第33話【粘液】

 きっとハルヒがいない状態で部室へ行っても何も起こらないのだろう。長門が何一つ意思表示をしないというのがそれを証明している。

 俺たち十人は仲違いを起こし分裂するでもなくまとまって北高校門方向へ歩いていた。偽SOS団連中はここまで乗ってきた自転車を引きずりながら。

 なんという奇妙な結束か。

 現状言えることは、もし少しでも脱出に期待を持つのなら『ハルヒから離れてはならない』ということだ。打ち合わせたわけでもないのに全員が全員まるでその重要事項を共有しているかのようだ。


 北高正門を先頭のハルヒ、もちろんこっち側のハルヒだが、があっさりと突破した。佐々木の言ったとおりこの閉鎖空間は北高校内だけに限定されていない。そもそも閉鎖されているのかどうかも怪しい。どこまでも続いている〝閉鎖空間〟はもはや閉鎖などされていないのではあるまいか。


 俺も北高正門を通過できた。見えない柔らかい壁など存在しない。これはもうこれまでのパターンじゃない。

 少しだけ坂道を下ったところで唐突にこちらのハルヒが言い出した。

「あたしさ、この坂をいっぺん自転車で思いっきり下ってみたかったのよね。ちょうどそこに自転車もあるし」

 つまらん事を思いついてしまったらしい。ハルヒはさっそく「貸しなさいよ」と光陽園のハルヒに自転車を貸すよう強要していた。

 すったもんだの挙げ句、なにひとつ言わない九曜の乗ってきた自転車がこっちのハルヒに奪われた。ハルヒは自転車をわざわざ歩道から車道へと降ろした。

「なにやってんだ。危ないだろ」そう言わざるを得ん。

「あんたなに言ってんの? この世界あたし達しかいないんでしょ? だったら道の真ん中走ったって構わないじゃない。だいたいもう車道にはみ出しているし」

 確かにその通り。十人も人がいてしかも光陽園のハルヒもハルヒなので先を譲る気など持ち合わせていない。必然、既に何名かが道路にはみ出していたのである。

 既にハルヒが自転車にまたがっている。佐々木によれば自転車でバイク並みのスピードが出せたらしいがこの坂道を下る分には九曜の不思議パワーなどなくても相当な速度が出るだろう。それは北高からどんどん離れて行くことを意味してもいる。このままどんどん離れてしまったらいよいよ後戻りのきかない旅立ちになるんじゃないかという思考が波のように押し寄せてくる。

「ハルヒ、ひとりでどんどん行くな!」俺は必死に止めようとする。だがハルヒは、

「行かないわよ。坂の下の光陽園のところで待ってるから」

「こらあっ、涼宮っ。光陽園のことを〝坂の下〟って言うな!」光陽園のハルヒが叫んでいた。

「現実にこの坂の下にあるからそう言っただけよ」悪びれもせず自転車にまたがったままこっちのハルヒが言った。

 このままでは北高からハルヒがどんどん離れて行ってしまう。


 ガッシャン。「あっ」。そういう音と声が後ろからほぼ同時に聞こえてきた。振り向くと橘京子が自転車と共に前のめりにコケていた。

 次に橘京子が言った台詞は普通じゃなかった。

「助けてくださいっ、古泉さんっっ‼」

 橘京子のその背後、異様な光景が現出していた。ついさっき俺たちが歩いていた道路が淡く鈍い反射光を放っていた。路面が濡れているようだ。

「足が、足が地面に張り付いてるんですっ!」その橘京子の悲痛な叫びとほぼ同時に古泉が走り出していた。古泉は即座に橘京子の腕を掴み引っ張り始めたが橘京子の身体はびくともしていない。

 次に動いてたのは佐々木と光陽園のハルヒ。二人同時に動き出し佐々木がもう一方の橘京子の腕を、その佐々木の腕を光陽園のハルヒが引っ張っていた。

「なによこれ。なんで接着されてるの⁉」光陽園のハルヒの声が響いた。

「有希っ、みくるちゃんっ」我がSOS団団長のハルヒの声が自転車が倒れる音と同時に響いた。あっという間にハルヒは古泉の腕を掴んでおり、さらにひと言「早くっ」と付け加えた。

