ねぇちゃんと戦おう Act7
牙を立てるように冷たい風が吹き付ける外で、あたしは一人、洋弓銃を握りしめ佇んでいた。
お兄ちゃんと昴の姿が見えなくなってどれ程経っただろう?
今、屋敷の中に戻れずにいるあたしの胸中は、鉄を溶かしたような不安でただれている。
だが、それでも戻らないといけない。
あたしはその場で洋弓銃の弦に力いっぱい体重をかけ、矢を装填する。
そして、ぐっと歯を食いしばって前を向き、先程は届かなかったドアに、ゆっくりと手を伸ばした。
◆
屋敷の中を進んで行くも、辺りはしんと静まっていた。
戦闘音と思えるものも聞こえてこない。
だからあたしは、もう戦闘は終わったのだと、そう確信した。
その時――
「セイリさん!」
――半開きのドアから声が聞こえ、直後に包丁を握りしめた史が姿を見せる。
彼女はこわごわとした顔で、あたしの元に駆け寄って来た。
「ご無事でなによりです、あのっ、兄さん達はどうなったんでしょう! もうずっと屋敷が静かで、兄さん達も戻ってきてくれないし、あたし不安で居ても立っても居られなくて!」
小柄な少女は涙目でそう語り、きゅっと包丁を握りしめる。
震えながら鋭利な刃を夜の闇に光らせるその姿は、危なっかしくて見ていられなかった。
「わかったから落ち着け! まず『お兄ちゃん』達を探しに行こう。もし、ついて来るって言うんなら、史はあたしの後ろに隠れてろ。いいか、間違ってもあたしより前に飛び出すんじゃねぇぞ」
声を沈めて言い聞かすと、史はこくこくと無言で何度も頷く。
その後、彼女はぴたりとあたしの後ろにくっ付いて足並みをそろえた。
だが、史を気遣ったこんな行動はすぐさま
◆
「兄さん!」
兄の姿を見つけると史は包丁を放り投げ、カイトの胸の中へと飛び込んでいった。
あたしはと言うと、洋弓銃の矢が刺さったドアの前で棒立ちになっている。
兄妹が再開を喜ぶその足元――開け放たれたドアの向こうに、昴が倒れていたからだ。
体が縮んでいないことから、血を吸われずに殺されたのではいう恐怖が押し寄せた。
しかし、昴の胸がゆっくりと上下し、彼の呼吸を確認するとあたしは胸を撫で下ろす。
終わったのだ。
再び訪れた一時の平穏にあたしは安堵した。
だが、すぐに胸の中は昴への申し訳なさでいっぱいになる。
そして、あたしは落としていた目線をあげ、カイトの顔を見つめて訊ねた。
「噛んだんだな」
「ああ……」
史の肩を抱きながら、カイトは疲れた声で答える。
あたしは彼の答えを聞き……ゆっくりと昴に歩み寄った。
穏やかな呼吸を繰り返す昴は、まるで赤ん坊のように見える。
あたしは身を屈め、やわらかい彼の前髪を撫でた。
「お前も、あたしと同じになっちまったな……」
口からこぼれ出たこれは、複雑に入り混じったあたしの心のため息だ。
もう、元には戻れない。
ならば、元より良くなってほしいと思った。
せめて、元よりひどくなってくれるなと願った。
あたしはまだ、今夜のことを後悔してはいない。
だが、次に昴が目覚めた時にこそ、本当に後悔していないかが決まるだろう。
その答えが出るのは、あと……もうほんの少し先なんだ。
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