1-4 召集、再び
「ね、ねえ? どうしても行くの?」
研究所に向かうため家を出ると、彼女は俺の周りをうろうろしながらついてきた。
「当たり前だろ、召集なんだから」
「で、でもね? 別に行かなくてもいいんじゃない? まだ退院したばっかりなんだし、ちゃんと家で休まなきゃダメだと思うなあ~?」
「あのなあ……。なんでそんなに行ってほしくないんだ? 2か月前のことなら気にしなくていいって言ってるのに」
「い、いやあ……。そういうことじゃなくてね、その…」
「……? なんだよ? 研究所で鑑定受けて、守護霊が何者なのかはっきりさせるのが目的だろ。あ、そういえば、まだ名前聞いてなかったな。」
「えっ!?」
「いや、お前の名前だよ。なんていうんだ?」
「あのお…… できればお答えしたくないといいますか何といいますか……」
「……?」
それで研究所に行ってほしくないということか。なぜ自分の正体を隠そうとするのだろう。さほど大した偉人ではないのだろうか。たとえそうだったとしても、俺は幻滅したり喜んだりするつもりはないのだが。
「ふーん。まあいいか。鑑定を受ければ全部わかることだし」
「んもう! やっぱりやめよう……よ?」
彼女の言葉から急に力がなくなった。
「ん? どうした?」
「今、掴めなかった……。ケイトの腕。さっきは触れてたのに……?」
俺はその決定的瞬間を見ていなかったし、俺を止めるために嘘をついたのかとも思ったが、彼女の表情からして嘘ではなさそうだ。
本来、守護霊と主は触れられないのが自然なことではあるのだが、俺と彼女は例外だ。俺は家では彼女の…いや、彼女「に」触れることができていたし、彼女も俺を突き倒して踏みつけ、さらには口を塞ぐことまでできていた。それが今になって触れられなくなったというのだろうか。
「本当か? ちょっと試してみよう」
俺が手を差し出した瞬間、彼女は自分の胸を抱きかかえ、こっちを睨みつけながら一歩退いた。完全に警戒されている。
「……いやいや、変なとこ触ったりしないから。大丈夫だよ」
「頼むよ?」
俺は右手を伸ばし彼女の左肩に置いてみた。家にいた時と何も変わらない。普通の人と同様、彼女にも触れることができた。
「なんだ、触れるじゃねえか。さっきのはきっと俺の手を掴み損ねてたんだよ。それにしても霊に触れるなんて普通じゃないよな。これがお前の霊能力ってやつなのか――」
「うわああ! れ、霊能者だああ!!」
通りすがりの人が俺たちを見て叫んだ。よく見ると、周囲の人たちが皆俺たちに注目し、驚いたり怯えたりしている。俺たちから数メートルほど離れて人だかりができ、この町を襲いに来たのか、とにかく警察に通報しなくてはという声が聞こえる。一体どうなっているのだ。
「まずい! 走れ、ケイト!」
「ええ!?」
彼女は、今度は確実に俺の手を取って走り出した。大通りを横切り、人目につかない路地に入っては抜け入っては抜けを繰り返し、かなりの遠回りをして町の駅に着いたが、切符も買わずにそのまま勢いで改札をくぐり、出発寸前の電車に駆け込んだ。
「ふう。ここまで来れば問題ないだろう。体は大丈夫か?」
「げほっげほっ! いや、今にも倒れそうだ……。はあ、めまいが、する……」
「すまないな、そんな体なのにあちこち引っ張りまわしてしまって。あの町の住人たちは我々にとっては少々やっかいでな」
「はあ、はあ…… そう、なのか……。ふう……。息もだいぶ落ち着いてきた……。つか、また言葉遣いが、おかしく、なってんぞ……」
「…………こほん。えーっと、あの町の人たちは、ちょっとやっかいでね?」
「お前、動揺してるとき、わかりやすいな……」
「うう、うるさい! 黙って話を聞きなさい!」
彼女は電車の中でもお構いなしに大声を上げ、頬を赤らめた。まるで不意に地元の方言が出て恥ずかしがっているかのようだ。意外にからかうと面白い子なのかもしれない。
電車に揺られながら、彼女にあの町についての話を聞いた。俺が暮らし始めて少し経ったころに、霊能者によるテロ攻撃に遭ったらしい。幸い俺はその場にはいなかったようだが、それ以来住人たちは霊能者を毛嫌いし、何もしていなくても霊能者というだけで警察が動くようになったそうだ。
霊能者が本気を出せば警察では手に負えないはずなのだが、危害を加えれば「霊能都市治安維持部隊」などという霊能者専門の部隊が出動するため、おとなしく御用になる人もいたという。近所の住民に霊能者だと思われた俺は、あの家に帰れるのだろうか…。
そんな話をしているうちに俺たちは目的の駅に着いた。
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