十二年の祝祭 救世の蒼い天使は終わる世界の夢を見るか?

 今年でセラフィックブルーが配信されて十二年、DC(ディレクターズカット)版が配信されてから十年が経とうとしています。


 十年の祝祭には参加できなかったので(まあ、そんなの私一人が言ってるだけの話ですが)、今回は一人で十二年の祝祭と洒落込もうかと思い久しぶりにプレイしてみました。


 二ヶ月強で何とかクリア。


 何度プレイしてもわかる、フリーゲームとはとても思えないクオリティの高さ。

 そして、テーマの深さ。


 ハッキリ言って、アマチュアのレベルを超えています。


 今回は自分なりにこの作品に対する解釈なりを登場人物ごとに書こうと思っています。

 ですので、未プレイの方にはさっぱり意味が分からない上にプレイ中の方にとっては、かなりのネタばれ内容になりますのでご了承ください。



 レイク・ランドヴェリー

 このゲームの主人公。

 三章までは彼が真人間になるまでの話とも言える。

 何せ、合法的な殺戮が出来ると言う理由でイーグルスイーパー(黒い翼の化物を駆除する仕事)をやるぐらいだから。

 といっても、人格破綻者がぞろぞろと出てくるこのゲームにしては、まだマシな方。

 自分がクズだという自覚はあるようだから、ニクソンにもまだどうにでもなる、と言ってもらえる。

 そもそも、合法的に殺戮をしたいのであれば戦争屋にでもなればいいものをそうしないところが如実に彼がギリギリのところで踏みとどまっている事を示唆しています。

 淀んではいるが、腐ってはいない、と言ったところか。

 話は変わりますが、私は彼のスタンスは結構好きですね。

 ゲオルクに対し、世界を食い物にしようとしているからキれるのではなく、身内を食い物にされたからキれるという、あくまでもヒーローではなく狂犬であろうとする姿勢は本当に大好きです。

 ところで、ヴェーネは黒幕であるクルスク一家からの――カルネアデスの板を引き合いに出した――問いに対し、今のレイクなら自分が身を捨て他者を助ける選択をすることができたはず、と言っていましたが、実は最期で彼はその選択をしているのです。

 あの場面で、ヴェーネを連れて逃げることができたはずなのに彼はそれをしなかった。

 ゲオルクと共に散っていくことを選択した。

 まあ、トゥルクの森での借りを返したともいえるけれども。

 そして、その果てに待っていたのは、抜けるような青空だった。

 彼のなかで降り続いた雨は漸く止んだのです。

 素敵な最期だと私は思います。


 ユアン・オースティン

 レイクの父親。

 人情に厚い人格者。

 だけど、クソ親父。

 彼は、このゲームの良心ともいえる存在であります。

 口で俺が親父だ、と言う前にその行動によって道を示すことにより己が親父だと証明した。

 絵に描いた餅ではなく、食える餅を与えることのできる人種だった訳ですね。

 失われた家族の絆の復活という一つのテーマで、彼とレイクはその象徴。


 シリア・ローズバーグ

 レイクの母親。

 レイクを出産した後、ユアンに看取られ死亡。

 薄幸の女性ひと

 その、幸薄さはヴェーネにも受け継がれてしまったようで……。

 まあ、なんともやり切れんです。

 親父運の悪さはある種の呪いなのか。


 ニクソン・クロムウェル

 牧師さん。

 ちょっと聞き分けの無いお客さんには、銃口を向けちゃう牧師さん。

 だけど良い人。

 ちなみに彼は奥さんと娘に逃げられています。

 良い人=良い旦那、父親ではなかったという残念なケース。

 彼は教会で幼天使孤児を預かり面倒を見ていましたが、遅発性ディスピスを発症しルシファー変異症まで行き着いてしまった――黒い翼が生えてしまった子供たちを自らの手で眠らせるという過酷な事件を経験した後、神に対する信仰心を失ってしまいます。

 ですが、その後ヤンシー、ランサード、そして、ドリスと出会い、様々な経験の果てに生きていく手段としての神に対する信仰心を取り戻します。

 この流れって、映画「サイン」と被るような気がするのですが、やはりグラハム・ヘスがモデルなのでしょうか?


