第25話:ジャン‐ベイヤー~巨大ロボのパイロット、だった~

 俺の名前はジャン‐ベイヤー、以前は国を守るために巨大ロボット【コンヴァクト】に乗って戦っていたが、戦死し、転生してきたこの世界にはそんなものはなかった。

 この世界では戦争など起きない。無限の土地と無限の資源があるとされていて、争う意味がないからだ、宗教も殆ど死んで転生したという事実の前に廃れている。

 稀に、他の世界出身の国とまったく交流を持たず、鎖国同然の国も存在するが、彼らの国に攻め込むようなことは一切ない。

 物語の世界にしかいないような魔物もいるが、それらも人を襲いにくることなど滅多になく、襲いに来たとしても魔物を狩ることを生業にしている者たちの獲物だ。

 つまり、この世界に巨大ロボットの出番はない。


 それでも俺は巨大ロボットにまた乗りたかった、別に戦いたかったわけじゃないが、巨大な体を動かしているという感覚を、生まれ変わって新しい体になっても、まだ覚えてるんだ。

 この世界には、巨大ロボットの一つや二つ、すぐに作れるだけの技術力がある。

 だが、それは世界の技術力の話で、俺個人の話ではない。

 俺は【コンヴァクト】の設計師ではないし、開発に携わったわけではない、ただのパイロットだ。

 そんな俺が再び【コンヴァクト】にこの世界で乗るためには、まず、【コンヴァクト】を作るための仲間が必要だった。


 転生してしばらくは資金集めにバイトの日々が続いた。この程度のバイト代だけで巨大ロボを作ろうとしたわけではない、巨大ロボを作るための資金を集めるための資金を集めるためのバイトだ。


 十数年掛けて、俺は【コンヴァクト】を作るための仲間を集めた。資金の援助をしてくれる者、設計をするもの、実際の開発を行う者、巨大ロボを一つ作る程度ならば十分すぎる人材が集まった。

 彼らは元の世界に巨大ロボがある者も無い者もいる。無い者の方が多いぐらいだな。

 無い者達が協力してくれた理由に、「巨大ロボットは男のロマンだから」というのがあったがよくわからない。彼らは実際に巨大ロボットが動いているのを見たことがないはずだが、何故か彼らは巨大ロボットの構造に詳しい、実に不可解だ。


 作りたいと言う者達を集めながら、俺は一人の男を捜していた。

【コンヴァクト】の設計者だ。やはり、俺は単なる巨大ロボットではなく、【コンヴァクト】に乗りたいのだ。

 俺が生まれたときにはすでに【コンヴァクト】は実戦で使われていたし、俺が死んだ年齢を考えると、設計者は既にこの世界に来ているはずだ。

 しかし、ターミナルで調べてもらっても、グローバルネットで世界中に呼びかけても、同姓同名以上の者は現れなかった。

 残念だが、【コンヴァクト】を完全再現することはあきらめなければならないようだ。


 そうして、俺は巨大ロボットを作ることのできる設備、資金、技術を手に入れることができ、それまでにかかった時間の数分の一の時間をかけ、俺は、俺達は巨大ロボットを完成させた。名前は、そうだな【ガガガイオン】だ。みんなで強そうな名前を考えたのだが、強そうだろうか。


 試運転の日が来た。場所は街から遠く離れた荒野、さすがに街の中で動かしたら迷惑どころの話ではなく、最悪破壊されてしまうだろう。この世界には巨大ロボットを倒せる人などいくらでもいるしな。そういうこともあって巨大ロボットが実用化されていないのかもしれない。

 テストパイロットはもちろん、俺だ。

 俺はみんなの視線を一身に浴び、【ガガガイオン】の胸部コックピットに乗り込んだ。俺の記憶から再現してもらった【コンヴァクト】そっくりのコックピットは久々に乗り込む俺をやさしく迎え入れてくれた。この感覚は久しぶりだ。座席に深く腰を掛けたら、ハッチが重い音を立てて閉まり、一時的にコックピットの中は真っ暗になり、一拍おいて各種メーターや、外部カメラの映像がコックピット内部に映し出された。

 少し離れた地面に、共に【ガガガイオン】を作った仲間達が見える。俺が【ガガガイオン】の腕を動かして合図を送ると、彼らは子供のようにはしゃいで喜び始めた。前の人生から夢見続けてきた巨大ロボットが目の前で動いているんだ、手を振ってもらえただけでも感動は大きいだろう。かくいう俺も、この自分の腕と巨大な腕が連動しているという懐かしすぎる感覚に涙が出そうになる。

 さぁ、問題はここからだ。

【ガガガイオン】で歩くのだ。

 昔、【コンヴァクト】での訓練VR機では何度も転んだ。実際の体で歩くのとは感覚が全然違うのだ。実機にはオートバランサーが実装されていたし、【ガガガイオン】にもオートバランサーは搭載してある。絶対に転ぶことは無い。

