのだ、元勇者よ」

 この失礼極まりない奴は我がもといた世界で我に倒された勇者だ。なかなかの強さで我も危なくこやつに殺されるところだったのだ、まぁ、その後こやつの仲間に殺されてしまったのだがの。

「名前で呼べってか?お前だって俺のこと元勇者って呼ぶじゃねーか」

「せめて元をつけろ」

「変なところに拘るんだな」

「我はそういうところ気になるのだ」

「そうですかい、元魔王様よ」

「それでいいのだ」

 呼び方は気をつけなければならない、うっかりこの世界で魔王として認知されてしまったら様々な世界から転生してきた元勇者に簡単に殺されてしまう。

 流石に転生してきたばかりで殺されたくはないぞ。

 まぁ、元勇者達以外にも、問題を起こしたら他の世界から転生してきた元魔王達にとばっちりが行くからその前にそっちに殺されてしまうだろうがな。恐ろしい世界にきてしまったとつくづく思う。

「それで、元魔王よ、パルソンペーターの方で大量発生しているカンバードムってどんな魔物か知ってるか?」

「うーむ、先の元魔王集会で聞いたことがあるな。何でも自爆する鳥で、集団で自爆する性質があるらしく、転生してくるときは集団で転生してくるらしい。まぁ刺激しなければおとなしい鳥だ、討伐するのは厄介かも知れんがな」

 元魔王集会、それは元の世界で魔王であった者のみが参加できる秘密集会である、元魔王たちが各世界の魔物の情報を持ち寄ったり、「世界征服したいよねぇ」とかの世間話をするための集会なのだ。夜の色が紫の日に毎回行っている。

 ちょうどカンバードムの話は先日聞いたばかりだ。ちょうど良かった。

「で、討伐しに行くのか?」

「まぁね、困っている人がいるんなら俺が行かない理由はないさ」

「流石元勇者って感じだな」

「お前は来ないのか?」

「一緒に来てほしいのか?」

「人手が多いに越したことはないからな」

「そうか、では行くがよい」

「こねーのかよ」

「カンバードム如き、我が出るまでもない」

「俺がお前の手下みたいに言うのやめてくれる?」


「じゃあ行ってくるよ」

「うむ、生きて戻ってくるのだぞ」

 元勇者が討伐の仕事に行った後は我は家に独りになる。元の世界では城に配下がいくらでもいたため、常に誰かが傍にいたのだがな……。

「やはり一緒に行くべきだったか」

 しかし、一人になったからこそできることもあるのだ。元の世界では危ないからと無駄に過保護な部下に止められ入ることのできなかった場所、我は今、厨房に立っている。

料理というものをするのは初めてだが、何とかなるであろう。

「いつもあやつが飯を作っていたからな、たまには我が作ってやろうではないか、驚く顔が目に浮かぶようだな」

様々な道具を華麗に使い、我は調理を進めていく。


「ただいまー」

「うむ、どうだった?」

「カンバードムを倒すよりもその後の整地の方が時間かかったわ、破壊力高すぎるだろ、爆発が連鎖して森が丸ごと消し飛んだぞ」

「そうか、その鳥の話をしていた奴は破壊力にまでは言及していなかったからな……。そうだ、疲れているであろう?飯の用意ができておるぞ?」

「え、元魔王のお前が作ったのか?」

「もちろんだ、がんばったのだぞ?」

「そ、そうか、頑張ったんだな。残念だけど俺は今日は魔物ハンターギルドの方で飲み会があってな?」

「そんなものは断ればよかろう?」

 おっと、うっかり壊さないようにアダマンタイトで作ってある椅子をひとつ潰してしまった。

「あ、ああ、そうだな。断ればいいか」

 自信作なのだ、逃がさんぞ?

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