 ミネルヴァ・フェジテ

 四代目天使国家フェジテ女王。

 クイーン・ミネルヴァ。

 全くお姫様を感じさせないから不思議。

 気が強いからだろうけれど。

 初代女王を除けば最も激動の時代を生きたであろう彼女。

 ただ、ヒョードルと同じくらいに青臭さジュブナイルを感じさせるのは気のせいだろうか?


 フォクシー(エリザベート・ディオール)

 歓楽都市エンヴィの裏の顔として存在するスラム街・ケイオスにて売春婦として日々を生きている彼女。

 ただ、売春婦として生きているのは、それしか生きていく手段を見出せなかったからかもしれない。

 レイクと同じくやけっぱちになっているのかも知れないが。

 或いは両親が死んでしまう原因を作った自分への罰のつもりだったのかもしれない。

 最後にマルゴ狂夢堂でかつて摘出したはずの子宮が大切に保存されているのを見て泣き崩れたあたりはジーンときてしまった。


 ハウゼン

 クイーン・ミネルヴァに付き従い、あらゆるものから彼女を守ってきた騎士の中の騎士。

 或いは、最高の父親。

 例え血が繋がっていなくても、例えそれが人間でなくとも良き父親でいることができることを証明した良い例。


 ヤンシー・ユティカ

 テンリンのモンク。

 かつて、イーグルの群れから友人を救うことが出来なかったトラウマを抱えている彼女。

 だが、転機は突如として表れる。

 妙な気配を察知し三条峰へ向かう。

 そこで彼女はドリスと運命的な出逢いを果たす。

 救うことが叶わなかった友人とドリスを重ねてしまう彼女は、どこまでも献身的にドリスをヴェーネのところまで送り届けようとする。

 ある種、贖罪から生まれた感情もドリスと触れ合うに連れ、家族の繋がりに近いものに変化していく。

 姉であり、母親であろうとする彼女の強さにぐっと来ちゃいますね。


 ドリス・シュテンダル

 このゲームにおいて、唯一の萌えキャラ。

 ただ、彼女の経験してきた人生は本当に過酷で残酷。

 彼女の過去を話す場面では、気をしっかり持っていないとボロボロに泣いてしまう。

 遅発性ディスピスを発症し、ルシファー変異症までは至らなかったけれども、その影響でサヴァン症候群に罹患。

 軽度の精神障害と引き換えに膨大な魔力、ならびに魔法の才を得ることになる。

 ですが、大きすぎる力を持つ者の常なのか、苦渋に満ちた出来事ばかりが待ち受けています。

 母親は、捨てるも同然に魔法最高学府・フェジテ魔法アカデミーに親権を譲渡します。

 このあたりは、完全に人身売買。現にこのクソ母親は多額の奨励金を手にしている。

 そうして通うことになったアカデミーでは、陰湿な虐めが彼女を待ち受けているのです。

 踏んだり蹴ったり、とは正にこの事。

 レイプまでやらかそうとしていた連中はドリスの暴走した魔力によって遺体も残らない程に消し飛ばされてしまったので、因果応報としか言いようがないですが。

 彼女の母親は本当に覚悟の出来ていなかった無責任な親の典型と言ってもいい。

 ニクソンにも責任感と覚悟が圧倒的に足りていない、と言われていますし。

 自分の子供をアクセサリーと勘違いしている最低にして最悪の手合い。

 まず、覚悟ができないのであれば子供なんて産んじゃ駄目だ。

 何よりも生まれてきた子供が不幸になる。

 産んだだけでは、血の繋がりだけでは親にはなれないという、本当に最低のケース。

 まあ、セラパーソンは殆ど試験管ベイビーだからお腹を痛めて産んだ事によって得られる愛情が欠落することも多いのかもしれませんが、そんなのは言い訳にはなりません。

 だって、クルスク一家のケースがあるわけだし。

 ヤンシーと共に歩む人生が多幸であることを祈らずにはいられないですね。


 ランサード・シャイアン

 最強のイーグル「ディザスティア」を倒した英雄。

