第3話:ルーニード・モンス~テロン街の亡霊~

 テロン街、この世界始まりの地の一つと言われている古い街で、ターミナルのひとつが存在するが古い街だけあって、最近の技術で監視保護されていない場所が多い。そのため、この国で出所のわからない噂の元は大体この街に集まっていると言っても過言ではない。

 俺はこの国で探偵のような者をしているルーニード・モンス。最近この国で噂になっている亡霊の真実を突き止めてくれという依頼を受けて、さっき述べたような理由からこの街にやってきたわけだが、とある理由により調査は難航していた。

「この街、広すぎるだろ!」

 どうにもこうにも、この街、単純に広いだけではなく入り組みすぎなのだ。グローバルネットから拾ってきた街の地図がまったくあてにならないっていうのはどういうことだ。上空から撮影した写真や、魔術による走査を駆使して作られた地図があてにならないっておかしいだろう。空間が歪んでいるという噂は嘘や誇張ではないらしい。この街に今でも三十万人という人が住んでいるってことが驚きだよ、どういう神経してりゃこんな気が狂いそうな街で生活できるんだろうね。

 今は街を一望できる高台に来ているが、ここにたどり着くのも一苦労。一応、今はリアルタイムで魔術走査して目的地へナビしてくれるアプリなどもあって、そのナビも数秒間隔で案内する方向を変えたりと、最初はあてにならないと思っていたのだが物は試しと従い始めたらすぐにこの場所まで来ることができた。最新技術様々、信じる者は救われるってな。

 とりあえず街を見下ろしたくて高台までやってきたが、上から見る分には少し構造が立体的に入り組んでいるだけの普通の街に見える。だいたい写真で見るのと変わらない。

 しかし、昔の人は何を思ってこんな入り組んだ街を作ったのかね?この際限なく広いとまで言われているこの世界でよ。俺が生まれた世界みたくこの世界は球状の大地ではないとされている。昔はそんなことわかってなかったから狭い土地にこうやって無理やり多数の人を押し込めるような建築を進めたのかもしれんが。それにしてもやりすぎってものがあるだろう。

 そんな昔の人が何を考えていたか、なんてのはどっかの考古学者さんにでも任せるとして、俺は俺の仕事をしなきゃな。なんだ亡霊って、死んだ人が幽霊になって現れるという話はどこの世界にでもあるようで、俺の住んでいた町でも結構な噂になっていた。しかしだ、全員一度は死を経験しているこの世界で亡霊という存在が如何に馬鹿馬鹿しい存在かよく考えてくれって話だ。お前ら一回でも亡霊になったことあったか?って噂を広めてる馬鹿どもに言って回りたい気分だったが、仕事として持ち込まれた内容は亡霊騒ぎの元になるなんらかを突き止めてくれという依頼だったからな、本当に亡霊とかそういう存在だとは思っていないような内容で、俺も本当のところがなんなのかが気になってしまい受けてしまったのだが、失敗だっただろうか。

「やってらんねぇ」

 そもそも、半日彷徨って成果無しどころか噂に聞く亡霊とやらも見つからないとか、もしかして噂の出所はテロン街ではなかったのだろうか。日も勢いを失って暗くなってきたし、そろそろ帰ろうか。

 そこでふと思い至る。亡霊でも何でも、幽霊というものは暗くなってから現れる物ではないだろうか。まだしばらく、テロン街を彷徨ってみることにするか。


 目論見は完全に外れた。夜になったからと言って俺の目の前に亡霊が現れるということはなく、俺はただ腹を空かせて彷徨うだけになった。この街、夜になっても暫くは人工の灯りが照らしているのだが、割と早い時間にすべて消えてしまうし、店という店も閉まる。検索をかけても開いている店が一切ヒットしない。腹を空かせて彷徨う俺の姿は他の奴が見ればまるで彷徨う亡霊のような見た目だろう。

「そういうことかよ……」

 俺は気づいてしまった。やはり、噂の出所はこのテロン街だ。

 おそらくだが、噂になっていた亡霊というのは何らかの用があってテロン街に入った奴が何らかの理由で夜まで出られなくなり、今の俺と同じように彷徨っていたところを誰かに目撃され、それが噂になったのだろう。推測が多いが、これが亡霊の正体だ、ということにしよう。俺は早く帰りたい。

 何はともあれ、これで依頼は達成と考えていいだろう。あとは帰って報告書にまとめればいい。俺は携帯端末デバイスにターミナルまでのナビを頼もうとして、途方に暮れることになる、バッテリーが切れている。日中、酷使しすぎたのだろう。そもそも、リアルタイムでこの馬鹿広いテロン街で魔術走査を常時行っていたのだ、電力も魔力ももう空っぽだ。

 大気中の魔力を吸って自動で回復する機能はあるが、それでもこの街を出るまで魔術走査し続けるとなると、朝までかかるだろう。

 今夜の現れたテロン街の亡霊は朝まで消えそうにない。

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