第7話 人食い幻獣 マンティコア

ターゲットのいるビルに突入。 の前に結界陣の確認へ。

その結果、マンティコアはおとなしくしているようで機械に問題はなかった。

無理に出ようとすれば計器に数値として残るので直ぐに分かるのだが、こうまでおとなしいとと不気味ですらある。


「俺も行く!」

シノノメはそう言って付いて来ようとした。


「シノお前は残れと言っただろう」

シシバシはそう言ったが気持ちは分からないでもなかった。

ジェットの敵討ち。 それはシノノメも同じ思いだろう。 しかし……


「邪魔! 足手まといはイラネ」

イスナはイシバシの感傷ごと切って捨てた。


「このクソガキ! 誰が足手まといだコラ!?」


あんまりと言えばあんまりな言葉にシノノメがイスナに食って掛かる。


それをイスナは迎撃する。

「アンタだよアンタ! センチメンタルな気分に浸ってるお坊ちゃん」


「ざけんなよ! お前なんかよりとっぽど!」 

イスナの挑発に激高したシノノメは脅すつもりで彼女に銃を突きつけ様として、そこで言葉を失う。


何時の間にか抜いていたのか。今だホルスターより抜ききっていないシノノメの額に彼女の銃、マテバ モデル6 ウニカが突き付けられていた。


何時の間に!?

「これは私の仕事なんだ。 雑魚はお呼びじゃねぇての」


シノノメは余りの早業に混乱したがすぐに体を躱し銃口から逃れようとしたが。


こいつっ!?

なんでだよ!? なんで離れねぇ!


自分の射撃の腕は確かに上手いとは言い切れない。 だが体術には自信があった。

イシバシさんにも褒めてもらえた。


なのに、こいつは!

どれだけ動こうが、フェイントを掛けようがその銃口はシノノメの額から離れない。ぶれる事すらなかった。


最期には地面に座り込んでしまった。

「分かった? アンタはその程度の 「すまんがそれくらいにしてやってくれ」」


痛烈な一言を告げる前にイシバシが止めに入る。

イスナは肩を竦めるとシノノメから離れた。


「シノ分かっただろう? すまんが、今回はヴィーグルの番をしていてくれ」

「イシバシさん俺…… アイツはなんなんですか?」


そういえば、シノノメはイスナについてほとんど知らなかったな。

イシバシはそう思い出し、イスナについて少し話すことにした。

それはシノノメに恐怖を与えるだろうが。


「あの小娘は委員会公認の狩人だ。 それは知ってるな?」

その言葉にシノノメは頷く。 それは知っている。だがそれがなんだと言うのだ。


イシバシはそこでイスナには聞こえないよう声を潜めた。

「いいか? 彼女は委員会公認魔女で、そしてあいつこそが…… 【ウィッチドッグ】だ」


【ウィッチドッグ】 それは封印都市に住む人々によってさげずみとそして恐怖の名前。


【ウィッチドッグ】 それは幻獣を喰らう猟犬。

そのためには人ですら構わず喰らうという。


【ウィッチドッグ】 ああ、その存在よ呪われてあれ!


シノノメは全身が氷に包まれたような錯覚に襲われた。


何時の間にかイスナがこちらを見ていた。

その瞳はなんの感情も映して無く。 まるで、まるで……



「時間もったいないし、そろそろいかね?」

その言葉にイシバシは頷き、シノノメの肩を一つ叩くと歩き出した。










カレは微睡んでいた。

昨日の戦いとも呼べぬものは大した労力ではなかったが、少しに傷を負ってしまったが、その時喰らった肉でやがて塞がるだろう。


カレは微睡んでいた。 新たな得物が近づいてくるのを感じつつ。

夢見るままに待ち至る……




イシバシを先頭にしてビルに侵入する。

その後ろを緊張感なく歩くイスナは、それと気づかれない内に探知の手を伸ばしていた。


なぁんかおかしいんだよね。

イスナはビルに入ってから感じていた違和感に内心首を捻っていた。


マンティコアが『幻獣落ち』してから4日は経っている。

その間、被害者は0 昨日のジェットの肉を喰らったとしても少量だろう。


そんなので強力なエネルギーを必要とする魔法を維持できるのか?


なにか見落として無い?

イスナの考えはイシバシの声に遮られた。

「この上だ」


どうやら考え込んでいる内に4階まで進んでいたようだ。


イカンイカン。 イスナは気を引き締めると改めて装備をチェックする。


……問題なし。


イシバシに頷き階段を昇る。

ヤンはまた別のビルで狙撃準備中だ。 同じ場所で狙わないとは実に有能であった。


「しかし、相変わらず短機関銃サブマシンガンは使わないんだな」

イスナの武器が拳銃マテバのみなのを見てイシバシが言った。

とはいえ不安に思っての事ではない。 純粋に好奇心からだった。

なにせこれで彼女は今日まで生き残っているのだ。不安に思う要素はない。


「ばらまくのは好きじゃないんでね」

イスナはそううそぶいて軽く銃を振った。


階段を上がりきる前にそっと頭を出し確認し、問題ないと合図する。


イシバシがヤンに突入する旨をマイクを叩くことで伝えると、慎重にその大柄な身体を精一杯縮めながら遮蔽物を上手く使いターゲットに近づく。


イスナもイシバシとは違うルートを使い同じく接近する。

その際にまったく音を立てないのはさすがであった。

この場に場違いな黒いセーラー服を着ているにも関わらずだ。


そしてマンティコアのいる部屋を覗き見た所、どうやらまた寝ているようだ。


うーん? 寝てエネルギー消費を押さえてる?