 そして、グラウンドに住むパーソンのなかで初めて、黒い翼の真実を悟った人物。

 明らかにドリスとアイシャを重ねていたであろう彼はヤンシーとドリスに同行。

 そうした運命の果てにディザスティアともう一度向き合うことになる。

 確かに彼はアイシャに止めを刺したが、彼ら――クルスク一家の理論に沿えば唯一彼女を『真なる愛の場所』へと開放した男なわけで。

 本当にクルスク一家が彼を恨んでいたのかは、良く分かりませんでした。

 レイクとは対照的に彼は正義を求めてバウンティハンターになったようですが、現実があれなら抜け殻同然になってもしょうがないのかもしれない。


 ヴィルジニー

 ヴァルキュリーフェイク。

 シリアの姿を模したバイオヒューマン。

 そして、ゲオルクの狂気の結晶。

 実は彼女、抱えている問題はヴェーネと全く同じ。

 ただスケールが大きく違う。

 一個人に対する執着か、己の運命に対する執着か。

 前者の場合はその個人を見限れば簡単に解決する話だけれど、後者の場合はそうもいかない。

 恨もうが、憎もうが、どうにもならない。むしろ自らの首を絞めることになる。

 あまりにも厄介すぎる。

 というわけで、彼女のケースはヴェーネを救う答えにはならなさそうです。

 残念。


 イリエナ・カンパーニ

 レイクの育ての親。

 孤児院を経営するみんなの肝っ玉母さん。

 ただ、レイクは彼女のことを母親とは認められずにイリエナと呼び続ける。

 彼にとって母親とは唯一無二の存在だったわけです。

 でも、精神的に成長したあとのレイクはイリエナのことを母さんと呼ぶことができたようで。

 ここの場面はユアンと同じ気持ちだったでしょうね。

 残される側と去り逝く側という違いがあるけれども。


 ランゲル・ハルス

 レイクの腐れ縁。

 お年を召した医者。

 理想ロマンを抱き続けることに疲れ果てた現実主義者リアリスト

 後にカイジの利根川かと思うぐらいの理論を引っ提げ敵として再登場。

 曰く、人は幸せになどなりたいのではない。安心したいのだ。

 そして、安心は金で買える。

 まあ、あんな地獄においていかれるんだから安心もクソもないですが。

 キャサリンに助けられたことは幸運だった。

 彼はまた多くの人たちに救いの手を差し伸べる決心をすることができたのだから。


 トロイ・アイスハーバー

 ホワイトウィングラボラトリーに勤める研究員。

 変わり者であるがゆえに現場から干されてしまう。

 彼がレイク達に語った黒が白、白が黒だと固定観念を疑ってみることも大事じゃね? という思想はこのゲームが纏い続けるテーマを示唆しているように思えます。

 つまり、生きることは本当に幸せなことなのか。

 そして、死ぬことは本当に不幸なことなのか。

 生に執着するのは正しいのか。

 死を求めるのは間違いなのか。

 まあ、答えなんかどこにもありませんが。


 オーグの人たち

 受付嬢の二ネット・トゥールーズ。

 そして、双子のシャル・ランカスターとリーナ・ランカスター。

 シャルとリーナは天ぷら氏の前作であるスターダストブルー、セイクリットブルーにも出ているそうで(FFシリーズにおけるシドやビックス、ウェッジのような立ち位置)。

 現在はダウンロードできないことが悔やまれる。


 リオ・エクスプローラー

 天使国家フェジテの創設者たち。

 ドナルド・ヒューストン。

 マルゴ・モンテリマール。

 キャサリン・リオと共に激動の時代を生きた二人だったが、抱え込んだ業の深さは彼らを苦しめ続けた。

 彼らの場合はヴェーネとは違い、星を救うまでの人生=懲役という構図ではなく、すべての事柄に於いての贖罪だったのだろう(ヴェーネの場合は底なしの厭世観によるものだったが、彼らの場合は多くの人たちの人生を狂わせてきたという罪悪感から)。

