第6話:ドロース~転生者がだいたい最初にするバイト~
街から離れた場所にある森、人が立ち入った気配はなく、生えている木々は種類もバラバラ、元居た世界で見たことあるような木もあるし、そうじゃない木もたくさんある。今日の仕事場はこの森らしい。周りには僕と同じ目的で集まった子供たち、見た目が子供なだけで、みんな何十年生きてこの世界に転生してきた人で、まぁ大体が中身は大人なのだが。
大人にしては「めんどくせぇな」とか「なんで俺がこんなことを」みたいにグチグチ愚痴こぼしなのはどうなんだろうか。僕は元居た世界でもこういったバイトを続けて生活していたので、面倒だとか嫌だとかそういう気持ちは沸かない。生きるために働くことはどんな世界でも同じだろう。
そう、この場に集まった皆の目的は一つ、お金を稼ぐためのアルバイト、通称「卵拾い」だ。
このアルバイト、ターミナルの窓口で最初に紹介されたものでこの世界の食生活を支える大切なものらしい。僕は初参加なのでよくわからないのだけど聞いた話によれば、この森の中には卵があちこちに転がっているのでそれを拾うだけ、というもの。この世界ではそんなに卵の需要があるのだろうか。
「はーい、では皆さん、お集まりいただき感謝します!」
卵拾い主催の人が台の上から拡声器で叫ぶ。たぶん共通語って奴でしゃべっているのだろうが、僕を含めて皆、耳にターミナル貸し出しの翻訳機をつけているので共通語を理解できなくても問題はない。
「今日の仕事は卵拾いです!拾った卵の数と内容に応じて報酬を支払うので、張り切って拾ってください!なお、この森には危険猛獣も多数確認されております!気を付けてくださいね、大声で叫んでもらえればすぐに助けが行きますから」
そんなのも出るのかよ、怖いなぁ。
何はともあれ、卵拾い開始だ。この世界でまだ、卵を見たことないけど、俺のいた世界の卵と同じなのだろうか。出遅れてしまったし、僕も森に入ろう。
ザッコザッコと藪を掻き分け、卵を探す。お、早速見つけた、薄い桃色で、楕円型。見慣れた卵だ。ただこれ、妙にでかい。
「これでいいのか……?」
「おい、お前が拾わないのならもらっていくぞ」
「あ、すいません」
持っていかれてしまった……。じゃああれを拾っていけばよかったのか。
周りを見てみると、みんな結構な数の卵を抱えていた、んん?あれ、卵か?
抱えている卵のいくつかは、楕円形に近い形はしているものの、見慣れた卵とは違い、黒い物、白い物、緑だったり赤かったり、あとは極端に長い物などおおよそ卵とは思えないようなものまであった。そして、どれもでかい。
ああいうの全部卵なのだろうか、もう、それらしきものを全部適当に拾っていくことにしようか。
卵拾いを始めてから暫く経った。僕の腰につけた袋の中には多種多様、様々な卵のようなものが結構な量入っていて、少し重い。おっと、また茂みの中に卵が転がっている、拾っておこう。そろそろ、卵拾いも終了の時間だし、戻るか。
結構奥まで来てしまっているし、少し急いだほうがいいだろう。
ザッコザッコと藪を掻き分け、集合場所を目指す。結局猛獣は出てこなかったな。誰かが襲われたような悲鳴も聞こえなかったし。何事もなくてよかった。
そんなことを考えていたら、遠くの方に人ではない、動物の影が見えたような気がした。
「おいおいおい、そんなことってあるかよ。今出なくてよかったって締めたとこだぞ?このタイミングで出てくるとか、笑えねーからな?」
こっちに来るんじゃないぞ?僕はさすがにもう死にたくはない。
思いむなしく、遠くにいた獣は僕に気づいたようだ。目がいいなあいつ。
「助けてくれ!」僕は大声で叫ぶ、叫べば助けがすぐ来るって言っていたからな。僕の判断は間違っていないはずだ。たとえ、元の世界で猛獣に遭遇した時は静かにゆっくりと、目をそらさずにじわじわと下がるという教育が徹底されていたとしてもそれはこの世界の常識ではない。
しかし、助けは来ず、大声にびっくりしたような動きを見せた猛獣がさっきよりも早い動きでこちらに向かってくる。走って逃げるが、藪を走る人と、獣では速度が違う。
やばい、死んだなこれ。とか思いながら涙目で逃げていると、獣がゲヒィという悲鳴とともに吹き飛んだ。
「お手柄だねドロース君、こいつは大物だ」
「へ?」
振り返ると、そこにいたのはさっき台の上で卵拾いの説明をしていたおっさん、見た目は太り気味の中年だが、猛獣を一撃で倒し、僕の間に立つその姿は最高にかっこいいヒーローに見えた。
「こいつは君の報酬に加算しておくから」
「あ、ありがとうございます」
猛獣は瞬く間に、解体され、肉と皮という素材に変えられた。この獣はダンダルビーグという、肉がおいしく、皮はアクセサリーなどに加工される希少動物だそうだ。希少動物って狩ってもいいものだったっけ?おっさん曰く、
「この世界では動物も繁殖しないし、転生してくるだけだからどれだけ狩っても絶滅してしまう心配はないからいいんだよ」とのことだ。そういうものだろうか。
僕はおっさんと森の外を目指して歩いている間、おっさんからこの世界のいろんなことを教えてもらった。今日集めた卵は、様々な植物の実が転生してきた時の姿だということ、食べられたときか腐った時か、はたまた加工されたときかはわからないが、果物や野菜が死んだら僕らと同じようにこの世界に転生してくるそうだ。そういえば、僕もこの世界に来たときは卵に入っていたことを思い出す。
森から出ると、僕はおっさんによって、今日の賞金王の称号をもらった。正直、目立つのは好きではないので、あまりうれしくはなかった。
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