第十二話 ~ 宇宙へ ~
第十二話 ~
スペースレジデンスが電気、水、空気、食糧の全てを自給自足で賄う事が出来るようになったのは、
その点では、
そんな
対峙するのは
「うっとおしいなぁ、もう!!」
その一機、紫の
反面、青年の方は猫のような愛らしさがある。反抗的そうな切れ目は緑色で、綺麗な金髪は伸びるに任せている。雰囲気も何処と無く幼く、少年と言っても大差ない程だ。
しかし、実力は折紙付きだった。
青年の
だが、
連携が高く、よく統率が取れている。皆が至近弾で弾幕を張り、数機が青年を狙う。接近戦は不利と判断し、焦らずにじりじりと、だが確実に距離を詰めてくる。
青年の方も被害こそ受けてないが、次第に動きを制限され始める。それでも、青年は一体で味方を庇うように闘う。
それを見て、敵が一体しか戦闘に参加できないと判断したのだろう。
『隊ちょ......』
「やれ」
『はっ』
青年の一声を合図に、いつの間にか周囲を包囲していた青年の部下達が一斉に銃撃を始める。容赦は微塵もない。迷いすら欠片もない真っ直ぐな銃弾が
「これは戦争だぞ?貴様らの頭の中はお花畑かよ」
鉄屑へと変わった機体に吐き捨て、帰路に着こうと自機を反転させる。その時、再び部下から通信が入った。
『隊長、ビショップリング隊長』
「聞こえてるよ!何?追手?」
青年の声は相変わらず気だるげだ。眼にかかる金髪を雑に掻き上げ、つまらなそうな顔をする。とても先程まで戦闘状態だったとは思えない表情だ。
『いえ、本部からの伝令です』
「はぁ!?意味分かんないだろ、
部下の通信を聞いて、青年は更に不機嫌そうな顔をした。しかし、それも次の一言で吹き飛んだ。
『紅峰隊を出迎えろ、とのことですが......』
「紅峰......?紅峰ぇ!?行く行く!すぐ行くって速攻返せ!」
『は、はい!』
青年は、戦闘中には一度も見せなかった笑みを浮かべた。
「ははっ!紅峰、懐かしい名だなぁ!」
そう言って、青年は部下達が付いて来れていないことにも気付かないくらい興奮気味に、
「すごいよな、人類が団結すれば、あんなのでもたったの二、三年で出来るんだぜ?」
操舵輪を握る
「あれって、アレスに攻められたりしないんですか?」
「ん?まあ、そうだな。一応、
「そうなんですか」
アルククインテが徐々に近付くにつれ、その大きさがより際立って見える。高さもそうだが、太さも馬鹿に出来ない。オイローパが軽く入ってしまう程だ。
ふと、
「そう言えば、オイローパてどうするんですか?軌道エレベータには乗らないですよね?こいつ...」
そう、単純な疑問。この鉄塊をどうするのか、だ。確かに、この柱から見れば小さいように思えるが、オイローパもなかなかの大型艦だ。何せ、17m以上もある
しかし、
「どうするって、こいつで上がるんだよ。こいつがエレベータの箱になんの。軍事用のリニアカーもあるけどな」
「......あぁ、なるほど」
考えてみたら、それはそうだ。こいつを運べないなら、こいつで運べばいいじゃない、ということだ。どこかで聞いたような言い方だが......。
「覚悟しろよ。5万kmを三十分で上がるんだ、相当の負荷がかかるぞ」
わざと意地の悪い笑みを浮かべ、
「心配するな、慣性もある程度は中和できる。
丁度その時、モニターが切り替わった。映し出されたのは軍の人間。詰まるところ、アルククインテの管理者のようなものだろう。
『貴艦はオイローパと見受けられますが、間違いないですか?』
「はい」
『
「ありがとうございます」
実に簡素な確認を終え、アルククインテ内へと入る。中はメカメカしく、
急激に加速する艦内で、シートベルトの圧を僅かに感じながら、
アルククインテの末端では、いつも通りの雑務に皆が追われていた。データの整理、数多の実験、アレスの動向、どれも人類の未来に欠かせないものだ。
それらに比べれば、接近してくる小さなデブリは、それこそ些事に過ぎなかった。大抵は自動で消滅させる。だが、今回は少しばかり違った。
自動で対処出来ないと判断したシステムが、手動を提案するアラームを鳴らす。音はそれなりに大きいが、まあ、これも割とよくある話だ。だから、担当員もまたか、といった感じでモニターを覗き込む。これが違和感に変わったのはここからだった。
「ん?」
モニターを見た担当員が首を傾げる。映っているのは、とてもデブリには見えない小綺麗な艦艇だ。
だが、どこかの艦が着艦を求めるような通信は入ってない。それどころか、エンジンすら点火されていないように見える。
「エンジントラブルか?」
そう思い、拡大してから内部の熱反応を確認する。そこで、違和感が異常事態へと発展した。
「なっ!!?」
「どうした?」
担当員の大仰な反応に、隣の男が反応する。そして、その男もモニターを見るや絶句した。
「どういうことだ、これは!?」
モニターに映ったもの、それが示すのは、艦内にこれでもかと敷き詰められたアレスだ。
施設内に戦慄が走る。トップとおぼしき男の指示で、すぐに撃墜命令が出された。だが、それを嘲笑うように、死をもたらす箱は右へ左へと躱す。
「どういうことだ!?エンジンはついていないのだろう!?」
理不尽を嘆く声はしかし、艦が施設にぶつかった爆音によって掻き消される。死の箱から、絶望が解き放たれた。
艦内のモニターには、軌道エレベータにぶつかった艦艇、そこから沸き出るアレスが克明に映し出されていた。
「どういうことだ、これは!!」
通信機に向かって怒号が飛ぶ。返ってくるのは無言。
「どうしますか?」
叶愛が感情に乏しい声で聞く。それでも、僅かに動揺しているのを
「利用できるものは利用する。全面戦争なんかさせてたまるか」
「了解、進路反転させます」
だが、アレスは別だ。あれがそのまま軌道エレベータ内を通って、地球へ降下されては困る。
「ごめんな、栞」
「私は大丈夫だから」
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