 俺は一瞬朝比奈さんと目が合うが躊躇っているよう。その瞬間背中に圧を感じた。ほんの僅かの距離だが空間をすっ飛ばしたような勢いで前に押し出され気づけばハルヒの腕を掴んでいた。俺のもう一方の腕も誰かに掴まれた。振り返ればそこに長門。

「順序がある」ただひと言小さな声でそう言った。

 たぶん俺とハルヒが手を繋ぐというか腕を掴む必要があるとして反対の俺の手は長門に掴まれている。長門の向こうに朝比奈さんの顔が見えた。長門が俺の手を掴みたかったのか朝比奈さんじゃまずいから長門が掴んだのかは解らない。そんなことよりイテテイテテっ。けっこう思いっきり引っ張られてる。

「藤原っ、あんたなに傍観者してんのよっ」光陽園のハルヒが未だ何もしてない藤原を責め立てる。

「さあ藤原くんっ」佐々木が手を開き差し出していた。

 くそっ、面白くもねえっ、って思っちゃまずいんだろうな。しかし藤原はなにか躊躇っているよう。

「九曜さん!」今度は佐々木が九曜を急かした。

 九曜が佐々木の腕を掴むとようやく藤原が九曜の腕を掴んだ。なんだか解らないが橘京子救出のため全員が手を繋いでいた。

 だんだんと目の前の風景が青色に染まり始める。世界の色が変化していく。

「キョンあれっ!」こっちのハルヒが引っ張り続けながら俺の方に半分顔を向けて叫んでいた。

 くすんだコバルトブルーの発光巨人‼ それがいま正に立ち上がろうとしていた。古泉言うところの『神人』。それが北高敷地内に出現していた。異常な光と異常な状況に気づいているのは橘京子も同じで、

「たっ、助けて。見捨てないで。佐々木さんっ、古泉さんっ」必死に哀願していた。

 引っ張って引っ張り続け少しだけ引き摺れるのだが抜けない。

 既に青い光の光量は充分すぎるほどであり状況は目視で解る。自動車用道路はどの道であれ歩道より一団低く造ってある。その自動車用道路の全幅をゆっくりとゆっくりと、しかし確実に音も立てずに粘液が下りつつあった。たまたま一番最後尾を歩いていた橘京子がそれの先端部分に捉まったのだ。

 靴くらいなら『それを脱げ』で済んでしまうがもはやそのレベルではない。こうしてる間にも前のめりに倒れた橘京子と道路との接着面が徐々に拡大していく。幸いにして流量が尽きかけており取り敢えずは粘液の流れは止まりそうだ。当面俺たちまで接着されてしまう事態は避け——

「あれを見てください!」古泉の怒鳴り声に近い声が響いた。

 んなもん序の口だと解った。校門の中から分厚い粘液の層がどろりと出てきて第二波の波になろうとしていた。古泉はそれを言ったのだ。まるで大量の接着剤が流れ出しているかのよう。


 このままじゃ全員地面に貼り付けられてしまう。だが橘京子を直接引っ張ってる古泉と佐々木にその気が無いんじゃこのまま行くしかない。

 その瞬間だった。九曜か、それとも長門なのか、はたまた全員の念が通じたのか、不思議パワーを炸裂させたかのように橘京子の身体が勢いよく地面から引っこ抜かれた。大根じゃないから引っこ抜くという表現はおかしいのだがそういう感覚だ。

「早く歩道に上がってください‼」再び古泉らしからぬ古泉の声。ほぼ同時に「くそっ!」という藤原の声。ただ一人俊敏な動きが不可能な人間。藤原の杖は第二波の粘液に飲み込まれつつあった。藤原が杖の一本程度の犠牲で危機を回避できたのは九曜が引っ張ってくれたおかげらしい。藤原と九曜で最初から数珠繋ぎになっていたのが功を奏したのか。〝くそっ!〟にはそれが不本意だったという意味もあったのか。