 「ショーシャンクの空に」のブルックス爺さんを嫌でも彷彿とさせる。

 ハッピーエンドは失われてしまった。

 けれども、その行為によってしか彼らの魂を救うことができなかったのならば、それは意義のある選択だったのではないでしょうか。

 まあ、なんとも虚しいですが。


 フェジテ内政部

 デイジー・メイスン。

 オーウェン・バルチック。

 ジェラール・アランソン。

 女王代理のデイジー。

 政治だけではなく戦闘もこなすスペリオルメイジ。

 ジェラールを黒死のレオから助けるシーンとかはマジでかっこいいです。

 終盤のジークベルト宅の家捜しのシーンは本当に好きです。

 とくにオーウェンが「I hope」そう在ることを願おう、と言う場面は彼の人柄を如実に表しています(ちなみにこれは映画「ショーシャンクの空に」のラストで、レッドが仮釈放後、アンドリューに会いにいく場面で「I hope」と口にしています)。

 しかし、ジェラールの過去話は本当に後味が悪いです。

 村社会における闇なのでしょうか?

 「ひぐらしのなく頃に」の雛見沢村を思い出してしまいました。

 ダム建設反対派が賛成派の一家にリンチを施すシーンとかを特に。

 あれの場合、結局は村がなくなることはなかったけれども。


 モーガン・ダグラス

 フェジテ内政部の幹部。

 エンデにそそのかされ国家転覆の野望を抱いていた。

 しかし、性格は至って小物そのもの。

 強者に弱く弱者に強い。

 糞野朗を絵に描いたような奴。

 最終的にはエンデによりガイアキャンサー・バルバラと融合させられ、レイク達に差し向けられる。

 この末路に通常版ではレイクに、DC版ではヴェーネに小悪党の典型的な最期だ、と嗤われてしまう。

 まあ、自業自得ですが。

 こいつの一番糞なところは、エイブラムにルシファーを『納品』していたこと。

 一見、Win-Winの関係にみえますが、他人の不幸を食い物にしている訳で。

 クズのなかのクズです。


 ヒョードル・ヴォロネシ

 ロビン開発部にてパーソンでありながらラージュ建設の第二主任を務める若き天才。

 セラパーソンに対し、並々ならぬ闘志を燃やす。

 曰く、劣等種のパーソンが優等種のセラパーソンに勝つことが出来ると証明したい、との事。

 この姿勢によりハイディからは青二才ジュブナイルと言われる。

 最終的には、ゲオルクを見限り仲間になる。

 こいつをパーティメンバーとして使いたかったのは私だけでしょうか?


