第2話:ルルニア=ローテル~転生者窓口の女神~

 この世界に来たとき、私は最初に案内されたように自分の元居た世界の人が集まって暮らしている国へは行かなかった。元居た世界に私は馴染めていなかったから、適当な、読めもしない文字で書かれた窓口へ行き、その世界と元居た世界の言葉の辞書をもらってみたことも聞いたこともない世界の人たちが住む国へ渡った。

 結論から言えば、その国でも私の居場所は見つからなかった。

 子供まで戻った脳はすぐにその国の言葉を覚え、その世界に順応しようとしたが、私を必要としてくれる場所ではないことを感じ、次の国へ渡った。

 それを九年程繰り返した時、私が住んだことのない国はなくなっていて、ターミナル(全ての国へのワープゲートがある場所、異世界からの転生者が出現する場所に作られている)で次はどうしようかと考えていると、ターミナルの職員のおじさんが声をかけてきた。何度もこのターミナルを利用しているが、向こうから声をかけてきたのは、転生してきた時以来初めてだ。

「お嬢ちゃん、沢山国を巡っているみたいだけど、気に入る国はあったかい?」

「あったら、その国に腰を落ち着けていますよ」

 この会話に使った言葉は何を使ったかはもう思い出せないけれど、このとき、話しかけてもらえなかったら私はまた、自分で人生を終わらせていたかもしれない。

「ところで、お嬢ちゃんは何か国語話せるんだい?」

「この世界に存在する言葉は全部話せますよ」

デレラッペ?本当に?

デラ本当です

ルーニタ リタ?本当に本当?

ルテラ リタ本当に本当です

「驚いたね、まさかデトラ語やリメルレーン語まで使えるとは。よし、ターミナルで働かないかい?君のように様々な言語を操れる人材は希少だからね。ぜひうちに欲しい人材だ」

「私が必要なんですか?」

「ああ、必要さ。当たり前じゃないか」

「私が必要……」

 今までの人生、前の世界でも、この世界でも私を必要と言ってくれた人はいなかった。

「やります!私、ここで働きます!」

「よし来た、じゃあこの地図と紹介状を持っていきな。この場所に行けば、ここで働くための試験を受けられる。なぁに、君なら間違いなく合格さ」

「おじさん、ありがとうございます」

「そういえば、君の名前を聞いていなかったね」

「私ですか?私はルルニアです、ルルニア=ローテル」

「ルルニア=ローテルか、確かリーデアの女神の名だったかな、君はリーデアの生まれなのかい?」

「いえ、違いますけど。その、女神様ってどういう女神様なんですか?」

「リーデアでのルルニア=ローデルは死者を導く役割を持った女神さ、偶然にしては出来すぎかな?」

「偶然じゃないのかもしれませんよ?」

「ここで働くために生まれてきたってか?」

「きっと、ですけどね」


 その後、おじさんに再度お礼を言い地図を見ながら、ターミナルの中を進んでいき、共通語で書かれた【関係者以外立ち入り禁止】の看板に不可視の力で道をふさがれたりもして、困りましたが通りすがりの職員の人を捕まえてなんとか、地図の場所にたどり着きました。紹介状を看板に提示すると通れるようになるとか、予め言っておいてほしかったんですけど。受けた試験は基本的な各種世界の言語の確認、話の途中に言語がコロコロ変わる特殊な雑談を交えた面接を経て、私はターミナル職員、転生者が最初に出会う存在になった。


 ターミナル職員になって三年程、何千、もしかしたら万を超える転生者と出会い、導いてきた。中には私を死後の世界の女神だと思っている転生者もいた。この仕事で出会う人は皆、この世界に来たことで戸惑ったり、喜んだり、絶望を深くしたり、まぁ、死に対する価値観も、転生というシステムも、世界によって考え方も、その中での個人の考え方に差があるから、当然様々な反応があるのは当然だろう。しかし、皆が私を必要としてくれる、私はそれでいいのだ。ターミナルを後にした人たちが誰一人、この場所に戻ってこないとしても、私を必要とした人が世界に溢れていくという事実が私には必要なのだ。

 私は、私に必要な私を必要としてくれる人が次々と現れる、この場所で三度目の人生を、死を導く女神として生きていく。

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