第七話 ~ 新たな一歩 ~
第七話 ~ 新たな一歩 ~
カスピ海に面した平野で砂塵を巻き上げて進む大群があった。アレスだ。数は200体程。向かう先は古びた港町だ。
彼らの行動原理は栄養摂取のみ。それ以外に興味を示すことはほとんどない。そして、質の悪いことに補色対象とするのは四肢を備えた人型の生物だけだ。
町から
最初こそ遠距離からの重火器での攻撃で多少の被害を与える。だが、徐々に距離を詰められ、近接戦を強いられる。
「やられてたまるかぁぁあ!!」
機体のコックピット内で兵士の一人が雄叫びをあげながら、力任せに武骨な大剣を振るう。それが功を奏したのか、一振りで
「やった!はは、どうだ!...は?」
喜んだのも束の間、後続のアレスが襲い掛かる。全力で振りぬいた大剣は、すぐに二撃目を入れるにはいささか取り回しが悪かった。
最後にはコックピットハッチが力任せにこじ開けられ、
「た、大佐!たすけ......!」
無線でテオドールから指令室へ通信を入れる。だが、それを受け取る相手ももう、既にいない。他の機体も似たような状況だった。
臨時司令部として構えられた急造の基地は、小型のアレスによって壊滅させられていた。司令室は赤く染まり、屍には人ほどの大きさのアレスが群がっている。
「く、くるな!くるなぁあ!」
廊下の隅でナイフ状の
男の後ろには、腹部を食い千切られた女が横たわっている。呼吸も弱く、もう助かる余地はなかった。
男が力を振り絞って、接近してくるアレスの一体を蹴り飛ばす。恐怖心は持っているのか、周囲のアレスの動きが一瞬止まった。
その隙に男は女を抱き寄せる。
「ごめんな、カタリーナ......」
そう言って、男は手榴弾のピンを引き抜いた。
――一瞬のうちに蹂躙され尽くした町の数キロ地点。光学望遠の範囲ギリギリに浮遊する艦の姿があった。
「中将、報告します。テオドール・リーデル15機、
「ふむ、やはり急ごしらえの物だとこんなものか」
部下の報告を聞き、中将と呼ばれた巨躯の男は複雑な表情を見せる。その言葉を、後ろから痩せこけた男が否定した。
「感情なんて人らしいものを兵器に載せるからですよ」
痩せこけた男は下卑た笑みを浮かべる。巨躯の男が一瞥するが、痩せこけた男は特に気にした風も見せずに続ける。
「不満ですか?ですが、事実です。兵器に感情など、不必要なのですよ。現に、彼女は素晴らしい成果を見せてくれますよ。そのために彼女らに頑張ってもらっているのでしょう?」
不潔な笑い声を上げる男を、しかし誰も、非難しようとはしなかった。事実だと、暗に肯定していた。大切なもののためには、犠牲は仕方ないことだと、皆が黙認していた。
男の笑い声は尚も響く。
オイローパの中、艦の中部に位置する鍛錬室。そこで
「
「こ、こう?」
「違う違う!もっとぎゅんとだ!」
「わけわかんないよ!」
さっきからこの調子だ。
「なにしてんの?ダンス?」
「んなわけあるか!指導してんだよ瑞希に!」
「ふーん」
その言葉を聞いてアンリが懐疑そうな顔をする。
「はぁ、
「え?あ、うん」
「はぁ?!俺が教えてるだろ?アンリは引っ込んでろよ!」
だが、アンリも啖呵を切られた位で退くような女々しい少女ではなかった。
「あんたの教え方が悪いからでしょ!?」
上官をあんた呼ばわりするのはいささか以上に問題がありそうだが、その勢いに
「さ、始めましょう!」
「......はい」
その笑顔に一抹の不安を抱えながらも、
「と、その前に。これ、さっき
はい、と渡されたのは黒いグローブだった。その形状に
「これ、
「そ、下士官用の安物だけど多分使えるはずだって」
「ふうん」
高まる興奮を抑えて平静を装いつつ、
「
アンリが瑞希の
「なに、これ?」
そこに映し出されたのはNo Dateの文字だけだった。アンリと
『コンディション・レッド発令!コンディション・レッド発令!各自、持ち場に着いてください』
「
「分かった!」
艦内全体が急に慌ただしくなる。コンディション・レッド、つまり、緊急戦闘配備だ。アレスが近くにいることを意味する。
シートに着くと、パイロットスーツとシートがコードで繋がれる。それを確認してから、起動ボタンを押す。前面のモニターにMPTW-03
「えっと、これが前進でこれがジャンプ?これで右腕をあげて......」
『やっほー!』
「ア、アンリ?なんで?」
てっきり、アンリも
『この隊、
「どんなって......よく分かんない」
『まあ、そりゃそうよね。安心して、その機体、比較的新しいし、補助も付いてるから。あ、でも壊さないでよ!その機体、私のなんだから!』
「善処する!」
ハッチまで運ばれ、
モニターに戦況が表示される。アレスの数は27体、こっちの戦力は
「エンジン始動、電圧安定、神経コネクト良好、
『はいはい。ハッチ解放、重力子制御異常なし、落下点クリア、システムオールグリーン、
アンリのアナウンスを聞いて、息を大きく吐く。胸ポケットにしまってある栞に手を触れる。大丈夫、と自分に言い聞かせる。
ランプが点灯し、緑色へと変わる。それを見留めて、
「
気合いをいれる為に大きな声でそう言って、
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