「九曜さん、ありがとう」なぜか佐々木がそう言っていた。

 なんだよ偽SOS団、けっこうな団結力じゃねえか。

 俺たち十人全員、一人の落伍者も出さず歩道へと駆け上がっていた。間一髪第二波の波を回避できている。歩道は道路より高く、ために僅か二センチ差での危機一髪。見捨てた自転車達は流れ下る粘液が絡み付きなんだかよく解らないものに見えていた。

 この後第三波第四波が来る! 来たらいま俺たちが立っている歩道も危ない。こう言い切れるだけの材料をこの時点でたぶん全ての者が持っていた。粘液の正体はもう何だか解っていた。空を見上げれば嫌でも視界に入る。青い光の巨人の脚がどろどろと溶け出しているのだ。その溶け出した粘液がどんどんどんどん外部へと流れ出ている。際限なく巨人の身体が溶けているように見えるのに巨人の身長や体積は全く変わってない。そうとしか見えない。

「ここも危ないわ。裏門の方へ廻るわよ!」こっちのハルヒが言った。光陽園のハルヒじゃ北高の地理に暗いからな。ともかく一刻も早くこの場を逃れないと粘液の波に飲み込まれる。しかし青い光の巨人がこちらへと襲ってくる気配は無い。だがそれはゆっくりと動き始めた。


 あの方向は……校舎?

「まずい」古泉が言った。

「どうしたってんだ?」俺が訊く。

「SOS団部室です。もしあれが破壊され跡形も無くなったら僕らは元の世界に帰る方法を失う可能性が高い」

「根拠は?」

「勘ですよ。しかし確度の高い勘です」

「どうするつもりだ?」

「僕らが足止めするしかないでしょう」

 〝ら〟ってのは?

「橘さん」古泉が言った。

「はっ、ハイッ」橘京子が反射的に返事する。

「SOS団部室にあれを近づけないようにするんです。僕らがやらないで誰がやるんです?」

 古泉はなぜか『神人』ということばを封印した。

「そんなっ、たった二人で倒せるわけないじゃないですか」

「倒す必要はありません。足止めと言ったでしょう。涼宮さんっ——」

「なに?」「古泉くん」、光陽園のハルヒとこっちのハルヒが同時に返事した。

 古泉は微苦笑しながら、

「みんなを率いてSOS団部室までお願いします。僕ら二人で時間を稼ぎます。その間に——」

「解ったわ」こっちのハルヒが言うや、古泉の身体が赤い光を発し始めそれはすぐに赤い光球に。あっという間に青い光の巨人へと向かっていく。

「待ってください、古泉さんっ、あたしも行きますからっ」橘京子が泣き声になりながら古泉と同じ姿になり古泉の後を追っていた。

 ハルヒの見ている目の前でいいのかよ、と思ったが専門家に任せないでいったい誰に任せるのかってとこだ。

「いつの間に古泉くんにあんな力を与えたの?」こっちのハルヒが光陽園のハルヒに言っていた。

「え、と。彼真っ先に橘の腕を掴んだでしょ。そのせいじゃないの?」光陽園のハルヒが適当なことを言っていた。佐々木の思いつきにしか聞こえなかった説明が今になって功を奏していた。

「ハルヒ、古泉達が踏ん張っている間に急がないと」俺は言っていた。

 そして俺にはある種やらねばならない義務があることを理解していた。あまりやりたくはなかったが——

「藤原、おぶされ!」俺は藤原に俺の背中を差し出した。コイツはハルヒを殺そうとした。コイツのせいで俺の前歯も欠け台無しにされた。だがそれでも言うしかないんだ。

「ふん、もう遅い。僕はもう死んでいるも同じだ。置いていけばいい」

 置いていきたいさ。だがそういうわけにもいかないんでな。死にたいのならここではないどこかで死んでくれ。今ここで死なれては困るんだよ。

「本家SOS団員の沽券に関わるんでな。置いていくなんてお断りだ」そう言った。藤原を移動させるには能力的には九曜が最適だろう。だが次も藤原を救ってくれるかどうか解らん。その場合はどうなる? ここで誰かを見捨てて逃げ出すSOS団員をハルヒは望んじゃいないのさ。なんとなくだけどな。

