第九話 ~ リリエラ・ヴィスト・バートリオ ~
第九話 ~ リリエラ・ヴィスト・バートリオ ~
『初めまして、私はリリエラ・ヴィスト・バートリオだ』
オープンチャンネルで通信が入る。モニターに映し出されたのは、女性と見紛うほど美しい青年だった。蒼髪蒼眼、整った顔、透き通った肌。その全てに見るものを魅了する力を感じた。
彼が乗っている機体には『NGTM AEU-00s
だが、
青年があからさまな溜め息を吐く。それさえも美しいと思えてしまう。
『剣を下ろしてくれないか?こちらに戦闘の意思はない』
凛とした声は、青年を好印象に見せる。話し方も、モニター越しの雰囲気も、彼を気高く見せる。だが、いや、だからこそどこか油断できない何かを感じた。
ティルピッツが刀を下ろした。信用した、と言うより妥協した、と言った感じだった。
『何しにきた。いや、そもそもどうやって来た』
『どうって、見れば分かるだろ?ノアに乗ってきたのさ』
ノアとは恐らく宙に浮いたあの艦の事だろう。しかし、
『ふざけているのか?』
『いや、すまない。変わったなと思ってな。前はあんなにあどけない少女だったのにな』
どうやら、彼と
『バートリオ、久しぶりだな。ちょうどイラついていたんだ。こっちに上がって来い。私が許可する』
話に割り込んできたのはイヴだった。
『イヴローラか。そうか、君も一緒だったか。そうだな、そうしよう。お互い多忙の身だろう。積もる話は移動しながらとしよう』
こうして、
オイローパに収容される直前、
『気をつけろ、瑞希。あの男、
『え?
『だから気をつけろって言ってんだろ。隊長達とどんな関係かは知らないが、ここでオイローパが沈められたりしたら
生で見ると、それは一層美しく思えた。
「改めて、私はリリエラ・ヴィスト・バートリオだ」
立ち振舞い、姿勢、表情、雰囲気、どれをとっても人間とは思えない程に神掛かっていた。いや、
今、皆が集まっているのはブリーフィングルームだ。簡易的に椅子を高そうなものに代え、ディスプレイ付きのテーブルにテーブルクロスを敷いただけだ。
と、言うのも、オイローパには客間と呼べるものが無い。昔はあったそうだが、今はイヴの趣味で別の用途に使用されているそうだ。機会があれば見に行きたいのだが......。一応、普段なら隊長室でもてなすのだが、何故か
ここに集められたのは、
何故か微妙に重苦しい空気の中、リリエラは自己紹介を飄々と続ける。
「私は
「なっ!」
「な、なにしてんだよ、
「分からないか?!ここに敵のトップがいるんだ!それを見過ごせるか!」
殺気立つ
違和感を覚え、
「賢明だな。よく周りが見えている。だが、無知過ぎるな。世界は君が思っているよりずっと広い」
「部下が無礼をした。一応、詫びておこう」
「何も話してないんだな。だが、この状況では、彼の行動が正解だろう。いや、君達が異常だと言うべきか」
挑発とも取れるその言葉に、
「まあいい。私が言うことではないだろう。私の用件はこっちだ」
そう言って、リリエラが一枚の写真を出す。それを見て、
「この娘は?」
「独自に行方を追っているだけだ。心当たりは?」
「......ないな。イヴは?」
「さあ?人間の顔なんかいちいち覚えてない」
嘘だ。二人はこの少女を知っている。それどころか、
「そうか、そっちの二人は?」
「自分は何も」
「俺も......です」
つまり、こうしろと言うことだ。
「そうか、君達なら知っていると思ったが。まあいい、私の用はそれだけだ」
リリエラはそう言って、立ち上がった。
「口調はイヴローラの真似、態度は
退出際、リリエラが
『コンディション・レッド発令、コンディション・レッド発令。隊長、
オペレーターのアナウンスが状況の切迫さを伝える。だが、リリエラは笑っていた。
「おやおや、今日はアレスも元気がいいようだ」
そう言いながら、こちらを向く。その表情はどこか楽しげだった。
「置き土産に私の戦いを見せよう」
そう言い残して、リリエラはハッチへと向かった。
目を開けると少女は光の中にいた。これはいつの記憶だろう。心当たりがありすぎて、明確な答えが出せない。いや、そもそも、これか現実の物という可能性もあった。だが、少女にとってはそんな事はどうでも良かった。
「目が覚めたか?」
自分の頭上から声が聞こえた。そこで始めて、自分がベッドの上に寝かされている事を自覚した。ベッドというより、手術台の方が適切だろうか。しかし、それも気にするに値しない事だ。
「私が分かるか?」
男が少女に聞く。返事をしようとして、気付く。声が出ない。仕方がないから、緩慢な動作で首肯した。
「そうか、良かった。」
男が安堵の表情を浮かべる。男は少女にとって、父と呼ぶべき人だ。血の繋がった
父が自分をどうしたいのかは分からない。だが、自分がどうなっているのかは分かる。要するに、人間兵器だ。大人の都合で作られ、大人の都合で壊される。それが少女の背負う運命だ。
「家族はもう二人だけだ」
父が、悲しげに目を伏せる。少女には兄妹がいた。顔がそっくりだと、父によく言われた。瞳や髪色は母と同じで綺麗な灰色だ、と。
「私が間違っていたのだろうか?母のようにはさせまいと、願ったのが悪かったのだろうか?」
父の頬を伝った雫が、少女の顔へと落ちた。それを無機質な瞳で眺めやる。
「そろそろいいですか?」
父の後ろから、男が現れる。父はそれに頷いた。少女が別の部屋へと連れていかれる。これから何をされるのか、そんな事には興味がなかった。
こんな夢から覚めるのはいつだろう。
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