『The second time of chance』Act2

「俺は、それでもこの家に残りたい」


 俺達は吸血鬼ハンターに皆殺しにされる。

 そんな話をセイリから聞かされた直後だったが、俺の気持ちは変わらなかった。


「ここに来るって言うなら迎え撃てばいい。セイリだって返り討ちにできた。次はアルベルトもいる。上手くいくさ。だろ?」


 しかし、アルベルトは小さく首を振る。


「若様。吸血鬼ハンターが本来得意とするは個人戦ではありません。周到に計画を練り、数で勝る相手に襲撃を仕掛ける。それこそが本領。彼らが本気でここを潰すと決めれば、私一人いた所で戦力差はくつがえりません」


 彼はぐっと掴むように俺を見据えて聞かせた。

 俺は、その口調からアルベルトが吸血鬼ハンターとの戦い、その恐ろしさを知っているのだと理解する。

 だがそれでも、俺はこの場所を離れたくなかった。


「でも、アルベルト。ここは腐ってもイシドールの屋敷だ。アルベルトだって、主人の屋敷を吸血鬼ハンター達に好きにされたくはないだろう?」


「彼らは、我々の天敵であっても盗人や空巣ではありません。それに私はあなたの警護を任じられている。私にとって……イシドール様の屋敷など、あなたの命とくらべられるものではありません」


 アルベルトの低く、真に迫った声が耳だけではなく胸の内にまで届く。

 一瞬、肩を抱き止められたと錯覚する程、俺は心が震えた。

 けど、それでも――


「アルベルト……この場所を離れたところで、追われ逃げた先で襲われるのがオチだ。なら、ここにいたっていいだろう?」

「若様……」


 ――懇願こんがんするように、俺は彼の目を見る。

 すると、アルベルトは俺から目線を外し、深く息を吐き出した。


「わかりました。このまま無計画に逃げ出したとて、若様の安全が確保できねば愚策ぐさくも同じ……本家に救援を要請します。その後、私は偵察を行いましょう」


 そっと石を置くように重い声で告げると、アルベルトは俺に背を向けた。

 その大きな背中から俺は視線を逸らし、ぐっと拳を握りしめる。

 自分がどんなわがままを口にしているのか、たぶん俺は理解し切れていない。


 つい先日、セイリによって与えられた死の予感。

 あの恐怖を、俺はもう忘れてしまったのだろうか?

 判断力が麻痺したのではと自分の頭を半ば疑いながら、俺はセイリに目を遣った。


 俺達の死を予言してみせた彼女は、ただ黙って俺を眺めている。

 彼女の視線は、崖に向かって転がる卵をただ見送るような、無機質なものだった。

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