 しかし、オートバランサーに頼り切った歩行は非効率的で移動が遅いし、何より、非常にかっこ悪い。

 つまり、彼らの理想に叶う歩き方、ないしは走り方を見せなければ、彼らの夢を壊してしまうことに繋がりかねない。

 コックピットの中で深呼吸し、覚悟を決める。こういうのは慎重になりすぎては逆にバランスを崩すのだ。一気に、一気に歩く、大丈夫だ、感覚はまだ体が覚えている。

 脚を前に出し、しっかりと大地を踏みしめる。これを繰り返す。まずは一歩、大丈夫だ、バランスは崩れていないし、不恰好にもなっていない。

 一歩進むたびに、彼らは大喜びだ。子供でもあるまいし、とは思うが、彼らの気持ちもわからないでもない。

 しばらく歩き続け、基本的な感覚は何も変わっていなかったことを確認すると、俺は一気に走り出した。大丈夫、走れた、人口筋肉の躍動を感じる。一歩が体の何倍にもなり、肉体で走るのとは全然違う感覚になっていくが、何一つ問題は無い、全て昔のまま動かせる。最高の気分だ。


 走り回り、元の場所まで戻ってきた。みんな息を荒げて歓迎してくれた。実際に自分の体を動かしたわけでもないが、興奮で俺も息が荒い。

 いったん、降りようとハッチの開閉レバーに手を掛けようとした直前、つける意味は無いと思われていた、レーダーに反応があった。そちらの方へカメラを向けると、遠くに人の姿が見えた、いや、人の姿に見えるが、この距離であの大きさに見えるとは、大きすぎないか?

 確か【ガガガイオン】には視野の拡大機能もついていたはずだ。

 少し操作に苦労しながらも、何とか、遠くに見える人影を拡大してみると、俺がよく知っている姿だった。


「なんで、この世界に【コンヴァクト】がいるんだ……?」

 そう、あれは【コンヴァクト】だ。いるはずが無い。見える様子では、動く気配はない。最近、ロボットが一人転生してきたという話を聞いたが、それは人造人間で、巨大ロボットの類ではないはずだ。

「お前ら、一旦この場所を離れたほうがいい、もしかしたら戦闘になるかもしれない」

 念には念を入れておかねばならない。もし、戦闘になったら、生身の彼らなどはひとたまりも無いだろう、地面の振動だけでも命にかかわる。

 向こうも動かず、こちらも動かず、みなが十分な距離を取るまでの間、【ガガガイオン】も【コンヴァクト】も動かなかった。

 先に動いたのは【コンヴァクト】だった、こちらにいた生身の人間に配慮して動かなかったかのように十分な距離までみなが離れたのを見計らって、こちらに向かってきた。

 こちらも、どういう攻撃をされてもいいように迎撃体制をとる。とは言ってもこちらは戦闘など想定していない、もちろん武装も何も無いし、唯一あるのはノリで搭載した各種センサーだけだ。

 そのセンサーが、何かに反応し、緊急のアラートを鳴らし始めた。くっそ、基本的な動かし方は【コンヴァクト】をベースにしてあるが、他の機能、特に開発班が好き勝手につけた機能は使い方もなんのアラートを鳴らしているのかもわからん、とにかく、画面に表示される情報から推測するしかない。

 レーダーには【コンヴァクト】以外に4つの高速接近物が写っていた。これは、ミサイルか。【コンヴァクト】に搭載されているミサイルならば、性能は俺が良く知っているものだろう。誘導性があり、敵機のすぐ傍に到達したときに破裂、そして、敵機の放出する熱量を受け爆発する粘着性の液体を撒き散らす。

 接近させる前に打ち落とすのがセオリーだが【ガガガイオン】には飛び道具も何も装備されていない、誘導性を利用し、ひきつけ地面に落とすようなことはできない、その前に破裂して、爆発する液体を被ってしまうだろう、その破壊力に【ガガガイオン】は耐え切れない。

 とにかく走って引き離そうとするが、無駄なことは良くわかっていた。

 徐々に距離をつめられ、ついに、起爆範囲に入ってしまう。そして、ミサイルが破裂した。


 ミサイルが撒き散らしたのは粘着性の液体ではなく、紙ふぶきだった。ご丁寧に本来撒き散らされる液体と同系色にまとめられている。

「は、なんだ……?」

 俺があっけに取られていると、【コンヴァクト】が近づいてきた。

『はっはっは、すばらしい機動性じゃないか』

【コンヴァクト】に搭載された外部スピーカーから老人の声が聞こえてきた。

『君達の作り出した巨大ロボット、いいものだな、あえてワシも参加せんでよかったわい』

「あんたもしかして【コンヴァクト】の……」

『うむ、お察しのとおり、開発者じゃな』


 その後お互いロボットから降り、【ガガガイオン】を作ったみんなと一緒に話した。

 何でも、彼もこの世界に来て、【コンヴァクト】を作ったらしいのだが、【コンヴァクト】を作ったはいいものの、巨大ロボットを作ったらやっぱり戦わせたくなってしまったそうだ。

 そんなときに、俺が【コンヴァクト】を再現するために自分を探していることを知った、彼は自分が出て行かなければ、【コンヴァクト】と戦える機体を作ってもらえると考えたのだという。

 そして、何人か開発チームにスパイを紛れ込ませ、試運転の日を知り、その日にあの場所で待っていたのだという、ちなみに各種センサーやレーダーを取り付けることを提案したのはそのスパイたちらしい。

 提案したのは彼らだが、実際は満場一致だったらしいが。

 その後、俺達は模擬戦用の武装を一通り揃え、【コンヴァクト】と再び戦った。

【ガガガイオン】は善戦こそしたものの、結果は【コンヴァクト】の勝利だった。俺の知らない武装をいくつか持っていたため、俺の持っていた情報はまったく意味を成さなかったのが敗因だと思っている。

 そして、ついでのような話だが俺は転生してきてからの夢であった、【コンヴァクト】の座席に座ることができたのだ。

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