第八話 ~ 蒼 ~
第八話 ~蒼~
艦内の大型モニターの隅に出撃準備をする少年の姿が映っている。勝手が分からないのだろう、マニュアルを片手に気難しい顔をしている。
「そんな顔をするくらいなら、なんで行かせたんだ?」
席の脇から、容姿に似つかわしくない声でイヴが問いかける。相変わらず赤いワンピースを着て、荘厳な態度をとっている。だが、やはり
「お前が出た方が早いだろう?案外、過去の自分と重ねた、等というつまらぬ事情だったりな」
この一言で、
「同じ事を繰り返す、というのも悪くはない。今の私は、あくまで傍観者だからな」
イヴが意地の悪い顔をする。すると、いままで無言だった
「私と同じ事を繰り返そうとすれば、私が止める。そうならないように、この艦に乗せたのだろう?」
返答はなかった。だが、
「過去の自分と重ねたのは私だけではないだろう?自分の無力さを嘆いたのは、私だけではないと記憶しているが?」
今度は、イヴの表情が変わる。明らかに嫌な表情を見せた。少女の姿によく似合う、少し泣き出しそうな顔だ。
「以前の言葉は撤回する」
「ん?」
「性格が変わったとばかり思っていたが、やはりお前はお前だった。なんというか、少し安心した」
「それはお互い様だ、私もほっとしている」
二人の顔に穏やかな笑みが浮かぶ。戦闘状態の為、誰もその事には気付いていないようだった。
モニターに映る少年の乗っている機体がハッチへと運ばれる。その表情には決意が感じ取れた。
自由落下の影響で内臓がぐちゃぐちゃになったような感覚に襲われる。天地が分からなくなり、身体も思うように動かない。けれど、頭だけはよく働いた。
(やばいやばいやばい!)
「っっっ!!ぶはぁ!」
衝撃で一瞬息が詰まる。アンリから聞いていたとはいえ、自動操縦の存在を一瞬疑ってしまった。安心感から、肺が空になるまで息を吐き出す。しかし、戦場はその余韻に浸ることを許さなかった。
「もうこんな近くに......」
手が、足が、震えているのは自覚していた。恐怖心が無いと言えば嘘だ。でも、目的のために、覚悟は決めなければいけなかった。
「行くぞ!」
それに、透から対策は聞いていた。
(行ける......行ける!)
そして、
ギィン――
「えっ!?」
アラドの刃は
動きが止まったグラーフ・シュペーの横っ腹に触手がぶち当たる。
「うわぁぁ!」
為す術無く吹き飛ばされ、機体が軋む。起き上がろうとするグラーフ・シュペーに
「くっ!」
アラドArを横に振り払い、なんとか取り付かれることを免れる。幸い
『
「大丈夫、機体に損傷はないよ」
『もう少し耐えろ、すぐ向かう!』
「分かった」
通信が切れ、
アラドを構え直した。一度呼吸を整える。
「うおぉぉ!」
再び
目の前を紅い何かが通った。瞬間、
「ティルピッツ......あ、
しかし、その問いに答えることもなく、ティルピッツはグラーフ・シュペーを蹴り飛ばした。衝撃で息が詰まる。大したことは無い程度のものだったが、
「な、何を!」
言い掛けて、戦慄する。先程までいた場所に巨体な蒼い閃光が走った。それは、一瞬で
『随分な挨拶だな』
蒼い機体が艦から飛び降りる。その姿を見ながら
『リリエラ・ヴィスト・バートリオ......!』
舞い降りる姿はまさに天使だった。
現在、地球には赤道上に三本の柱が存在する。それぞれ「アーキュナイ」「アルククインテ」「アルクトリー」と名付けられたそれらは宇宙と地上を繋ぐ方舟だ。それを支柱に、衛生軌道上でリング状の透過太陽光発電システムが展開されている。
しかし、これらは全て
「これが新たな火種になることくらい分かっていただろう」
天を突く御柱を仰ぎ、
周辺の街はこの起動エレベータのお陰で、非常に発展している。そして、それ異常に警戒レベルも高い。と、言っても、警戒対象はアレスと国際指名手配者くらいだ。
「手配書には顔写真は付いてないし、余裕だな。
「はい、荷物検査の偽装は順調です。無事に通過した模様です」
「上手く行きすぎだな。監理局に警備の強化でも進言しとくか」
そう嘯きながら、
軍事用のリニアカーだと最短で約三十分という短時間で行くことが可能だが、民間用は約六時間かかる。それでも、宇宙に四分の一日で飛び出せるのだから、技術の進歩には驚かされる。因みに、「シャイニング1」までだと民間用でも約一時間で行くことが可能だ。
手続きを済ませ、
「そう言えば、初めてだったな、宇宙に行くのは」
少女は、無言で頷く。それを微笑ましく思いながら、少女を宥めるように
「大丈夫、俺がいる。今度は、もう離れないから―――」
少女は、その言葉に、安心感を覚える。懐かしいと感じる。
「―――だから、大丈夫だ。
灰髪の少女は、微笑んだ。
加速による負荷を感じながら、
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