第十三話 ~ 再会 ~
第十三話 ~ 再会 ~
中は、まさに地獄絵図だった。真っ赤な液体が、表面張力によって綺麗な球体を象って浮遊する。人の形を保っている者は片手で数えられる程だ。殆どはその身を食い荒らされている。もちろん、動いている人間は誰一人いなかった。
施設内には、小型だけでなく
「どうする?」
「全て駆逐するしかないでしょう。外側の隔壁を閉じさせて下さい。入って殲滅します」
「各員は
実際にその目で見ると、凄惨と言わざるを得なかった。ヘルメット越しでも、その場に立ち込める臭気を感じた気がして、吐き気を催す。だが、そんな事をしている暇は無かった。
「わっ...わっ!」
慣れない環境で、姿勢を保つのも困難だった。そんな状態で、照準なんて合わせられるはずがない。足手まといだと自覚した頃には、もうどうしようも出来なかった。
震える指に力を込め、引き金を引いた。無音の光が
そんな中、遥かに次元の越えた動きをする二つの人影があった。一つは我らが隊長、
『よぉ、
随分と馴れ馴れしい男。ヘルメットから覗く顔はどこか幼さを持っているものの、快活な青年といったイメージだ。ツンツンとしているのであろう金髪は、ヘルメットに無理矢理押さえ付けられている。筋肉は無駄のない付き方をしており、戦闘を得意としていることがよく分かる。
だが、何より目を惹くのは、手に持った黒い鎌状の
「すごっ......」
思わず、感嘆の声が出る。無重力という状況をフルに活かした三次的な動きは、目で追うことも難しい。
しかし、それすらも凌駕する事実を、
『久しいな、ビショップリング』
『おう!一年ぶりだ!』
今、なんと?ビショップリング?聞き覚えが......。
『お、お兄ちゃん!?』
嫌な予感が的中した。乙女な可愛らしい絶叫に、青年が真っ先に振り向いた。
『アンリの声がしたぞ!?』
キョロキョロとアンリを探しつつ、アレスの殲滅は止めない。シスコンのようだが、実力も本物だ。
青年がアンリの位置を特定したらしく、そこへ急進する。アンリに避けられ、壁に激突するまではお約束らしい。
『リカルド兄さん!今は控えてください』
『さっきはお兄ちゃんて呼んでなかったぁ?』
通信越しからでも、リカルドの笑みが窺える。本当に久しぶりの再会なのだろう、心なしかアンリの声も上擦っていた。
『ビショップリング......と呼ぶとまぎらわしいな』
『リカルドで良いって』
『ん、そうか。ならリカルド、何故ここにいる?
聞き慣れない言葉に、
『
「ふーん。アンリのお兄さんはすごい人なのか」
それだけ?!という顔を見せるアンリを他所に、
『お前達を迎えに来たんだよ。アンリには驚いたけどな』
『迎え?そんな話は聞いてないが......まあいい。それで、これは一体どういうことなんだ?』
落ち着いた口調で二人は話すが、その間も次々とアレスを屠って行く。二人がいればアレスは全滅出来るんじゃないか、とすら思えるくらいだ。
『さあな、来てみたら艦隊が突っ込んでいた』
二人が足を止める。目の前には巨躯を漂わせる
『なっ!?』
しかし、それが成功することはなかった。
二人の間を白い閃光が走ったかと思うと、
現れたのは黒を纏った男だ。
『
誰かの驚愕する声が聞こえる。
『
「ああ、完璧だ。すまないな、
『いえ』
「外殻は閉じた。空気も充填している。会話もしづらいだろう?」
「なんだそれは」
後ろから、イヴの声が響く。その口調には疑念や、憤りといった感情が籠っている。イヴが指すのは
「これか?知っているだろう、
―――なんだそれは。
あの白い剣を知っている。
―――なんだそれは。
そして、
―――なんだそれは。
シッテイル。
―――ドウイウコトダ。
「
イヴの声が
「イヴローラ・アイネ・フィリップ・ローズクライン、だな?紅の始祖が、こんなところで何をしているんだ?」
「これを見せれば、少しは何か掴めるだろう」
そう言って、
「なんのつもりだ?」
「まあ、見てろよ」
それはイヴへと一直線に進み、寸でのところで紅い光の壁に阻まれる。だが、皆が戦慄したのは、その光ではなかった。
「
そう、先程まで大剣の形をしていた
それも、
「ローズクライン、
引き金を引くことに、今度は躊躇がなかった。その事に驚く余裕もなかった。周りの皆は、それに驚いていたようだけれど、それを気に留めることすらなかった。
ただ、頭の中を赤い感情が支配した。真っ赤に燃え上がる炎が、思考を焼いた。
なんでここじゃないんだ。
なんでそこにいるんだ。
なんでそいつなんだ。
なんでそこなんだ。
なんでおれじゃ。
なんできみは。
なんで......。
全ての思考が燃やし尽くされ、目の前が黒に染まる。
薄れ行く意識の中、破裂音が聞こえた。
何もかもが白に反転した世界で、
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