 星の代弁者

 ベネディクタ・フェジテ。

 キャサリン・リオ。

 黒衣の美人姉妹。

 実は、同一人物。

 すべては彼女達から始まった。

 学問で優秀な人材を輩出してきた名門・フェジテ家。

 ベネディクタは期待と責任を一身に背負い生を受ける。

 だが、彼女は凡才だった。

 極めて悪くも無いが良くも無い成績。

 普通の家庭ならばそれでよかったが、フェジテ家はそれを許さなかった。

 両親からは見放され、味方と言えるのは護衛用マジックドールのハウゼンだけ。

 そして、月日が流れ両親共に逝ってしまった後に彼女はガイア理論の論文を発表しフェジテ家最高の学者として名を刻むことになる。

 が、すべては遅すぎた。

 彼女の求めていたのは周囲の賞賛ではなく、両親の暖かい抱擁だったのだ。

 本当に求めていたものは、もう手に入らない。

 彼女はその絶望の果てに自らの命を絶ってしまう。

 そのまま、ソウルホームに帰りソウルイニシャライズされ新たな命として生まれ変わるはずだった彼女の魂はそうはならなかった。

 ソウルイニシャライズされないまま第二の人生を送ることになる。

 セカンドカーネル。

 世界で初のセラパーソン、キャサリン・リオが生を受ける。

 彼女は平凡に育っていった。自分の中に眠るベネディクタの存在など知るよしもなく。

 だが、誰にでも転機は訪れる。勿論、彼女にも例外なく転機は訪れた。

 一家全員事故に遭い両親は死んでしまいキャサリンだけが生き残った。

 ハウゼンに救助されたのだ。

 だが、右足切断というハンデを背負ってしまう。

 茫然自失とする日々。

 しかし、自分の中にもう一人人格が存在することに気が付く。

 ベネディクタだ。

 彼女は親の愛を求める幼子のようだった。

 それは、常に優等でなければならないという強迫観念に近いものとして存在していた。

 キャサリンはそんな彼女が少しでも満たされるならと勉強に精を出す。

 ベネディクタの記憶の助けもあり世界中に天才として名を馳せることになる。

 リオ・エクスプローラーを結成し辺境の大陸ユヴェスを空に浮かべ天使国家フェジテを建国し名前をキャサリン・フェジテに変え初代女王に就任する。

 家庭にも恵まれ、その生涯を終えた。

 彼女達の魂は今度こそソウルホームへと還るはずだった。

 しかし、彼女達の魂はガイアプロビレンスに組み込まれ星の代弁者となる。

 ベネディクタは幼子の姿で。

 キャサリンはそれを守る姉のような姿で。

 同一の魂にもかかわらず、それぞれの人格を体現した姿で星をガイアリバースに導く存在となった。

 この話だけで、小説一冊分のボリュームがあります。

 しかし、まあ、ベネディクタの精神の脆弱性は酷すぎる。

 あまり、幸福ではない人生を送ってきたからだろうか。


 エイブラム

 DLG法遺族会の派生組織、カオス救世会の会長。

 クルスク一家曰く、腑抜け。

 確かにこいつがやっていたこと自体が傷の舐め合い以外の何物でもない。

 ルシファー変異症により変わり果てた姿の患者とその家族を「再会」させ、自分はもう戻らない息子の穴を埋めるかのように金銭を欲する。

 ミネルヴァにも金を求めたのではなく、金を求めざるを得なかった、と同情に近いことを言われているし。

 取り戻すことのできない、かつて確かに存在した幸せな日々。

 その情景ifを彼らは求めていたのだろう。

 実はこいつの息子がエンデの前身という説がありましたけど、結局のところどうなのでしょうか?


 ゲオルク・ローズバーグ

 大財閥ローズバーグ・グループのトップ。

 シリアの父親。

 つまりはレイクの祖父さん。

 こいつも大概な人格破綻者。

 シリアに対して異常な執着を見せる。

 だが、それは愛情からくるものではなく、自分のなかの理想の娘という偶像に対しての歪んだ形容し難い感情からくるもの。

 だから、レイクを身籠ったシリアを見た彼は激昂し、メス豚と罵った後に無一文で外に――出産を控えた身重な彼女を――放り出してしまう。

 野垂れ死ぬと分かっていながら。

 そして、彼女の魂を受け継ぐヴェーネを狙い理想の娘シリアの復活を目論む、という倒錯しきったイカれた思考回路の持ち主。

 極めつけはユアンはおろか実の孫のレイクすら穢れた血と称して抹殺しようとする始末。

 完全にキチガイです。

 ここまで徹底した奴も珍しい。

 ジークベルトには劣りますが。

 

 フリッツ・アンスバッハ

 ヴェーネの兄ちゃん。

 良い奴なんだけど、こいつもなかなかアレだと思う。

 だって、一緒に暮らそうとヴェーネに持ちかける癖に、

「君は十字架。僕は咎人。背負うことはあっても、抱きしめ合うことは有り得ない」

 とか言っちゃうんだもん。

 誰だって拒否りますよ、こんな奴。

 実際、ラストではヴェーネとあまりうまくいってないようだったし。

 余談ですが、彼の同僚に名前がないのがあまりにも可哀想すぎる。

 最早、モブキャラ以上だと思うのですが。


 ジークベルト・アンスバッハ

 ヴェーネの親父。

 そして、このゲームに出てくる登場人物のなかでも飛び抜けた人格破綻者。

 ヴィルジニーにはゲオルクに似ている、と評されていたけれど、こいつの狂気はゲオルク以上。

 なんせ、セラフィックブルー第一片翼たるヴェーネの育成をゲームと称して徹底して楽しんでいたのだから。

 コンセプトは救世の道具。

 感情を徹底的に排除した、救世のみを望む、ただの道具。

 しかし、感情を完全に排除することは不可能だった。けれども、己が運命に執着させることには、なんとか成功した。

 底抜けの厭世観を抱いてしまうことと引き換えに。

 その結果がアレとは、こいつの方がガイアキャンサーなんかよりよっぽど害悪だった訳で。

 ベネディクタ曰く、本当に余計なことをしてくれた。

 こいつにとって救世とは、ビックリマンチョコのチョコ的な意味合いしかなく、本当に欲していたのは、それについてくるシール。つまり、ヴェーネのその後にとる行為を見る届けることにあったのだろう。