最初の時も寝ていたとイシバシは言っていた筈だ。


刹那的な思考に流されやすい幻獣がそんな消極的な事を考えるだろうか?

イスナの頭にさらに疑念が沸く。


他人を使って狩りをするのとは違う。 あれは、そういった行為を楽しみと認識しているから行うのだ。

エネルギー消費を押さえるといった行為とはまるで違う。


イスナは頭を一つ振り、気持ちを切り替え、イシバシに合図する。

イスナは現在物陰に隠れている。 まずイシバシが攻撃して、視認できない側からイスナの銃でトドメをさす。 そういう作戦だが、はたして……


まあなんとかなるっしょ!


イスナは作戦開始の合図をイシバシに送り銃を構える。


その合図と共に、イシバシのMP5RASが火を噴く。今回は二丁用意してアガジンが切れたら次の銃を撃つ。その後はターゲットの確認をせずそのまま物陰に隠れる作戦だった。


3……2……1……0! イシバシのカウントと同時に銃撃が止み、豪雨の中のような音で支配されていた空間が静けさを取り戻す。


そこにはやはり無傷のマンティコアがいた。


そして魔女であるイスナには見えていた。 マンティコアの周りに渦巻く魔力の奔流を、そしてそれが消えた時。


……もらった!


物陰から片膝立ち、両手でしっかりと銃を保持し、その顔面めがけ撃つ。


それは狙いたがわずマンティコアの頭を撃ち抜いた。


ドサリと音を立て床に崩れ落ちるマンティコア。


イシバシはマガジン交換を終えたMP5RASを油断なくマンティコアに向けつつ姿を見せる。


「あっけないものだな」

しばらくしてイシバシはそっと息を付いた。



そのイシバシが吹き飛ぶ。


「ぐあっ!?」

「おっさん!?」


イシバシは壁に叩きつけられたが、どうやら息はあるようだったが気絶しているようだ。

イスナの呼びかけにも答えない。


イスナはゆっくりとイシバシを襲った相手に向き直る。


それはニヤイヤとした笑顔を浮かべる倒れ伏すマンティコアの身体から生える蛇のような身体に人の顔が載っているモノだった。



「なるほどね。 寄生体か」


イスナはその存在を知っていた。


寄生体とは幻獣のカテゴリには入らない。

人が生み出した悪夢だった。

イスナはその存在をいやというほど知っていた。


寄生体と呼ばれたモノはニヤニヤと笑みを浮かべたままでいたが、今まで倒れていたマンティコアが動き出した。


「幻獣の死人化とはね」

その身体はよく見ると所々腐っていた。

死人であるなら食事の必要はないわけだ。


「ゲゲ、油断したぜ。 まさか隠れてるなんてな!」

寄生体はそう言って下卑た笑みを見せると、蛇のような身体部分だけをマンンティコアの身体に潜り込ませる。


そこで借り受けたイスナの頭部装着無線機インカムにヤンの声が入る。


「イスナ、そこからだと狙えない。 どうにか動かせないか?」


「あーらくしょーだから それより後片づけよろしく」

そう言ってインカムを切る。


「なにが楽勝なんだ?」

その声が聞こえたのか寄生体はイスナを睨み付ける。


その寄生体を見てイスナはバカにしたように笑う。

「決まってんだろ? テメエを始末する事だよ」


「ぎゃははは! バカか? テメエみたいなチンケなガキ一人すぐに食い殺してやるよ!」

そう言うとマンティコアに寄生した存在は素早い動きで躍りかかる。


しかしそれはイスナを飛び越えイシバシの元に。


「と、思ったけど先ずは飯だ!」

そう言って気絶したイシバシの首筋に牙を突き立て……


ようとしてその牙は空を切る。


「あん?」


慌てて辺りを見回すといつの間にかガキの側にイシバシがいた。

なんだ?

たしかに気絶してたはずだ。 なんであんな所に?


「いい気になるなよ。この化け物」

イスナは銃をしまい、両腕をだらりと下げた。


「なんだそれは? 観念したのか?」


その問いにイスナは答えない。 その代わり。


カシャン。と小さな音とともにイスナの手足に細いスリットが幾つも生まれ、そこからどす黒い光としか形容できないモノがあふれて来た。


「テメエ、犬は好きか?」


「は?」

なにやら訳の分からない現象を起こす少女に、半ば飲まれていた寄生体はその質問に間抜けな声を上げた。


その少女からあふれる光はカレの身体にまとわりつき身動きが取れなくなった。


「いい機会だ。 テメエに犬の恐ろしさを教えてやんよ」

感謝しな。


寄生体が最後に聞いたのはその言葉だけだった。





寄生体。 これはアカツキ研究所の……

イスナは何もない空間を見つめ、ドヤドヤと足音荒く駆け上がってくる彼らを待つのだった。




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