プロローグAct2『兄』
月明かりが照らす闇夜に、銀の閃光が光った。
光の正体は
「『兄ちゃん』! 避けて!」
そんな悲鳴が耳に届くが、おいそれと簡単華麗に避けられるでもない。
「ぐっ――」
肩に走る激痛――俺は、息を噛み殺すように口から苦痛を漏らす破目になった。
服など紙も同然と体に刺さる矢はどこか誇らしげにさえ見える。
直に生暖かい血が滲み始め、傷口は鈍く、そして激しく痛む。
「う、ああっ」
突き刺さった鉄の冷たさと肉から溢れる血の温度が交わり合う中、俺はうめき声をあげた。
痛みを必死にこらえようとすれば、声にならない声が白い吐息となる。
冬の寒空に溶けていくそれを眺めながら眉をしかめ、俺はその場に膝を着いた。
「『兄ちゃん』っ!」
すると、そんな俺を案じて、あさぎが傍に駆け寄り、俺の肩を抱く。
その様子を、女はにやりと口を歪めて見ていた。
「潔く「はい」と返事すればそんなことにもならなかっただろうに……ヴァンパイアの肩を持つだなんて、ダンピールの風上にも置けない奴」
ふんっと鼻を鳴らすと、彼女は不機嫌そうに俺へと洋弓銃を向け直す。
その瞬間、月明かりに照らされた銀の矢が反射した。
なんとも冷たい光だ。
そしてそれは、俺の死を予感させるものだった。
だと言うのに、自分の目に映る光景が、今の俺には不思議と綺麗に見える。
月夜に照らされ、白銀に矢を輝かせる洋弓銃。
その撃ち手は、すらりと背の高い、美しい西洋の成人女性。
金色の長髪を夜風になびかせる彼女の碧眼は、まるで宝石のように美しかった。
そんな彼女が、冷たい瞳で俺の心臓を捉える。
「あんたみたいな奴があたしと同族だなんて。すごく恥ずかしいし、ひどく腹立たしいよ。何より、呪われた血のくせに安穏と過ごしている事実が憎くて仕方がない」
今、彼女が並べ立てる言葉は、勝利宣言に他ならなかった。
でなければ、洋弓銃なんて武器を扱う人間が、こうも
「けど、これ以上はあんたをとやかく言ったりしないよ……」
そう言って、彼女が人差し指を引き金に欠け、矢よりも先に言葉を放った瞬間――
「後はただ、潔く死ね!」
「あさぎっ!」
――俺は、幼馴染の名を叫んだ。
直後に、鉄を弾く軽音!
それが耳に聞えた途端、俺の胸めがけて飛んできた矢を空中であさぎが掴んだ。
「なっ――」
その光景に、金髪の彼女は目を見開く。
それは、ほんの一瞬の動揺だった。
俺は――いや、俺達は、そんな彼女の一瞬の動揺につけこんだのだ。
俺が何を言うでもなくあさぎは女に手を伸ばし、洋弓銃を持つ彼女の手首を掴んだ。
そして、彼女の体を俺へと引き寄せる。
「『兄ちゃん』っ!」
俺は膝を着いていた脚をバネに、体当たりするつもりで女に飛びつく。
そして、驚きに顔を染めた女のやわらかい首筋に――俺は、思い切り噛みついた。
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