第5話:デヴィン・クルッセ~魔王にトドメを刺し損ねた勇者~

 最悪だ・・・・・・。

 ここが魔王の城へ向かう途中の、テントの中で見ている夢であったならばどれ程良かっただろうか。

「それで、確認するけど、君の名前はデヴィン・クルッセでいいんだね?」

「間違いないです……」

 これが現実で、俺の記憶が確かであるならば、俺はさっきまで仲間たちと世界の九割を闇に沈めた魔王と戦っていて、追い詰めた魔王にトドメの一撃を放ったはずだ。しかし今俺は、子供の体になり、この世界の最初の案内役を名乗る少女から「死んで別の世界で生まれ変わりました」という話を聞かされている。つまり、俺の攻撃は魔王に届かず、返り討ちにあって死んでしまったということだろう。

「あの、どうにかして元の世界に戻ることってできないですか」

「ここは、転生してきた人が来る場所というだけだから、そういったことはできない。下の世界に戻ったという人の話も聞いたことはない」

「そう言わないでくださいよ!俺が、俺が戻らないとあの世界は魔王に!全て、闇に沈められてしまう……」

「そうなったら、大体の人はこの世界に生まれ変わるよ」

 何だその言い方は、とカッとなって手が出てしまった。体は子供の体になっても、身体能力の衰えは感じず、彼女の左の頬を正確に捉えるよう放たれた拳は見えない壁に遮られて止まった。結界でも張っていたのだろうか。

「すまない」

 当たらなかったものの、女性の顔を殴ろうとしてしまうなんて勇者失格だ。

「別に、こういうことは良くあるから。かまわない」

「そうか……」

 これからどうしようか、どうにかして元の世界に戻る方法を探して、いや、その前に、僕と一緒に死んでしまったであろう仲間を探してみようか。

「さっき、君はここが転生した人が来る場所といっていたけど、他にもこういう場所はあるのかい?」

「ある、一緒に死んだ人を探すのなら、調べることもできるが、どうする?」

「調べてくれ、すぐにだ」

「出身世界はイグニカ、最近転生してきた人を検索してみる」

 彼女はぺぺぺと、慣れた手つきで持っていた石版のような魔道具を操る。

「出た、あなたの仲間というのは、中にいる?」

 魔道具に表示されている名前の一覧を上から順に見ていき、仲間の名前を探すが見つからない。

「この中に名前がないということは、あなたの仲間はこの世界に転生してきていないといいうことになる、よかったね、君の仲間はまだ死んでいないみたいだ」

 みんなは死んでいない?魔王と戦って俺だけが死んだってのか?

「あ、今新しく転生してきた人がいるみたいだけど、確認してみる?」

「もちろんだ」

 あの戦いの中で、俺を含めてみんなボロボロだったはず。俺だけを狙った攻撃で俺が死んだとして、残ったみんなが生きているということはさすがにないだろう。

 再び、魔道具の表示を覗き込もうとする。

「あ、この人魔王だね、この名前、イグニカから転生してきた人から聞いたことある、もしかして、仲間の人が魔王を倒したんじゃないか?」

「そんな、魔王が死んだ?じゃあ、もうあの世界は無事なのか……良かった」

 残されたみんながやってくれたんだな。魔王にトドメをさせるのは勇者の血筋である俺だけって聞いていたけど、そんなことはなかったのか。良かった。

「って、この世界に魔王が転生してきたってことは、次はこの世界が危機にさらされるんじゃないか!君、魔王もこういう場所にいるんだろう?案内してくれ」

「わかった連絡しておくから、この地図に従って進んで」

 魔道具から地図が出てくる、こんなにいろんな機能がある魔道具はあの世界にはなかった、この世界の文明はすごいんだな。

 俺は、彼女に礼を言い地図に従い進んみ、光の門をくぐった。


「がっはっは、お前の死に方は最高に勇者らしかったぞ」

「なに言ってるんだ、やったのはあんただろ?」

 魔王を殺しに来たはずの俺は魔王と仲良く一緒に酒を飲んでいた。 

 転生したばかりで俺と同じように小さくなってしまっている魔王の元にたどり着いたが、そのとき、魔王の周りには元の魔王よりも遥かに強そうな怪物たちが魔王に説教していた。聞けば、彼らも元は他の世界を支配していた魔王のような存在だったそうだ、彼らもこの世界に転生し、皆、一度は世界征服に近いことを考えたりもしたそうだが、この世界に転生してきているのは魔王や一般人だけではなく、当然、魔王を屠るだけの力を持つ各世界の勇者たちも転生してきていたため、この無限に広がるといわれている世界の広大な土地の、一部分だけを己の領地として支配するだけに留めているらしい。

 それで、無駄に他の種族を攻撃する輩が現れて、自分たちにとばっちりが来ないように、彼らはこの世界に新しく来た魔王的存在を締め上げ、野心を折るようにしているそうだ。

 魔王に説教した彼らは、そのまま飲みに行くらしく、俺も誘われたのでついてきた、というわけだ。

「いや、まさかペクティがトドメを刺したとはなぁ、俺の仲間の中で一番弱かったのによぉ」

「いやいや、お前が死んだ後怒りで豹変してな。その後はもう、我がどう攻撃しようと結界に弾かれ、全ての攻撃が必殺の威力だった。もし、あの子がこっちに来たら怒らせないほうが良いぞ。もうあっちの世界で会うことはあるまい」

「あいつ怒らせたことないけど、そんな怖いのか……。そうだよなぁ、あの世界も平和になったんならもう、俺が戻ることもねーよな」

「戻れるあてもないだろう、戻れることなら我も戻りたい。全てを闇に沈めるまで後一歩だったのだからな」

「もしあんたが戻ったら、俺も戻って今度こそ俺があんたを殺してやるよ」

「言ったな?」

「ああ、言ったさ」

 こうして、元勇者と元魔王の転生後初めての夜は更けていく。

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