第五話 ~ その手の中には ~
第五話 ~ その手の中には ~
地下深く。ひんやりと冷たい空気が肺を満たす。暗闇の中を頼りない光がぽつぽつと灯っていた。施設と呼ぶには余りにも非現代的な造りだ。
「
「問題はありませんが、未だに起きる気配がありません」
「それはそれで良かったかもな......」
横たわった少女を一瞥し、
「
「了解」
短く返し、
ほぼ無音、風の流れすらほとんど感じさせずに着陸したそれは、黒光りの船体を持つ飛行船艦だ。側面には『
艦の前にはティルピッツが屹立していた。
それらを囲むように、
ティルピッツのコックピットハッチが開き、少女が降りてくる。紅みがかった黒髪をなびかせる少女は、刃物のような鋭さと冷たさを感じさせた。
「世界連携機構ユーロ連合圏東部部隊所属
「
「
「俺は
だが、取り乱すこともなく、すぐに淡々とした口調で話し始める。
「なるほど、
責めるでもなく、貶すでもなく、
「賢明な判断だな。だが、これ以上
やはり冷徹に、一切声音を変えずに
「これより、
「ちょ、ちょっと待ってください!そんな報告来てません!」
「拒否権はないと言った。それに、これは私の独断だ。嫌なら上に泣きついてみればいい。上が通信に応じてくれるのならな」
反論を許さぬ威圧感を残して、
「
その言葉に、
「イヴ、そんな事を言うためにここにいたのか?」
「そうだが?」
だが、対するイヴの方は、堪えた様子もなく表情を変えずに
「そんなに自分を責めなくても、良いと思うのだがな」
すれ違い様に、イヴが囁く。その言葉に
「赦されて......いいはずがない」
自分に言い聞かせるように呟き、
「仕方ないよな、うちのお姫様が決めたんだから......」
「あーもう!何なのよ、あの女!」
ぎゃおぎゃおと人の家で喚いているのはアンリだ。出来ればもう少し静かにして欲しいと思う
「しかも本当に上と繋がらないし!実はあいつが根回ししてんじゃないの?!」
だが、収拾がつきそうにない。アンリの怒りは徐々にヒートアップしていく。それにつれ、
「落ち着け、アンリ」
「落ち着け、て、あんたはそれでいいの?!
「今は上官だぞ、俺。お前の隊長なんだが」
「知るか!このイケメンヘタレ!」
アンリの罵詈雑言に
少し落ち着いたところで、再び
「現状、俺達に出来ることはほとんどない。上層部との連絡がつかない以上、物資の補給も望めない。その点では、多少危険でも
「
その言葉に
「上層部からの指示がない以上、本来ならお前も行動を共にするべきなのだろう。でも、俺は反対だ。俺はお前を解放しようと思っている」
「ちょ......ちょっと、
アンリの驚きも無理はない。素人の
だが、
「俺は......」
だが、違和感が、
唐突に頭の中を何かがよぎった。違和感の理由は自分の手の中にあった、あったのだ。自分の命を賭してでも、やり遂げたいことが......。
開いた手の中で、真っ白な栞が光を浴びて煌めいた。
そうだ、俺は―――
「今後の方針が決まった。現在我々はユーロ連合とシベリア連邦の国境付近に位置している。上からの命令は
一瞬、場の空気が変わる。誰一人声には出さないものの、驚きが伝わった。それが任務の内容なのか、はたまた目的地に対するものなのかは
「道中、どう足掻こうがアレスと遭遇するだろう。極力避けたいが、
「了解」
一糸乱れぬ返答が響く。ブリーフィングが終了し、各々が持ち場へと動こうとしたとき、この空気に似合わぬ声が待ったをかけた。
「あ、あの!」
「ん?
軍属相手より微妙に柔和な声音に逆に緊張しつつ、
「お、俺を、隊に入れてください!」
「なっ......」
この発言に度肝を抜かれたのは、どうやら
「ちょっと
「そうだ、命を落とすことにもなりかねないのだぞ?」
アンリが凄い形相で
「それに、私一人の権限では......」
「私が許す」
言葉を濁す
「別にいいだろう、そのくらい。危険なことくらい言われずとも本人が分かっている」
その場にいた全ての人が凍り付いた。その少女は、
少女はその視線を不快に思ったが、すぐに得心がいったように口を開いた。
「そういえば名乗っていなかったな、私の名はイヴローラ・アイネ・フィリップ・ローズクライン」
少女は自信たっぷりにそう言う。そして、不適な笑みを浮かべて、言い放った。
「
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