死後の異世界
三田村綯夜
第1話:皇勇人~異世界転生の理想と現実~
俺の名前は
学校の帰り、俺は何者かに車道に突き飛ばされ、気づけばこの卵の中のような場所にいた。人一人分のスペースしかなく、ひどく狭い。卵は外の光が透けてくる程薄く、たたけば簡単に壊すこともできそうなのだが、壊してしまってもいい物なのだろうか。
しかし、車道に飛び出して、そこからの記憶がなく、思い当たることのない場所にいる、これって……
「もしかして、異世界転生ってやつか?」
「気が付いたみたいだな、その通り、君は異世界で死に、この世界にやってきたのだ」
卵の外から話しかけられる。声の感じは女性、それもとても若い。もしかして俺をこの世界に連れてきた女神様なのだろうか。異世界転生といえば女神様同伴が最近の定番みたいなものだしな。声に比べてしゃべり方が年より臭いのも女神っぽい。
「気が付いたのならさっさと出てきてくれるか?その卵、割っちゃってもいいから」
やはり卵だったのか。割っていいと言われたのなら、遠慮はいらないだろう、こういう、壊れやすいものを思いっきりぶっ壊すというのを一度やってみたかった。
壁に向かって勢いよく手を伸ばし、拳を当てる。想像通り、卵の殻は簡単に砕け、俺は空いた穴から破壊を広げていく。体を動かして気づいたのだが、なんだか、俺の体小さくなってないか?
「おはよう、新しい体の調子はどうかな?」
卵から出ると、一人の女性が声をかけてくる。予想通り、見た目はまだ高校生ぐらいの見た目で、俺と同じぐらいの年に見える、ただし、同級生にいた女子たちよりも遥かに美人さんだ。俺はこの女神様と魔王やらなんやらを倒す旅に出ることになるんだな。少し怖くもあるが、冒険の旅は楽しみでもある。
「って、新しい体?」
そこで俺は初めて自分の体を見た。さっきも少し気になってはいたのだが
「ななな、なんだこれ!?」
なんとなく小さくなった?くらいだと思っていたが、予想よりも遥かに小さくなっていたため、思っていた以上に声が出た。推定年齢五歳だ。これで魔王と戦うってのは無理があるのではないだろうか。まぁ、異世界に生まれなおしたんだ、体が五歳になっていても不思議はないだろう、異世界だしな元の世界では不思議なことぐらいいくらでもあるだろう。
「なんだ、気づいていなかったのか、まぁいい。君に……、いや、先に名前を聞いておこうか。別に本名でなくとも、偽名やハンドルネームのようなものでもいいぞ?単純に君を識別するための記号であればA太郎でもB乃助でも何でも構わん。この世界で名乗る名前を登録せねばならんのでな」
「俺の名前?皇 勇人だけど」
「スメラギハヤト、か。それで、まぁ言葉から察するに、ハヤトの元いた世界は地球の日本という国で間違いないな?」
「大丈夫、あってます」
「死んだ年は?」
「死んだ年……、十七です」
やっぱり、俺は死んだのか。うすうす気づいていたし、そういえばさっきも言われていたような気がする。たぶん、車道に飛び出した時にトラックに撥ねられたんだろう。これも異世界転生物のお約束だしな。運よく異世界に転生できただけでも御の字だ。
「なるほど、若くして死んだのだな。それはショックだっただろう。しかし、死んだことなど忘れてこれからはこの世界で楽しく過ごすがよい」
そうだな、この異世界で楽しく……?
「楽しくって、魔王とかは?俺は勇者として召喚されたんじゃないのか?」
「そんなもの、居ないことはないが、この世界ではおとなしくしとるぞ?ああ、そうかそうか、ハヤトは「日本の高校生」だったな」
なんか、日本の高校生というところを強調して笑われた。そんなに日本の高校生はおかしいんだろうか。
「いやなに、日本の高校生は異世界転生に定型の期待を抱きすぎていると仲間内でも話題になっておるのだ」
「他にも、異世界からの転生者がいるのか?」
「いるも何も、私も別の世界から転生してきた身だし、そもそもこの世界に住んでいる者全て異世界からの転生者さ」
「はぁ?」
そんなこと、あり得るのか?異世界転生って言ったら選ばれし勇者の特権みたいなものだろ?
「この世界はな、他の世界で死んだ者が全てかどうかはわからんが、大体ほとんどが転生してくる世界でな、この世界では子供が生まれんから、この世界に住んでいるすべての者は異世界からの転生者なんだ」
「じゃ、じゃあ君は、女神様じゃないのか?」
「私か?私はただの、転生者を案内するための公務員みたいなものだよ。そうそう、次の案内窓口はあっちだ、日本語で書いてある看板の窓口へ行くとよいぞ?言葉が通じなくてもやっていける自信があるのであれば、他の窓口に行ってもいいがな」
皇 勇人、十七歳、いや、異世界に生まれ落ちてまだ数分、年齢はまだゼロ歳。異世界転生の理想をことごとく打ち砕かれ、現実に直面して、心が砕けそうです。
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