「キョン、やるじゃない」我がSOS団団長のハルヒが言った。

「背負えるのは俺だけみたいだからな」そう返した。

「藤原くん、もう時間がないんだ。キョンの提案に従ってはくれまいか」今度は佐々木だった。

 俺は藤原に背を向け〝おぶさるよう求めているという体勢〟のため藤原の顔がどういう顔かは解らん。だがどさっと背中に圧を感じた。藤原は俺の背中におぶさった。

「準備はいいわね。みくるちゃん、あなたただでさえ鈍いんだから遅れないように絶対に着いてきなさいよ」こっちのハルヒの号令と共に俺たち八人は一斉に動き出した。

 ハルヒは裏門へと廻るルートを選択し猛ダッシュを掛ける。くそっ、冗談じゃねえ。野郎一人おぶってハルヒのランニングに着いて行けるかってんだ。

 突然藤原の重さが無くなった。もちろん俺が投げ捨てたわけじゃねえ。横を見れば長門。走りながら一ミリほど肯いていた。そうか長門のおかげか。ありがとよ、長門。


 だが事はそう上手くは運ばない。

 裏門からも粘液が川のように流れ下りつつあった。あの粘液に足を取られればさっきの橘京子のようになる。

「塀を上るわよ」即座にこっちのハルヒが決めた。

「ええーっ、あたしには無理です。こんな高い塀」朝比奈さんが弱音を吐く。

「うるさいっ、キョンなんて藤原くんを背負ってここまで走ってきてるのよ! SOS団員ならこれくらいの塀は越えなさい!」

 もはやSOS団員はレンジャー部隊か特殊部隊の構成員になっているな。

 こっちのハルヒは早速塀によじ登っていた。同じく光陽園のハルヒも。

「藤原、俺の肩に足を掛けて塀に取り付け」俺はそう言って塀に両手をついた。

「朝比奈さん、藤原が上ったらすぐに朝比奈さんも俺の肩を使って塀の上に上ってください」

「あっ、ハイ」

 長門と九曜なら自力でなんとかするだろう。

「佐々木」俺が声を掛けると、

「僕なら大丈夫さ」その声がしたときはもう佐々木は塀をよじ登り始めていた。

「小学生の頃以来だよ。昔取った杵柄とか言うんだったかな」それを言い終わった時もう佐々木は塀の上にいた。

 俺は藤原と朝比奈さんを塀の上に上げ、本当に間一髪、塀の上に退避できた。

 だがほっとできたのはほんの束の間だった。塀の向こうの地面も粘液で満たされていた。時間と共にかさを増していくのは確実だ。見上げれば青い光の巨人の周りで二つの赤い光がその進路を塞ぐように飛び交っている。スマン、古泉。塀の向こうもこっちもこれじゃあ、万事休すだ……

「——ばかみたいだわ………はは」

 唐突に隣にいた九曜が口を開いた。人を小馬鹿にしたような物言いに瞬間的に腹が立つ。藤原みたいな物言いしやがって。

「ああ、確かに目の前の現実はバカみたいだ。だがな、そんなもん口にしてなんの役に立つ」

 思わず九曜が相手なのに真面目に言ってしまっていた。

「宙に——浮けばいいのに」

 そうだった。コイツは部室棟三階の外、中庭上空にハルヒを浮かせていた。自分を浮かせることくらい造作もないんだろう。

 九曜はすーっと宙に浮き始めた。そうか……コイツだけは助かるんだな……


 ところが九曜はある程度の高さまで浮いてそこでピタリと止まった。目の前に九曜の足首がふたつ。この程度しか浮けないはずないだろう。

 上の方から声がした。

「つかまら——ないの?」

 逡巡した。

「こらあっ、ジョン、早くくーちゃんの足に掴まりなさいよ。あんたが早くしないとみんな溺れるじゃないの!」たぶん、光陽園のハルヒの声がどやしつけてきた。確かに順番を入れ換えるとか不可能だ。塀の上じゃな。