 それにより、彼の理想の絵が――理想の娘が完成するのだから。

 ろくでもないことこの上なく、この世で最も愚かな父親の一人。


 エンデ

 ガイアキャンサー実行者。

 子供の容姿のくせに言動が凄まじい。

 まあ、そういう存在だからしょうがないのだけど。

 ラウレンティアのイベントでドン引きしたプレイヤーは私だけでしょうか?

 実はヴェーネのことが気に入っていたようで、素敵なサプライズまで用意していた。

 ていうか、こいつよりエスメレルダとユスティーネのほうが強いってアレですね。

 だから、実行者権限剥奪されんだよ。

 ざまあ。


 クルスク一家

 イーグル・ディザスティア。またの名をアイシャ・クルスク。

 カーチス・ハルミトン。またの名をジョシュア・クルスク。

 ハイディ・バーミンガム。またの名をレオナ・クルスク。

 そして、ケイン・クルスク。

 全ての黒幕。

 犯行の理由が美しすぎる。

 不幸な運命を辿った娘を苦しめたすべてのものに対しての復讐。

 そして、いま存在していない子供たちに対しての贈り物。

 世界を滅ぼし存在しないという救いを与え続ける。

 それを彼らは「真なる愛の場所」と呼んだ。

 生まれてくる幸福プラスなど偽りだ。

 不幸マイナスに堕ちてしまうくらいなら、いっそのことこんな世界など存在しないほうがいい。

 0という特異点はすべてを救うのだ。

 救いさえあればそれでいい。

 幸福などいらない。

 まあ、こんな感じでしょうか?

 究極的な虚無主義ですね。

 全世界強制的解脱。

 共感できる人はあまりいないでしょうが、私は美しいと思いました。

 自分の娘のためにここまで狂える連中。

 その根本にあるのは「愛」以外の何物でもなく、だからこそどこまで狂気を纏っていても美しく思える。

 ちなみに、この作品中で唯一まともな家族の形を維持できているのは彼らだけ、というのも凄い皮肉ですね。


 ヴェーネ・アンスバッハ

 この娘をメンへラと呼んであしらうのはあまりにも容易い。

 だけど、彼女は意図して人格破綻者にされてしまったのだから、なんともやりきれない。

 心のなかでは途方も無い厭世観を抱きながらも己が使命に執着するが故に嫌々、渋々、世界を救うというスタンス。

 使命に執着する、というよりはその後に自分がする行為にこそ執着しているようにも思える。

 つまりは自らの命を絶つことによって運命に、世界に、限りない恨みをもって嘆きを叩きつける。

 そして遺書にはこう記されているだろう。

 

 すべては無意味。ハッピーエンドは失われた。


 この言葉を墓に刻んで欲しいと遺言まで遺して。

 ここまで来ると筋金入りですが、実はとても優しい娘でそれが余計彼女を苦しめているようにも思える。

 ドリスを気遣ってみたり、ニクソンに言い過ぎたと後悔してみせたり、とか。

 そして、その優しさが自分に向けられることは決して無い。

 私は救世の道具。用が済んだら塵になる、ただの道具。

 だからこそエルは、彼女に救いをあげようと思ったのかもしれない。

 道具なんてやめて私と共に世界を滅ぼしましょう。

 それが、お前の本心なのだから、と。


 まあ、それでも世界を救ったわけですが、その後を生きていくパートナーとしてはフリッツは役者不足だったようで。

 彼女にとってレッドになりえたのは、やはりレイクで、しかし、その彼は逝ってしまった。

 彼女が彼岸に渡ってしまう日も遠くないのかもしれない。

 だが、それでも、私は彼女にこの言葉を送りたいと思う。

 

 『希望』はいいものだよ。たぶん最高のものだ。いいものは決して滅びない。

  『ショーシャンクの空に――アンドリュー・デュフレーン』


 これまで、付き合って下さった方は本当にありがとうございます。


 それでは、駄文、失礼しました。

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