第一部 『合法ロリ義妹』は金髪碧眼成人女性
義妹化 ー絶対強制『お兄ちゃん』ー Act1
「おい! なんだこれっ!」
甲高い喚き声がリビングに響く。
フローリングに敷かれた絨毯。
その上に置かれた四本足の木椅子。
それに座りながらガタガタと音を立てるのは見た目十四歳くらいの金髪碧眼の少女だった。
「聞いてんのか! 『お兄ちゃん』の仕業だろ! あたしに何しやがった!」
と、そこまで言って彼女――昨夜俺を襲った女性は愕然とした。
「なん、だよこれ」
そして、目の前にいる俺達……いや、俺に向かって――
「ホント、あたしに何しやがった『お兄ちゃん』っ!」
――と叫んだのである。
「とりあえず、今それを説明してあげようと思ってた所だよ『お兄ちゃん』が」
「ふざけんなっ! 『お兄ちゃん』っ!」
三度、俺を『お兄ちゃん』と呼んだ彼女はつい先ほど意識を取り戻したばかりだった。
彼女はまず、目覚めて自身の体そのものに驚いただろう。
それも拘束されていることなど些末なことだと言わんばかりに。
昨夜俺を襲った元成人女性――彼女の体は良く言えば若返り、悪く言えば縮んでいた。
そして今、目の前に座る俺をにらみ付けている。
察するに、俺のことを『お兄ちゃん』と呼んだ現状によほど憤りを感じていると見える。
本当なら、彼女は心の底からこう言いたい筈だ『てめぇ』と。
今の彼女はまるで首輪で自由を奪われた狼のようだった。
俺は彼女から一旦目を離し、幼馴染の名を呼ぶ。
「あさぎ、ちょっとこっち来てくれ」
すると、リビングのソファに寝転がっていたあさぎが「ほいほい『兄ちゃん』」と気の抜ける声で返事をした後、俺の隣まで歩み寄った。
その後、隣に立った幼馴染を指さし、俺は体の縮んだ元成人女性にこう告げる。
「簡潔に言うと、あんたはこのあさぎと同じ俺の
「眷属だとっ?」
彼女は思い切り俺をにらみ付けながら吠えるが……こどものような体と顔立ち。
今の彼女に昨夜のような美しいほどの恐ろしさは微塵も感じられない。
俺は、幼子にでも言って聞かせるみたいに落ち着いた声色で話を続けた。
「ただ、眷属と言っても不完全だ」
しかし、どのような声で語ろうと、彼女は聴き入ろうとはしない。
「ふざけるな! 何が眷属だ!」
だが「それじゃまるで――」と、言うと彼女は自分の言葉を飲み込み、急に黙った。
きゅっと唇をつぐむ少女の姿は人形そのものだ。
そんな黙り込んだ彼女の言葉を代わりに紡ぐように、背後から声が聞こえてくる。
「まるで、吸血鬼みたい。でしょ? 兄さんを襲った吸血鬼ハンターさん」
声のした方へ振り向くと、エプロンに身を包んだ妹――
史は長い髪を揺らしながら、シュルシュルとエプロンの紐を解き俺達に歩み寄る。
史とあさぎが両隣に立つと俺は、昨夜『俺を襲ってくれた吸血鬼ハンター』もとい、新しい『妹』に目線を戻した。
「一つ言っとく。俺はダンピールだ。吸血鬼じゃない。だから、俺に血を吸われたからって、あんた――いや、君は吸血鬼になったりしないよ。体も、日光に当たったからって灰になったりしないだろう?」
ここで、初めて彼女はカーテンの隙間から差し込む太陽の光に気付いたらしい。
子羊の肉のようにやわらかそうな薄桃色の頬を陽光に照らされながら、少女は息を飲み――
「そんな……ありえない」
――そう、受け入れられないとばかりに声を漏らした直後、彼女は怒りに声を荒げた!
「ダンピールに吸血能力はない! ありえないっ! ありえないありえないありえないっ! 『お兄ちゃん』っ! ほんとにあたしに何しやがったっ!」
まるで鳴りっぱなしの目覚まし時計みたいな彼女に、ゆっくりと俺は近づいていく。
二人の距離が一歩、また一歩と縮まる度、彼女は怯えこそしないものの、臆したように後ずさった。
椅子の上に拘束され、下がることなどできもしないのに。
俺は構うことなく少女の耳元に顔を近づけ、吐息が当たる程の距離で囁く。
「なんにでも例外はある。昨日、君には言わなかったけど俺はいわばダンピールの突然変異だ。吸血能力を失わなかった代わりに、吸血鬼殺しの異能を失った吸血鬼と人間の間に産まれたできそこないだよ。そして、そんなできそこないに血を吸われた君も、できそこないの眷属だ」
俺は彼女から顔を離し、自分の発言を振り返った。
そして、改めて『妹』に告げる。
「いや、やっぱり眷属と言うよりは『妹』だ」
すると、彼女は「は?」と、反抗的な声を出した。
「もっと正確に言うと『義妹』だな」
たぶん、これを聞いて少女は怒ったのだろう。
「な、なにが義妹だっ! ふざけんなっ! このっ『お兄ちゃん』がああっ!」
彼女は恥じらいなど一切なく、真っ赤になった顔で叫んだ。
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