第1話 出会い

この出会いは中学2年生の初夏だった。新しいクラスに馴染んだかなーって思っていたあの頃、その日は散歩もしていた。

ただ何となく海が見たくなった。本当になんとなくだ。

家から10分くらい歩いて行けるお手ごろな海なのだが、その景色はいつ見ても何かを考えさせられる。

どこまでも続く青い海。それに反射しているような空。木が生い茂った陸が三日月のようなアーチをつくりその間を船が行き来する。そんなアニメに出てくる島みたいな海だ。

いつ来ても大体私1人なのだがその日は先客がいた。

水色の肩くらいまでの長さの髪を汐風になびかせながらキャンパスに絵の具を塗っている。

とても珍しいので呆然とただ眺めていた。するとその人は私の気配に気がついたのか、こちらを向いてにこっと笑った。とても優しい笑顔。その笑顔はいとも簡単に私の心を惹きつけた。


次の日、普通に学校だ。ただ、あの人の笑顔が頭から離れずにほわほわしていた。その時、親友のフィーナと何を話していたかも覚えていない。

あの人には少し引っかかることがあった。どこかで見たことがあるようなきがしていた。

いや、それは今だからそう思っていたと言えるのかもしれない。

だってその人は同じクラスだったのだから。

あの人名前は海野志音。クラスではとても地味で、目立って成績が言い訳でも運動神経が言い訳でもない。むしろ明るいクラスで影になっているような子だ。

私はいてもたってもいられなくなり、志音の前に行った。

「あの、昨日海にいましたよね?海で絵を描いていましたよね?」

志音は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔になってこう答えた。

「はい、僕、あの海が本当に大好きで、毎日あそこで海の絵を描いているんです。」

その声はとても夕方の海のように暖かった。

その後も、私は志音とたくさん話した。主に海のことだけど、考え方がほぼ一緒で意気投合し、話はとても盛り上がった。

休み時間が終わりに差し掛かっている頃私は思わず

「もっと話したいので海に会いに行ってもいいですか?」

と訪ねた。

志音は嫌な顔一つせず、

「喜んで!」

と私を夢中にさせた笑顔で言った。


私は毎日海に通った。志音が絵を描いている隣に座り、志音とずっと話していた。毎日が楽しかった。

海も今までより輝いて見えた。

ある日フィーナに

「サオリって海野くんのこと好きなの?」

と聞かれた。

私は何故か慌てて

「え?えええ?そんなことないよ?」

と答えた。

私は志音のことが好きなのか?ええ?確かに志音と話してる時が一番楽しいけど、あくまで話してるだけであって… と頭がパンクしてしまった。顔も熱かった。

フィーナにはそれは絶対恋だと言われた。

フィーナのばか、その日から私は志音と目を合わせるたびにそらすようになってしまった。志音の顔を見られなくなってしまった。


志音の顔を見られなくなってから数日後。夏本番、というような暑さの日が続いていた。

志音にいつもの時間じゃなくて、夜に海に来てほしいと言われた。

理由を聞いても、笑って返すだけだった。こいつは私が志音の笑顔に弱いことを知っているのか?私は何も言えなくなった。

夜、海に行くと月明かりに照らされ、髪が汐風なびかれされたに志音が立っていた。

志音は私に気づくと私の前まで歩いてきた。そして私の手を私より少し大きな両手で握り、真剣な表情で私を見た。目を離すことができなかった。

そして志音は1度目をしっかり瞑り、深呼吸をして、再びサオリを見てこう言った。

「僕、君をここで見かけたあの日から、ずっとサオリのことが好きだったんだ。でも僕、こんなひょろひょろだし、地味だし、守ってあげられるかわからないけど、でも!僕の一番大切な人になってくれませんか?」

と。

気が付いたら私の両頬は濡れていた。志音は傷つけてしまったかと慌てていたが、私は嬉しくて嬉しくてたまらなかった。私はフィーナの言うとおり、志音のことが大好きだったんだ。

私はさいっこうの笑顔で

「はい」

と答えた。

空には満天の星空が輝いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アヤメ組小説過去編1 海の話 カメさま @Kamesama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