ねぇちゃんと戦おう Act3

「それで、なんで相手が一人ってわかるんだ?」


 史から受け取った洋弓銃に矢を装填そうてんするセイリに、俺は改めて問いかけた。

 彼女はピリピリした空気を発しながら指先で鉄をかち合わせ、ちらりともこちらを見ず口を開く。


「簡単に言うと、今回の襲撃は吸血鬼ハンターの基本から外れてる」


 カシリと矢がはまる音がすると、セイリは洋弓銃を抱きかかえて俺と視線を交わした。


「あたし達の攻撃の基本は三つ。相手より数が多いのを前提に行う波状はじょう攻撃と背後側面からの攻撃、そして敵を分断しての各個撃破だ。けど、さっきの襲撃にはそれがなかった」


 わかるか? とでも言いたげな目線を向けるセイリに俺達は簡単に首を振る。

 その途端、彼女は「はぁ」とため息を吐いて説明を続けた。


「まず第一に『波状攻撃』ができてない。『お兄ちゃん』を狙った矢の一射目と二射目の間が長かった。第二に『背後側面からの攻撃』はそもそも一射目が正面からだったし、二射目は側面と言うには一射目と離れた場所からの射撃じゃなかった。たぶん一射目からの側面攻撃に移ろうとして、移動に時間を取られ波状攻撃にならないことに焦ったんだろうね。結果中途半端な攻撃に終わり、射線から居場所を特定されることを恐れて攻撃を中断って感じかな」


 あさぎや史から「おぉ……」と小さな感嘆かんたんの声があげる。


「で、三つ目は?」

「三つ目はあさぎ達が襲撃を受けてない時点でお察しだ。分断したままの各個撃破ができてない。本来ならあたしと『お兄ちゃん』は屋敷の中には戻れず集中攻撃を浴び、あさぎ達は侵入した奴から出ることを許されずに攻撃されてる筈なんだ」


 セイリから口早に語られた言葉に、背筋が凍る思いがした。


「だから、相手が一人だって思ったのか?」

「まあな。けど、そもそも一人で襲撃したってことにあたしは驚いてる。もしかしたら、吸血鬼ハンター側に何かあったのかもしれない」

「何かって?」

「わからん」


 そう言うと、セイリはいぶかしそうにあごへと手を当てる。


「さっきのが『襲撃』だった時点で偵察の線は消えるし。理由はわからんけど、本来の襲撃作戦が中断されたのかもしれない。それで……」


 彼女はそこまで言ってうつむき黙り込んだ。


「セイリ?」


 急に口を閉ざしたセイリに俺達は不安を抱き、つい彼女の顔をのぞき込む。

 すると、セイリはゆっくりと顔を上げ、自信なさそうに声を絞り出した。


「それでたぶん、あたしと仲の良かった奴が、単身あたしの救出を決行した、のかもしれない」

「心当たりがあるの? 相手は男の人?」


 一体どこに食いついてるのか、セイリの発言にあさぎが興味を示す。

 セイリがこくりと頷くと、あさぎは「ほわぁ」っと一人嬉しそうな声をあげた。


「案外、仲間甲斐がいのある奴がいたな、セイリ」

「やめろよ『お兄ちゃん』そんな言い草よしてくれ。泣ける単身での救出作戦も、あたしの現状を知れば作戦内容が変わっちまうよ」


 苦虫を噛み潰したような顔でセイリは言葉を返す。

 しかし、その声色は現状を悲観しているようには聞こえなかった。


「それで相手はどんな人なの?」


 恋バナでもしている気になっているのか、食い気味に訊ねるあさぎに対し、セイリの反応はなんともくすぐったそうだ。


「どんなって――歳は『お兄ちゃん』の一つか二つ下くらい。若い日本人の吸血鬼ハンターで……そうだな、あたしの弟分みたいなもんだよ」

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