 仕方ない。

 俺は九曜の両足首を両手で掴む。九曜は俺の身長の分すーっとさらに上へ。俺の足首が誰かに掴まれた。九曜とは反対側の俺の隣り、そして九曜の隣りが誰だったか記憶が定かじゃない。再びさらにすーっと上へ。どんどん高度が上がっていく。いい加減にしてくれよ怖いじゃないか。

 九曜を一番上に全員の連結が完了したらしい。奇妙なのは俺の下に六人もぶら下がっているという蜘蛛の糸状態なのにぜんぜんその重さを感じないってことだ。これは長門同様の宇宙人的不思議パワーのせいだろうか。

 九曜のすぐ下の俺はとんでもない高さに生身の身体を晒している。上を見て高度を感じないようにしたいのだが、いくら九曜でも俺は上を見上げてはならんのだろう。つまりなんだ、九曜はいつも光陽園の制服で要するにスカートなのだ。

 高度には恐怖を感じるが眼前に広がるこの光景は、十分後の運命すら定かでないが一生忘れることはできないだろう。もう一度見ることができるかどうかといった信じられない眺めだ。

 青い光の巨人、その周りをくるくると赤い光点が舞うように飛んでいる。たった今も古泉と橘京子が戦い続けている。二人には悪いと思う。この光景に感嘆してしまうのは。

 そう、感嘆してる。グランドは一面の湖、青く光り続ける湖面。グランドは青い光の巨人から流れ出す粘液で隅々まで満たされまるで湖のようになっていた。普通の湖とは明らかに違って流れ出た粘液自体も青く発光し続けている。その湖面に立つ青い光の巨人。俺は信じられないほどの高所からその絶景を眺め続けている。閉鎖空間は灰色の世界だがいつの間にか世界は青い光で満たされこの空間の色はすっかり変わっていた。この景色は忘れようとしても忘れられない。

 高いところからは青い光の巨人の動きもよく見える。あれは明らかに校舎の方に近づこうとしているが古泉と橘京子の奮戦によりその行動は遅滞していた。

 九曜を頂点とした俺たち数珠つなぎの空中遊泳者達は緩慢な飛行で青い光の巨人を大迂回しながらSOS団部室を目指していく。


 やがて旧校舎中庭上空に九曜が到着する。以前は青い光の巨人、つまり『神人』がハルヒを殺そうとしていた九曜・藤原から俺たちを救ってくれた。が、今は逆になっているというのが不可思議だ。

 ひとりずつSOS団本部文芸部室へと窓から入っていく。しばらくして朝比奈さんの

「あたしには無理です。怖いですー」という朝比奈さんの泣き言が聞こえてきたがハルヒの怒鳴り声で沈黙した。直後どさっと音がしたから覚悟を決めて窓へと飛び移ったのだろう。

 気になったのはそのハルヒの声が俺のすぐ下から聞こえたような気がしたことだった。むろん光陽園の方じゃなくこっちのハルヒだ。


 案の定だった。俺の足を掴んでいたのは我がSOS団団長ハルヒだった。どうしてそういう順番になったのかはよくは解らない。ともあれ俺はようやくSOS団部室に辿り着いた。九曜のことだからと心配になったが空中から落とされるということもなく無事部室に辿り着いた。そして最後に九曜がふわりと浮かびながら窓から入ってきた。


 もう既に長門がパソコンの前に座りキーボードの上に両手を置いていた。

 カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ——

 長門はザ・ディ・オブ・サジタリウス・スリーをプレイした時の如くキーボードのキーをたぶん正確にしかしまるで乱打しているかのように打ち始めた。

 カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ——まだ続いている。

 だがその指はあるところで即座に止まる。

「どうした、長門?」

「閉鎖空間による現実空間への浸食が急速に拡大中。ここからの脱出は不可能」

 え?

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