第十五話 ~ 自由なひととき ~
第十五話 ~ 自由なひととき ~
街は、商業都市らしく活気に溢れており、人の熱気に圧倒される。見上げれば、反射鏡を用いて取り込まれた太陽光が、地球と遜色ない強さで降り注いでいた。気候も、半袖で丁度いい気温や湿度で保たれている。
「......」
正直、なにを考えているのか全く分からない。
頭の中でいろんな思考が駆け巡る。そうしないと、別の事で頭が一杯になりそうだった。
「どうした?こんな街に来るのは初めてだろう?もっとはしゃげよ」
「おっと、大丈夫か?」
男の子が、
「あんま走るなよ」
「うん!兄ちゃん、ありがとう!」
立ち上がった男の子が、
「走ってるし...」
自分の忠告が反映されていないことに若干溜め息を吐きながらも、
この男は思った以上に優しい人間のようだった。普通の、ありふれた人間だ。誰かが困っていれば声を掛け、頼まれてもいないのに助けてしまう。そんな男だ。
それとも、今までの行為の罪滅ぼしのつもりなのだろうか。
「......」
「みずき......?」
「わっ!」
思考に耽っていた
「大丈夫?」
「え?あ...うん」
「何か考え事か?」
「え......?」
まさか
「別に......」
「そうか」
「なんでそんなに心配してくれるん......ですか?」
なんとなく敬語が出た。自分でもおかしいと言うことは自覚しているから、
「そうだな......お前が不自由だと、俺が困るから......かな」
「......?」
「とにかく、せっかく自由なんだ。楽しまないと損......だろ?」
口許が笑みの形になる。どちらにしろ、その意図は分からないままだが、
「俺が楽しんでいる間も、皆は戦っているんだよな......」
アンリや
それでも、
「ゆう......えんち......」
「......は?」
「遊園地に、行きたいです。行ったこと無いので......」
顔を真っ赤にして、
「女子かお前は......」
そう呟いて、
「あ、ちょっ!」
「どうした、行くんだろ?遊園地」
まずは
現実逃避なのは分かっている。分かっていたけど、その蜜は味わっておきたかったのだ。例えそれが、誰かの犠牲の上に成り立つものだと知っていても。
その中の一室、ユーロ方面司令部室に、
「
豪勢な椅子に座った男が、
男の名はルドガー・アーチボルト。言うなれば、
「申し訳ありません、アーチボルト司令」
「保護対象をみすみす敵に渡したとなっては、厳罰も免れんぞ?」
ルドガーの目に鋭さが増す。白髪混じりの頭からは想像が付かないほどの覇気だ。深く刻まれた皺には、
「それは覚悟の上です」
しかしいたって冷静に、否、あえて冷静にと言った方が正しいだろうか、
ルドガーの眼光が一層鋭くなる。それでも、
やがて、ルドガーが根負けしたように溜め息を吐く。一度伏せた目を、
「あれから、随分変わったな......」
その言葉に、
「ここに初めて来た時は、死んだような目をしていたのにな」
「......」
再び、ルドガーが溜め息を吐く。
「こんなことを話している場合ではなかったな。すまない」
「いえ」
ルドガーの詫びに、
「実際、私は君を罰するつもりはない。それ以上に働いてもらっていることをこちらもよく知っている」
「ありがとうございます」
ここで初めて
「そう改まらなくていい。言っただろう、こちらも君がいてくれて助かっているのだ」
そう言って、ルドガーは椅子に座り直す。そして、改めて本題を切り出した。
「この間の件、君はどう思った?」
それを察したのか、ルドガーが補足を入れる。
「いやなに、私も彼に肩入れするつもりはないが、どう考えても矛盾していると思ってな」
「と、言いますと?」
「彼の目的は、彼女の奪還に相違無いだろう。だが、なぜあの子まで連れていく必要があったのかと思ってな」
ルドガーの言葉に、
だが、
「テロリストの心理は分かりかねます」
代わりにそれだけを述べ、追及を拒絶する、ルドガーもそれ以上何も言わなかった。
だが、二人の思考は一致していた。何が起きているのか、それは明白だった。
「ユーロ連合にも......いや、
幾度目か分からぬ溜め息を点き、ルドガーは瞑目する。
発展していく世界がもたらすものは、光だけではない。大きすぎる光は、それに対応するほどの影を作り出す。光に目を向ければ、その影には気付かない。そして、光に近付くほどに、影もまた、大きさを増すのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます